Ex冒険者カイル

うさぎ蕎麦

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1章

89話

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「ごめんなさいねぇ、私綺麗なモノは嫌いなのよ」

 仲間が一瞬でやられてしまったが、勇敢にも魔聖ルッカに突撃をする美しく綺麗で小さな鳥、アイスバードに対しては自らの足に炎属性を付与した後に鋭い蹴りを放ち、小さな身を吹き飛ばしながら水すらも残さず蒸発させる事でその命を奪った。

『つっ』

 確かにアイスバードも魔物である。
 しかし、ルッカ・ランティス全体をあまり知らないルミナスですら、彼女の性格の変化に対し寒気を覚えてしまった。
 どうしてここまで残虐になってしまったのか?
 ルッカの心に触れたルミナスは、おぼろげながらも分からない訳では無かった。
 彼女の優しい性格から、決して表に出る事の無かった闇が賢神の石によって引き出された事。
 優しい性格が故に抑え込まれていた負のエネルギーがあまりにも膨大であった事。
 制御装置が外れ、覚醒された負のエネルギーが彼女をここまで残虐にさせてしまったのだろう。
 今ルッカの放ったセリフは、恐らくルミリナやアリアに抱いていた心理なのかもしれない。

「ねっ、ここで待っていればカイルが来るんでしょ? 私待つわ」
 
 勇神の剣が眠る部屋への隠し階段がある部屋の真ん中で、魔聖ルッカはライバルであり好意を寄せる存在であるカイル・レヴィンが訪れる事を待つ事にした。
 ―カイル一行―


 俺達は上空を飛び先を行く魔聖ルッカさんを目で追いながら、永氷の洞窟目指して山道を歩き続けた。
 道中、相も変わらず隙あらば寒いギャグを言いやがる闘神の斧に対して突っ込むのも面倒だと思ったはいいが、それはそれで寒いギャグを連発されると言う地獄の様な状況に耐えながらも雪に覆われ白く染められた道を進んでいった。

「フハハハハ、皆の者よく聞くがよい、ここが我々が探し求めていた永氷の洞窟であろうぞ!」

 エリクさんだ。
 相変わらず彼は謎のキャラを演じている。
 お祓いの一つでもしてやりたくなるが、どうせ無駄な事だろう。
 良く分からない事を抜かしおるエリクさんをたしなめた後に、ルッセルさんを先頭として永氷の洞窟の内部へ侵入した。
 
「変ですね、魔物の気配がしません」

 ルッセルさんが神妙な顔をして言う。
 そう言われてみれば気配がしない様な?
 と思っていると、セフィアさんもルッセルさんに賛同し、何かが可笑しいと言った。
 続いてアリナさんも同様の意見を述べた。

「うーん、もしかしたら先に入ったルッカさんが敵を倒したかもしれないですよ」
 
 エリクさんの言う通り、新しい力を手に入れたルッカさんが1人で洞窟の中に入り魔物を倒した可能性は考えられる。
  だとしたら、この先で俺達を待つルッカさんが現れても良いと思う。
 
「そうですね、他に脇道もありませんし先に進むしか無いでしょう」

 ルッセルさんが合図をし、洞窟の奥へと足を進めた。
 洞窟の奥へと進み、部屋の入口に差し掛かったところで見覚えのある女性の姿が視界に入った。
 魔聖ルッカさんだ。
 しかし、何か可笑しい気がする。
 ルミナスさんの力を借りて魔族に近い風貌をしているまでは良いのだけど、気配や雰囲気まで魔族そのものだったっけ?

「あーはっはっは、待ってたわよ! カイルッ、会いたかったんだからッ」

 高笑いをし、俺に右手の平を向ける魔聖ルッカさん。

「危ないぞい!」

 何かを探知したアリナさんが咄嗟に『魔法抵抗(レジスト)』を俺に掛ける。
 魔聖ルッカさんが俺に右手の平を向け、アリナさんは俺にレジストを掛けた。
 今から俺の身に何が起きようとしているのか脳の処理が追い付かないまま、魔聖ルッカさんの手のひらから紅蓮の業火が放たれた!

「何するんだ!」

 俺は咄嗟に盾を構え魔聖ルッカさんの放つ紅蓮の業火を受け止めた。
 紅蓮の業火は俺の盾に触れるとその勢いを止め宙に描き消えた。
 アリナさんが掛けてくれたレジストのお陰だろう。
 今の炎を見る限り、これが無かったら盾ごと俺の身体も溶けていたかもしれない。

「あははっ、簡単だよ、私のチカラを貴方に教えてあげたいだけ」

 魔聖ルッカさんは、邪悪な笑みを浮かべると俺に向け強襲。
 間髪入れずにアリナさんが『防御障壁(プロテクション)』を掛ける。
 アリナさんのプロテクションが掛かった直後、魔聖ルッカさんからの鋭い蹴りが俺を襲った。
 俺は盾で蹴りを受け止めるも、威力はすさまじく壁まで吹き飛ばされて叩き付けられてしまった。
 幸い、強力なプロテクションのお陰で大した痛みも身体へのダメージは感じられないが、アリナさんのプロテクションが無かったら内臓破裂だの肋骨が折れても不思議では無かった。

「教えてどうするんだよ!」
 
 俺は地面に向け唾を吐き捨てると、ゆっくりと立ち上がった。
 ルッカさんの何かが可笑しい。
 魔聖石のせいか? いや、それならセリカさんも同じ様な事にならなければ説明が付かない。
 だけど、他に思い当たる節は―

『賢神の石、あやつのせいじゃ』

 闘神の斧だ。

『お嬢ちゃんの目元をよく見るのじゃ、邪悪な気配に染まっておるじゃろう』

 確かに、何かが可笑しい。

『大方あやつの能力の餌食になったのじゃろう。 人の欲望に付け込み支配するのじゃ』

 つまり、今のルッカさんは賢神の石に操られている?
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