【完結】死に戻り王女は男装したまま亡命中、同室男子にうっかり恋をした。※R18

かたたな

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悪夢

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 ゴトゴトゴトゴト。


 荷馬車の音がやけに頭に響く。

 
 逃げなきゃ。
 逃げなきゃ殺される。


 ゴトゴトゴト。

 
 ただ外を通りすぎる荷馬車の音。その音に過去の記憶が甦り完全に寝ぼけていた。

 自分に被せられた布を取るとジャラリと手枷の冷たい音。


 逃げなきゃ、逃げなきゃ。



 「はぁ、っはぁ。逃げなきゃ。・・・殺される。」


 額と背中に嫌な汗をかき、焦る気持ちのまま手枷を暗闇で観察した。外せないか引っ張るけど外れる気配もない。
 そうだ、また石を鎖の間に出現させて・・・。


 嫌な汗を額に滲ませ、必死に鎖へと意識を集中させて魔力を注ぐ。

 何物にも屈しない丈夫な石を。


 …お願い、お願いだから助けて。死にたくない。


 ガシャン!!


 一瞬の光と共に見事にパラパラと砕け散る鎖。しかし安堵したのも束の間。物音で気付かれたのか、暗闇の奥から重い扉がギィと開く音がする。


 早く逃げなきゃ。
 荷馬車の外に。


 咄嗟に何も見えない暗闇を走り出すとガシャンと鉄格子に突進していた。
 鉄格子?あぁそうか、ここは牢獄だ。処刑までの時を待つ場所。ここからでなければ処刑される。
 

 「っい、っぅう。逃げないと、早く逃げないと。」
 「ここは大丈夫だから、落ち着いて。」


 落ち着いた男性の声。この声は・・・コハクさんの声。鉄格子の隙間から私に手を伸ばし背中を擦ってくれる。
 どうやらコハクさん側の鉄格子に突進したらしい。コハクさんを起こしてしまった。

 それにしてもだいぶ寝ぼけていたみたい。ここはトロルゴアの一時保護されている部屋だった。


 「・・・すみません、寝ぼけてました。夜中にご迷惑お掛けしました。」
 「いいよ、こっちの事は気にしないで。」


 コハクさんは私が落ち着いたのを確認してから暗闇の中で手早く何か身なりを整えている様子だった。同時に消灯した部屋に管理人の持つ灯りが訪れ、お面とフードの位置を直すコハクさんが目に入る。


 「おい、大丈夫か?凄い音がしたぞ。」
 「ええと…寝ぼけてました。他の方も煩くして申し訳ありませんでした。」

 他の部屋は暗くてよく見えないけど、迷惑かけたであろう人達にも謝る。
 灯りに照らされると足元に散らばる鎖と石の欠片が散乱しているのがわかった。踏んだら痛そう。

 「手枷、壊れたのか?」
 「そうみたいです。」
 「学園長に連絡入れなければな、手枷が壊れたら連絡するように言われているんだ。」
 「はい、宜しくお願いします。」
 「その前に欠片を掃除するから一時的にコハクの部屋に入って貰えるか。」

 部屋を見渡して欠片が危ないと判断した管理人さんは私をコハクさんの部屋に入るように誘導して鍵を閉めてから掃除用具を取りに部屋を出ていった。

 部屋にはコハクさんと二人だけ。

 ベッドに座るコハクさんを見ると「隣に座って良いよ」とでも言う様に隣をポンポンと叩く。せっかくだし、と隣に座ると何故か体をビクリと揺らし驚いた様な仕草を見せた。

 冗談だったの?座っちゃったよ恥ずかしい。


 「怖くない?俺の事。」
 「それは貞操を奪われるかもしれない怖さの事ですか?」


 あまりにも真剣に聞くものだから先ほどの失態を誤魔化す様に冗談を言ってみた。


 「いや、襲わないから!初めては好き合っている女の子とって決めてるから!!女の子と!」
 
 女の子と、というのを強調して言う。
 冗談のつもりだったのだけど会って間もない人間の冗談なんて分かりにくかったか。
 それにしてもコハクさんの焦る反応が少し面白い。今後、意地悪しすぎない様に気を付けなければ。

 そんなコハクさんは「怖くないならいい。」とだけ呟いた。
 暗い部屋の中で隣に座りコソコソ話していてふと思う。

 「こうして話していると友人とお泊まり会でもしているみたいですね。僕は友達いなかったですけど。」

 国の事ばかりで仕事仲間は居ても友達って人は居なかった気がする。

 「友達いなかったの?意外だね。君みたいな子はモテモテグループの中心でワイワイしていたのかと思ってた。」
 「ふっ、ははは。まさか。」
 「それならさ、俺は最初の友達になれるかな。」

