目が覚めたらαのアイドルだった

アシタカ

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第十五幕 鮫島遊星side

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やっとだ。
やっと効いてきた。

ニヤつく口元を手で隠しながら、スタジオから控え室へと向かう。

あのΩ、目障りだった。
潤太の運命だなんて言い始めて、潤太もその気になっちゃって、邪魔だから排除しようとした矢先に、事故に遭っちゃって……

面会に来なかったくせに、どの面下げて連絡してきたんだと思った。

潤太が既読を付ける時、同じ画面を見ていた俺は怒りで我を忘れてた。だから潤太が家を出てあいつの元へ向かった時、「行かないで」と声を振り絞ることしかできなかった。

ばたんとドアの閉まる音が嫌に大きく聞こえて、俺と潤太の間に大きな壁ができた気がした。
いつの間に落としたのか、足元には泡のついた皿が割れており、そのすぐ側でしゃがみ込んで放心状態に。

絶望から我を思い出したのはスマホに届いた通知。潤太が徒歩のスピードから急に速くなったからだろう。

Mホテルに向かってるんだ……

気持ちの悪い媚びたメッセージ。
自分よがりで、呼べば来ると確信した物言い。

あんな下品な奴が潤太の運命なわけがない!!!

だって俺が!潤太の運命なんだから!!

割れた皿もそのままに、着の身着のままスマホだけを握りしめて家を飛び出る。
エレベーターを待つのも焦ったくて、非常口の階段を使い駆け抜ける。

俺たちを邪魔する奴は排除しなきゃ。

辿り着いたMホテルで、ようやく潤太を見つけた。
虚ろな瞳で、俺のいるところまで吐きそうな臭いがする部屋へ、吸い込まれるように足を踏み入れていた。

名前を呼んでも聞こえてないみたいで、さっきと同じように目の前でドアが閉まった。
胸が締め付けられるほど痛かったが、これは乗り越えるための困難だから、すぐ助けるよ潤太。

「待ってて潤太。」

非常時の斧を使って部屋のドアを開けて、ベッドの上なのは気に食わないけど、ゲロ塗れの潤太を捉えた。
一目散に駆け付けて、優しく声をかけると安心したのか目を閉じた。

後は任せて。

さっきまで漂っていた吐き気を誘う臭いは無くなり、慌てふためく汚物がいた。
禁止薬物、擬似発情ヒートを引き起こすやつでも使ったんだろう。

やっぱり運命なんかじゃなかったんだ。

でも、それはそれ。
潤太をこんな目に合わせたことは許さない。
軽くお灸を据えておかないと、そう思って自慢(笑)らしい顔が腫れるまで引っ叩いてやった。

泣き始めたことで余計に気分を害されたけど、潤太を一刻も早く連れて帰りたい欲が溢れて、気持ち悪くて顔面蒼白な潤太を背負いタクシーに乗り込む。

すぐに寝てしまった潤太を、起こさないように横抱きして部屋まで運ぶ。
お風呂に入れて、パジャマを着せて、マーキング。

この服はもう要らないよね。
割っちゃった皿も片付けて、潤太の寝顔を眺める。

何時間でも見てられる。
呼吸すら愛おしい。

上下する胸を見てふと時計を見ると1時間が経っていた。

そろそろ潤太も起きるだろう。
雑炊くらいなら食べれるかな?

そう思って作っていたら、完成間近で潤太が部屋から出てきた。
俺のパーカーに袖を通した潤太は気怠げな雰囲気でそのままソファへ横になった。
クッションを抱きしめてぽやぽやした表情の潤太が、時折袖口を口元へ持っていき匂いを嗅いでいたのを見た時はあまりの可愛さに心臓が止まるかと思った。

その日から潤太は日に日に可愛くなっている。
元々可愛かったのに、困るほどに愛くるしい。

俺に身を任せて、弱い姿を見せてくれる。
目が合うと照れながら笑顔を向けてくれる。
俺が駆け寄ると嬉しそうにしてくれる。

好きが溢れて潤太の持ち物全てにマーキングをした。俺のフェロモンを付けていただけだけど、潤太は匂いが落ち着くと言って受け入れた。
その時は柔軟剤が変わったと思ってたみたいだけど、さっきの一言……「その香水いいな」って俺の首筋に潤太の鼻息がかかる。

香水なんてしてないよ、潤太。

その事実に一層にやける。

俺のフェロモン、そんなにいい匂いした?
やっぱり相性がいいのかな?

