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ツガイって。
しおりを挟む男装を終えて婚約者に姿を見せると、男装姿を満足げに眺めた後「これなら誰も王女だと気づかない。」と嬉しそうに言う。
そして私を気絶させた。
勿論誕生日パーティーも嘘。
それはあんまりじゃないかしら?
国の為に頑張った重要人物の誕生日パーティーが無いなんて。そっちに泣ける。
手際よく拘束された私は、他国の諜報員が女王の部屋に忍び込んでいたと部下に説明され、罪人処分を行う業者に引き渡される。
◆◆◆
何故こんな事に?
理解が追い付かないまま搬送用の荷馬車に乗せられ、処分を請け負う者が馬の様子を見に離れたであろう時。
ふわりと甘ったるい香水の香りがした。
「会いに来ちゃった。」
「ここへ来るのはダメだと言った筈だ。見られたらどうする。」
「番とは片時も離れたくない気持ち、貴方だって理解しているでしょう?
それに、この邪魔者を処分できたら私達は堂々と一緒に居られる。その瞬間に立ち会いたかったの。半年も長かったわ。」
「そうだな、だいぶ君を待たせてしまったな。王女はこのまま罪人として処刑される。王女行方不明の中、王女の婚約者である俺は王座に座るんだ。頃合いを見て王女の死を公表し、失意の私を支えたとして君は王妃になる。」
「夢の様だわ、待ち遠しい。」
「あぁ、あと少しだ。」
話を聞いていると半年前に私の婚約者は番(ツガイ)に出会ったと言う事がわかった。
番・・・確か、獣人にとって運命のパートナー。出会える確率は低いらしいけど出会えば惹かれてしまう存在だったか。
結構長い付き合いだったのに会って半年の女に取られた訳か。番(ツガイ)というのは恐ろしい。
それに半年前・・・少なくともそれまでは真面目に私の婚約者として支えてくれていた訳ですよね?そんなの見破れない。
最初の人生で処刑される半年前には牢獄に居たから分からなかった。
(だから投獄されてから一度も会いに来てくれなかったのね。)
きっと彼なら無実を証明してくれるのでは無いか、証明出来なくてもそれは彼の手だし出来ない状況なのだと思っていた。
なのに、番が現れたからそのままにしたという事か。
死に戻りして11歳から16歳になるまでの五年間。自分を守る為とはいえ馬車馬のごとく国と民の為に働いたと思う。
それなのに働くだけ働かせて用済みになったら処分とは。
荷馬車に雑に乗せられた私はゴトゴトと響く暗闇の中で逃げる機会をひたすら伺い決死の思いで逃げてきた。
◆◆◆◆
・・・
何はともあれ、今は面接だ。
死に戻りは話さず、今回の人生だけの話をした。
「私はアスティリーシャ・グレングールシアと申します。
隣国の王女でした。今は王政廃止を進めたのでもうすぐ元王女になるはずです。
今の姿は王家に伝わる変装の魔道具を使い男装しています。
婚約者に陥れられまして、私を諜報員として拘束し罪人処分の業者に引き渡された所を抜け出し、亡命しました。
私が生きていれば、番と結婚出来ない為、処分されたのだと思われます。」
「なるほど、確かに諜報員の逃走と行方不明の王女の話は近頃大きな話題になっている。
王家の宝も盗まれたそうだね。
では次に我が国にとって貴方を隣国に引き渡さず、保護する利点を教えて貰えるかな?」
保護する利点!!
これは難しい。なんせ私は「石ころ姫」だ。掌に乗るサイズの石しか出せない。
ニホンという国で暮らした知識で何とか出来ないかも考えたけど、それらの知識は祖国で王女時代に出しきった。既に有るものを提供しても二番煎じになってしまう。
「他国の小さな弱み・・・ですとか・・・。」
一度目の人生ではアホな女王と有名だったから他国へ行った際はなかなか違法とされる物を買わないかと勧誘された物だ。
「ほぉ、それはどのような?」
「ここで言ってしまったら情報だけ渡して祖国に返されるんじゃありませんか?」
「ほぅ、身内の罠に引っ掛かった割にただの間抜けでは無さそうですね。」
「・・・酷い言われようですね。その通りですが。」
私、この人嫌いになった。
しかし、継続的に私を保護する利点を示さなくては難しいらしい。
思い悩み顎に手を当てると腕に着いている枷の鎖がジャラリと音を鳴らす。
学園長は私の手元の何かに興味を引かれた様子だ。
「手足の枷。それは貴方の国で一番頑丈な物では?どのように鎖を壊して逃げたのです?」
「確かに我が国で一番の拘束器具です。私にはただ石を出すだけの能力があるのですが・・・」
「あぁ、貴方は幼い頃、無能の石ころ姫と有名でしたね。」
無能とまで言われてたのは知りたくなかった。
「・・・鎖の輪の中心に大きな石を出現させ、破裂させたのです。手足が自由になってからは荷馬車を飛び降りて、そ」
「国一番の鎖を壊せる強度の石が出せると。なかなが興味有る。」
話途中なのにそこからは聞く気が無いらしい。
荷馬車を飛び降りてからの亡命生活はなかなか過酷だった。だけどニホンで観たサバイバル番組を参考になかなかのサバイバルをしてここまで来たのにな。
サバイバル知識はお呼びでないらしい。
そこで学園長は呼び鈴を鳴らすと現れた秘書らしき人間に何か持ってこさせた。
「この国、トロルゴアが【犯罪者の国】と呼ばれているのは知っているね。これは我が国で最も罪の重い者に着ける国内で最も強度のある手枷だ。」
執事らしき人間が何故かそれを私の腕に着ける。
「これを同様の方法で壊してみてくれますか。」
自分の国が誇る拘束器具を試したいのか。
私は言われた通り、枷を繋ぐ鎖の中に石を出現させて破裂できるか試みる。
だけど疲れきっている頭ではあまり集中出来なかった。
ガシャン!!
枷を繋ぐ鎖の輪の中に石を出現させてみるけど、石が砕け散る。
「・・・凄い強度ですね。」
「ふふふ。」
何だか得意げで腹立つ。
ガシャン!!2度目で少し曲がったかな?という所で。
「よし、君はこれを一週間以内に壊せたら学園に入学を許可しよう。」
「・・・え?。」
「壊せたら何度目で壊せたのか記録を残す様に。今ので2回だ。忘れないようにね。」
そう言われ、私は元々着いていた壊れた手足の枷に追加でこの国最強を誇る手枷を着けられたのだった。
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