 ソワソワしてそう言うコハクさん。
 お面をしていても感情が漏れてくるのが面白い。

 「僕と友達になってくれるんですか?」
 「・・・俺でいいなら。」
 「ははは、じゃあ。初めての友達です。」

 友達ってこうやってなるんだっけ?と思いながらも面白くて笑っていた。

 そんな話をしていると、いつの間にか掃除を終わらせた管理人さんが温かい目でこちらを見ていた。
 恥ずかしくなるから「青春だな!」みたいな目で見ないで欲しい。


◆◆◆◆


 ガラガラガラガラ。
 

 「はいはーい。皆朝よー!!美味しいご飯を持ってきたわよー。」
 
 あの後ぐっすり自分の部屋で寝れた私はとても元気だった。

 「あら?もしかして昨日の泥々だった子かしら!?こんな美少年だったなんてね。いっぱい食べて身長伸ばすのよ?」
 「はい。昨日のご飯もとても美味しかったです。ありがとうございました。」

 また身長の事言われた。けど反論しても面倒なので素直に返事をして料理を受けとる。
 昨日に引き続き今日も美味しそうだ。

 コハクさんも起きた様でお面とフードの位置を気にしながらベッドから起き上がって来るのが見える。

 「今日も毒味しようか?」
 「良いんですか?」
 「俺は構わないよ。君がいいなら。」
 「ありがとうございます、お願い出来ますか?」

 そう言うコハクさんが眠そうにパクパク食べる姿を見つめた。お面を少しだけ浮かせた隙間から器用にパクパク食べていて、その度にチラッとお顔が見えそうで見えない。

 「俺の顔が気になる?」
 「隠されると気になるものです。」
 「確かに。」

 一通り食べてから、またあーんと食べさせてくれる。コハクさんは面倒見が良い。だけど今日は少しソワソワしている。

 「あ、あのさ。」
 「何ですか?」
 「あんまり俺の顔見ないで。好きになっちゃうから。」
 「・・・ずいぶん惚れっぽいんですね?」
 「優しくされたら好きになるのは普通だろ。」
 「ちょろすぎませんか?それに今優しくされているのは僕ですよ。」
 「俺からすると顔を見て話そうとしてくれるだけで優しいんだ。この見た目だからさ。」
 
 お面に深く被ったフードは確かに奇妙な服装だけどそれ以外は普通に見える。

 「お面してるから奇妙ということですか?」
 「・・・え?。君って・・・もしかして人が纏う魔力が見えない?」
 「纏う魔力?」
 「あぁ。俺の周りには黒い霧みたいなのが見えるからソレがとても不気味に見えるし怖いってよく言われる。」
 「僕の回りにも見えるんですか?」
 「見えるよ。金の粉雪が降っている様でキラキラしている。」

 漫画のキャラクターにキラキラや薔薇の背景トーンが張られている様な物だろうか。

 「へぇ。」
 「君は容姿も纏う魔力も美しいよね。きっとモテモテだ。女子から可愛いとか言われる系だな。」

 突然美しいと言われて居心地が悪くなる。
 テレるな、今は男だ。

 「モテるなら学園生活楽しめそうですね。」
 「はぁ・・・いいよな。モテる人はそういう楽しみがあって。俺も努力はするつもりだけど近づくだけで逃げられるし、今まで脈ありだと思った事が無い。」

 こんなに面倒見が良くて優しい人なのにそんなにモテないのか。ツノ持ちと呪印に纏う魔力がそんなに厄介という事だろう。
 幼い頃から婚約者が居たから他人の容姿を好き嫌いの観点であまり気にした事が無かった。
 婚約者としか結婚出来ないと思っていたから。
 
 「でも、纏う魔力なら僕と一緒にいたら普通に見えるかも知れませんよ?
 こう、近くで混ざりあって。黒い霧に金の粉雪なら夜空みたいじゃないですか。」
 「え!?!?」

 私の言葉に途端に動揺する仕草をするコハクさん。

 「何ですか?変な事言いました?」
 「・・・そうか、君はまだ13歳だから知らないのか。」

 赤くなったであろう顔を手でパタパタと扇ぐと、耳を貸せと言うように手招きをしてくる。
 素直に耳を寄せると。

 「纏う魔力が混ざるという状況はね?・・・その、そういう事になる深い繋がりがあったと言う意味で。」
 「深い繋がりと言いますと、例えば何ですか?」

 それは手を繋ぐ・キスをする・イチャイチャするくらいの事でも起こるのか。そう聞きたかった。

 「それは・・・交わる行為の事。」
 「へぇ・・・じゃあ、交わったらすぐ周りにバレるって事ですか?世の中の恋人は気楽にイチャイチャもできませんね。」
 「まぁ、そうかもしれない。でもマーキング出来たと思えば良いことだと思う。パートナーが居るのに知らなかったとならないだろ?別れても何となく分かるし。」
 「確かに、そう考えれば便利ですね。」

 纏う魔力が見えていれば婚約者に番が現れた事も気がついたかもしれない。

 「あれだな、こう猥談してると男友達ができたって実感が沸く。」
 「これから暫く相互監視人としても長い付き合いになりますからね。もっと色んな話をするでしょうね。」

 これも猥談なのか?教育的な部類だと思ったのだけど。でも猥談か、確かに女性には話しにくい話題だよね。

 お互いに食事が済むまで当たり障りのない話を軽くしていると、食べ終わった頃を見計らって管理人さんが現れた。

 私達の部屋の前に立つ管理人は心なしかピシッと背筋を伸ばしていて気安い雰囲気ではなく、業務的な空気を感じた。

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