控え室に到着、中に入ると同時に潤太の鞄を漁る。内ポケットから薬ケースを見つけて、中の錠剤の残を確認する。

俺がいない時もちゃんと飲んでくれてたんだね。

カラカラと音のするケースに4回分の薬を追加する。前の薬は潤太が嫌がったから、新しくしてみた。もちろん俺が試して安全性はバッチリ。

『Ω用の発情剤』

発情を促すための薬。危ないものじゃない。
時期が来るまで自然に任せるという風習は、イマドキじゃない。
思春期を過ぎても発情がこないΩは、突然始まった時対処することができず、フェロモンレイプが起こる。そこで、遅くても15歳までにこなかった場合、16歳になったΩに処方することが推奨された。

副作用にちょっと吐き気がするし、Ωのフェロモンに嫌悪を感じるくらいあるけど……大したものじゃない。

ネットで囁かれてる別の使い方は「αに使うとΩ化する」という内容。馬鹿げてると言う人もいるが、ある裏サイトで1つの動画がそれを証明した。

元々裏サイトで人気のチャンネル主で、調教動画を主としていた。
噂の出所がこのチャンネルだったのは一目瞭然。
αの男に投薬し続け、ついにΩのようにαのフェロモンに反応するようになったのだ。後孔は濡れ、胎が疼くと乞い叫ぶ。

子宮はないし、血液検査もαのまま。

だけど……最初は威勢が良かった男が、男を乞うようになった。演技じゃないことは同じαなら気づいただろう。
だからこそのあの閲覧数に登録者数。

巣を作り、頸を噛んでと涙ながらに訴え、噛まれると幸福そうな表情をしたあのαを思い出し、潤太を重ねる。

「あと1ヶ月かな♡」

一連の調教動画に、俺の熱は昂った。
すぐさま薬を購入して、潤太にはビタミン剤だと言って、誰にもお裾分けしないようにと約束した。
また綾人くんにでもばれちゃたまんないからね。

うっとりと薬ケースを眺めて未来を想像していたら、俺のスマホが軽く震えた。
届いた1通のメールは、俺が待っていた東堂司の身辺調査。

家庭環境は普通、それなりの愛情、そこそこの学校、夢を見たのが悪かった。
度胸もそれに見合う器量もないのに、芸能界に夢見て芸能事務所の門を叩く。
そこがブラック事務所とも知らずに。

Ωがカモにされてることで有名だけど、情報収集をまともにしないバカは甘い蜜に釣られてまんまと入所する。
研修費の支払い、枕、過激な撮影、果てにバックにはヤクザ。

どうもフェロモン増強剤を使って、有名なαの芸能人片っ端から引っ掛けてるようだ。
それに、潤太を選んだ審美眼は褒めてあげるけど……随分と舐められたもんだよね。

潤太に粉かけて既成事実?
αがただの獣だと思ってるのか?
獣にだって好みはあるんだよ?
ゲテモノ好きのαを狙えばいいのに、潤太を狙ったから握り潰さなきゃならなくなったんだよ。

「もしもし?ええ、調査結果拝見しました。ありがとうございます。はい。事前に言ってた通り、週刊誌にネタ売ってもらっていいですよ。はい、それでは。」

潤太の鞄に薬ケースを仕舞いながら、調査を依頼してた私立探偵事務所に電話をする。
東堂が所属している事務所の黒い噂やその現場、所属タレントのΩの証言など、調査過程で仕入れた情報を全て週刊誌に売って欲しいと頼んでいた。

