6 / 52
同室決定
しおりを挟むいつもの雰囲気とは違い、仕事モードで私達の部屋の前に立つ管理人は新鮮だった。
貫禄?それが追加された感じ。
「コハクと新入りは明日から学園の入学が認められた。これより二人は相互監視人として住む寮へ移動して貰う。直ちに準備を整えるように。」
あれ?相互監視人の話は合格したら考えるって言っただけなのに既に学園としては決定事項の様だ。
コハクさんもそれを気にしているのか気遣わしげに視線を送ってくる。
彼は私が相互監視人にならなければココから出られないと言うのに、管理人の言葉に慌てて言葉を返してくれた。
「待ってください、彼は合格したら考えると言っていただけで…」
「僕は何も持っていく物は有りませんから。このまま行けます。」
そう言う彼を横目に言葉が出ていた。コハクさんが驚きつつ戸惑う仕草がまたいい。なんかこう…凄く面白い。
少し間を置いてから私の意志が変わらない事を確認すると、パッと嬉しそうに「俺も。」と話して綺麗な牢獄から外へ足を踏み出した。
その一歩がとてもワクワクした。
収容された施設の外に出ると空は青く、元気な風が時折ザァッと吹き抜ける。
こんなに堂々と何かに怯えず外を歩けるのは久しぶりだな。
空を見て、風の行く先を見て、歩く人々を見て。それだけがとても楽しかった。
管理人は親切に色々案内してくれたけど、一回では覚えるのが難しい程広い学園だった。
更に在学生達の私達を見る目が痛い。
両手足に壊れた枷を着けてる上に壊れたこの国の重罪人様の手枷が追加で付いている私。
黒い霧の魔力を纏うお面にフードのコハクさん。目立つコンビだと思う。
私の枷はそろそろ外して貰えないだろうか。
「管理人、そろそろ僕の手枷って外して貰えないんでしょうか?」
「あぁ、試験用のは外して貰えるだろうが元から着いているのは無理だろうな。」
「それは何故?」
「学園長が君の経歴調査を警備監視課の学生のテスト課題にするから外させない。って言っていたからね。君の素性を探る為の重要アイテムってところだ。」
「…テスト課題。」
きっと祖国では私を探している人が居るかもしれない。学生から私がこの国に居ることがバレるという事は無いだろうか・・・。不安が過り、お腹の辺りをギュッと苦しくする。
いや、待てよ。
学生が暫く私を監視するという事はその分、人目が多くあると言う事。
祖国から処刑所まで搬送される間に逃げたのはバレてるはずだから、そこから逃げるとしたらトロルゴアだろうとすぐに推測できる。
となれば人目が多い方が安全と言えば安全。もし婚約者が私を暗殺しようと人を雇ったとしても人目が有れば難しくなる。
「まぁ、いいか。」
「いいの!?」
隣を歩いていたコハクさんにとても驚かれた。
「あぁ、うん。知られたくない恥ずかしい過去とかなら結構あるけど、後ろめたい罪歴なんて無いから。
国の人間に情報が漏れたら嫌だなって思ったけど、行先は限られているからすぐバレそうだし、それなら身を守る為に人目が多い方が優先ですね。」
そんな会話をした後、やっと寮に着いた。
「ここが君達二人の部屋だよ。じゃあ後は二人で協力して住まいを整えてくれ。」
寮の説明も終わり部屋に入るコハクさんと二人だけになった。管理人さんはさっさと帰ってしまってあっさりしたものだ。
寮の部屋は小綺麗で温かみのある部屋だった。綺麗だけど使い込まれた机が2つとカーテン付の二段ベッドのある部屋には優しい太陽の光が差し込む。
お風呂・トイレ・キッチン・玄関。寮の二人部屋にしては設備が整っていて上等だと思う。
そんな良い部屋なのだけど、大きな争いが起こるかもしれない一つの懸念を見つけてしまった。
「コハクさん。僕たちに最初の問題が起こりました。」
「ん?」
「二段ベッドのどっちが上かですよ。」
「ぷっ、ははは、どっちでも良いよ俺は。」
コハクさんが目を丸くした後、お腹を抑えて笑った。
「どっちでもいいんですか!?本当に!?僕が上でもいいですか?」
「いいよ。」
「やったー!」
二段ベッドといえば上が一番と思っていた私はベッドの上へ続く梯子に早速登るとベッドに飛び込んだ。
よかった!争いは起こらなかった。
ベッドへ付けられたカーテンから顔を出せば少し高い位置から見える部屋の風景に嬉しくなる。おおー!と声が漏れた。秘密基地みたいだ!!
