【完結】死に戻り王女は男装したまま亡命中、同室男子にうっかり恋をした。※R18

かたたな

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亡命から始まる物語

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 「それでは面接を始めます。」
 「よろしくお願い致します。」
 「まずは、ここに来た経緯を正直にお話下さい。」

 ボロボロの泥まみれで両手足には鎖の壊れた枷が着いている。
 そんな見るからに怪しい私は改めて身柄を拘束され、見るからに偉そうな学園長を名乗る男性を眺めた。

 ここはトロルゴア。【犯罪者の国】という異名を持つ国。犯罪歴があっても国の管理下に入れば能力に応じた待遇の職や学びが与えられる。
 厳しい管理がされる為に悪事を続けたい者は寄り付かず、大体訪れるのは悪事から足を洗いたい者や冤罪の者。厳しく管理されても何も後ろめたい事は無いと言える。

 無実の罪で亡命中の私は、ここに身柄の保護を求め訪れた。
 管理下に入れば常に監視させるが、その分守られているのと同じだ。

 この国の学園へ入学・入国のどちらかが叶えば身の安全はある程度保証される。しかし認められなければ国に送り返されるだろう。
 送り返されてしまえば私に未来は無いと思う。

 怖い学長の顔を真っ直ぐ見ながら言葉を続けた。
 何を話し、何を言わずに居るべきか考えながら。


◆◆◆


 私は一度、贅を尽くし残虐で横暴な王女として処刑されている記憶がある。

 その私は11歳の若さで女王となり、周囲から「女王陛下の望む事は何でも叶うほど豊かな国だ。国の事は私達に任せて国の象徴として過ごすだけで問題ない。」と言われ、それを純粋に信じ込み過ごした。
 実際に美味しい料理を食し、行事用にドレスは発注したと思う。他国との交流と言われれば言われたまま他国へ向かった。そうしている間に国では残虐で理不尽な事件が多発。
 多くの国民を苦しめ、死に追いやられた。
 その事件の数々は女王である私の指示だとされ、王政廃止へと内乱が起こり、私が処刑されたのだ。


 今は二度目の人生。


 信じられない事だけど、死んだと思った次の瞬間には処刑された16歳の姿ではなく11歳の姿で立っていた。
 ニホンという別の世界で生きていた記憶もこの時甦り更に頭を混乱させる。


 「今日からこの国は貴方の国です。何でも貴方の思い通りになります。さぁ、女王として民に演説を。」


 前にも聞いた私を騙すセリフに我に返ると今やるべき事を考えた。

 外から伝わる多くの人々が集まる気配。
 ザワザワと騒がしい外は、新しい王への期待ではなく不安しか無いのだろう。
 一度目には台本も無く始まった戴冠式の演説。
 横で笑顔を見せる大臣に今なら彼の黒い感情が有ることが分かる。


 一度目の死からの逆行。そこにニホンという別世界で生きた前世の記憶。これは逆行転生というヤツだ。



 私の勝ちだ。


 この時はそう思った。


 一度目の様にはならない。私を陥れた者達の思い通りにはさせない。
 ニヤリと頬が緩んだ。


 そんな有利な状態だったのに現在亡命している原因を簡単に纏めると、警戒していた敵には対応出来たけど影に隠れた敵に対応できなかったから。まんまと罠にはまり無実の罪を着せられ亡命となった。

 演説では自ら王政廃止を宣言し自分で言うのも何だけど立派な演説をした。一度目で擦り付けられた事件を全て回避。
 周囲に置く仲間は一度目の人生の記憶から信頼できる者だけ。多くの国民を救う為に行動した上で信頼も勝ち取った。
 新しい政治の仕組や困る民を救った私は国全体で守護される存在となっていた。

 そんな訳で完全に油断しきっていてすっかり忘れていた一度目の人生で処刑された16歳になる日の事。

 一度目の人生から優しく接してくれる婚約者に「君の誕生日パーティーの為に仲間が集まっている。」そう呼び出され、素直に準備を始めた。

 一部派閥から反感をかい狙われているので、襲われるリスクを避ける為に男装する事を勧められ、今までも同様の対策を取っていたので何も不審には思わず用意をした。
 
 侍女から情報が漏れる恐れもあるので自分で道具を揃えていると婚約者である彼の姿をチラリと見る。

 婚約者の彼は獣人で、頭に獣の耳を持つ。とても強い上に秀才で頼もしい人だ。

 生まれながらに庶民とは比べ物にならない程強大な魔法が使える我が国の王族。
 この国は王族の魔法に守られてきたと言っても過言ではない。
 だけど私の能力は掌に乗る程度の石を出現させるだけだった。
 幼い頃は庶民より魔法が弱いと『石ころ姫』なんて馬鹿にされたものだ。
 そんな私を両親が心配して血筋に拘らず、文武両道で優しい婚約者を見つけたのだ。


 今日で16歳になった。この国の成人だ。
 彼との結婚も近々進めよう。
 そう考えると自分の頬が熱くなるのを感じる。

 ドキドキと高鳴る胸に手を当てて深呼吸してから考える。


 誕生日パーティーが終わったら婚約者の彼に【王家の印章】を渡してプロポーズしよう。


 勿論、サプライズでと思い「着替えてくるね。」と声をかけてから彼の見えない所へ移動し、隠し扉からキラリと光る手のひらサイズの【王家の印章】を取り出してポケットに入れると生地の上から優しく撫でる。

 【王家の印章】は大昔の偉大な魔法使いが作ったとされる国の王である証。
 絶対に破れない契約が出来る王家の紋章入りの印で、契約解除もこの印が無くてはならない。
 王家の人間が強大な魔力を持ち生まれるのもこの【王家の印章】のお陰とも言われている。

 その偉大なる魔法使いは初代王様のお妃様で、民を守る力を与える為、そして愛する王と子孫を守る為に作り出された代物だそうだ。
 これを結婚する相手に渡すのが王家に伝わるスタンダードなプロポーズだった。
 

 (プロポーズってこんなに緊張するのね…)


 考えただけでも指先が震えた。結婚についてはまだ実感が無いけれど、真面目で誠実な婚約者とならなんとかやって行けると思う。


 (今までだって力を合わせて来たんだもの、きっとこれからの生活も上手く行くわ。)


 何を恐れて居るのかも分からない不安が胸にある。きっとマリッジブルーなのだろうと心を静め婚約者の元へ向かった。
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