これであの事務所は閉所、タレントは路頭に迷うか、ヤクザの手によって夜の世界へ借金地獄……なんてね。

あんまり手間かけたくなくてお任せコースにしたけど、もう東堂は現れないから満足。

潤太のスマホを取り出して、パスコードを入力し開く。2画面めの1番右上のフォルダを開いて、2ページめの左下にあるアプリを開く。
ぱっと見ただけじゃ、ハートマークのアイコンはヘルスケアのアプリだと無視されがちで、それなら思惑通り。

画面、音声、カメラ、位置情報を共有できるカップルおすすめのアプリ。
お互いの全てを知ることができるという謳い文句から、それなりにダウンロードされている安全性の高いものだ。

東堂がメッセージを送ってきたときも、このアプリで一緒に見てたし、位置情報もこのアプリが教えてくれた。

共有するだけで、メッセージの削除や相手をブロックするのは、潤太のスマホからじゃないとだけど、パスコードは昔から決まって『153706』。
潤太が、潤太の両親と暮らしていたマンションの住所と部屋番号。

今の潤太は顔認証でスマホを使ってるから、知ってるのは俺だけかも。

潤太の両親は優しい人たちだった。
αとβの珍しい夫婦だったけど、たくさんの愛情を潤太に注いで、育ててた。
理想の家庭。俺の家とは大違い。

潤太がいた時は俺の両親もそれなりに仲良かった。でも俺がαだと診断された時、初めは喜んだが次第に母の浮気を疑い始めた。
β同士がαを産む可能性はゼロじゃない。なのに醜く罵り合い、果てにDNA検査をと言い始めた。
一度疑えば、例え検査がそれを否定していても疑心暗鬼のままになる。
だから離婚を勧めた。

簡単に崩れ去った家族に、俺は何の感情も湧かず、早く潤太に会いたいとそれだけを考えていた。

αだと分かったとき、潤太が運命だと信じてた。
それは今でも信じてるし確信してるけど、あの時は運命的な再会をして愛を育んでいくんだって漠然と将来を考えてた。
今じゃ計画も立てて、貯金もばっちり。

早く頸を噛みたい。

俺の匂いに惹かれてる潤太はぽやぽやしててかわいい。
カメラに向けるキリッとした魅せ顔はかっこいい。

記憶喪失になってから、見たことのない表情をいっぱいしてくれる無邪気な潤太。

1分1秒ごとに好きが更新されていく。

正直、ここ最近の潤太には参った。
甘いフェロモンの匂いに吐き気を催し、涙目で嘔吐する。吐き疲れて俺に体を委ねる潤太に欲情しかけた。

性癖が歪みそうだったよ。
俺は甘やかしたい派なのに。

スマホを元の位置に戻して、視線を奥にずらす。
ハンガーラックの前に行き、衣装に着替える前の潤太の私服をハンガーから外して、目の前で広げる。ゆっくりゆっくり襟部分を鼻に近づけ、埋める。

スゥゥッと深く吸い込んで肺いっぱいに潤太の匂いを充満させる。

「ハァァ……勃ちそ……」

控え室の大きな鏡に映る自分の顔が、赤く惚けている。

好きだよ潤太。愛してる。

早くここまで落ちて。
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感想 3

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みんなの感想(3件)

Narushika
2024.02.15 Narushika

続きが読みたいです😭

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ぴのこっす
2022.04.03 ぴのこっす

いつも楽しく読ませてもらってます!
本当に遊星のヤンデレっぷりがジャスト性癖って感じです!
尊い…
遊星×潤太が推しなんですが、これからR18とかの描写ってありますか?
(コメント気持ち悪くてすみません(^^;;)

2022.04.05 アシタカ

質問ありがとうございます。
R18はまだ練習途中なので、今回はぬるエロまでにしようと思ってます。
欲が抑えられなかったらR18版を作って書きます。

解除
Lynne
2021.12.30 Lynne

ヤンデレ、オメガバースは尊すぎます!( ´ ▽ ` )遊星のヤンデレがこれからどうなるのか楽しみ(〃ω〃)主人公の無自覚?な感じが尊いです♡
素敵なお話をありがとうございます♪

2022.04.05 アシタカ

コメントありがとうございます。
とても励みになってます。

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