「君の年相応な反応が見れて少し安心したよ。そう言えば君を何て呼んだらいいかな?本当の名前は言えないんだろ?」
「コハクさんは察しが良いんですね。」
「さっきの話を聞いていたら何となくね。」
「呼び名なんて考えてませんでした。ドロッピーで良いんじゃないですか?」
「名前に拘り無さすぎるぞドロッピー。」
「じゃあ何にするっピー…。」
「ふっ、ははは。」
「っはは。」
二人で笑うとぎこちなかった友達スタートが嘘の様に感じる。本当に前から友達だったみたい。
楽しい。
これなら名前を捨ててずっとここに住むのも良い。この学園を卒業して庶民として仕事を探し、働いて。週末は友達と飲んだりして騒いで。
他愛もない話をしながらお酒を飲む自分とコハクさんの姿を思い浮かべた。
きっととても楽しい。
「名前、コハクさんが付けてくださいよ。」
「えー。責任重いな。」
「でも名前付けると愛着沸が沸くらしいですよ。」
「愛着ならもう沸いてるよ。俺にとっても初めての友達だからね。」
「コハクさんも?」
「うん。」
「…へぇ、嬉しいですね。コハクさんの初めてですか。」
「その言い方からかってるだろ。」
「いいえ。初めて同士仲良くしましょう。」
ニヤニヤ笑うとため息をつくコハクさん。
「名前、名前・・・。あ、ヒスイってどう?」
「ヒスイ、何か思い入れとか有るんですか?」
「両親が俺の名付けの時、コハクとヒスイが最終候補だったって。兄弟にヒスイは居ないし勿体ないなって思ってたんだ。」
「ヒスイ、カッコいいですね。じゃあヒスイって呼んでください。」
「あぁ、宜しく。ヒスイ。」
新しい名前と新しい部屋。
この日から私の新しい生活がスタートする。
胸ポケットにある【王家の印章】に何気なく触れると優しい温かさが触れた気がした。
◆◆◆
自分たちの部屋が分かった所で、生活で必要な物を確認し揃える事にした。
大体は学園内の売店で揃うらしい。とても便利な学園だ。今回はお金の無い私達用に無料の支給品を取りに行く。
売店の扉を手で押せばリンッと可愛らしく鈴が挨拶をする。店頭にはふくよかなおばちゃんがニコニコ笑顔で迎えてくれる。
「今日から入寮する者です。日用品を頂きに来ました。」
「あぁ、聞いているよ。さぁ、持っていきなさい。他の物は追加料金がかかるからね。しっかり考えて買うんだよ。」
「分かりました。」
あまり近づくと気味悪がられるからと、売店の外で待機するコハクさん。
相互監視人の分もと売店のおばちゃんに話しかけるとドンッとカウンターに二つの大きな袋が乗せられる。明らかに音が重そうだ。
「重いから気を付けてね!まぁ、男の子なら大丈夫ね。」
「は、ぃ。」
相互監視人という犯罪歴が有るかも知れない人にも態度が変わらないトロルゴアの人達。これってすごいと思う。
二つの袋を両脇に抱えようとするけれど重すぎる。売店のおばちゃん、コレを軽々と持ち上げるとは…。売店を出れればコハクさんが居るからとヨロヨロと根性で運んで見るのだけど出口が後少しの所で足がもつれた。
「ぅわあ!!」
もし荷物に割れ物があったら困る!お金無い!!
必死に荷物を守り転ぶ・・・と思いきや、店内の様子を影から見ていたのかコハクさんが助けに入ってくれた。
売店のおばちゃんに気付かれる前に二つの荷物を持ち、私を支えてから外へ出る彼はヒーローなのか!?と思う程の手際の良さ。
「ごめん、無理させて。もっと早く手伝いに入れば良かったね。」
荷物を彼に持たせたまま追いかけると、持つと言っても聞いて貰えず寮の部屋まで帰ってきた。
…今は男なんだ、もっと筋肉つけなくちゃ。
二人分の荷物を持っても安定して歩く彼の背中を見て自分の腕を触りながらハァ…とため息をついた。
21
あなたにおすすめの小説
夫が運命の番と出会いました
重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。
だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。
しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。
桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。
戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。
『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。
※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。
時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。
一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。
番外編の方が本編よりも長いです。
気がついたら10万文字を超えていました。
随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!
愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました
由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。
尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。
けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。
そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。
再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。
一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。
“尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。
静かに離婚しただけなのに、
なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる