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新しい部屋
しおりを挟む「申し訳ありません。全部持たせてしまって。」
「大丈夫、売店の対応を全てやってくれて助かったから。」
「そのお面で隠していても呪印や纏う魔力でそんなに怖がられるんですね。」
「まぁ、ね。凄く気味悪がられる。」
雑談をしながら日用品を袋から出していると、男物の服とパンツも入っていた。
パンツ。
それは黒のシンプルなパンツ。
「どうしたの?下着に何かあった?」
「いえ、何でもないです。」
コハクさんの方を見ると同じデザインの衣類を自分の衣装棚に入れている。
お揃いのパンツ!
衣類を丁寧に畳み、入れる手つきはとても慣れている。それを見ていると、視線に気がついた彼がこちらを見た。
「手伝おうか?」
「ぃ、いえ、大丈夫です。自分で出来ます。」
平静を装いニホンで暮らした記憶を元に畳んで入れるの作業を繰り返した。
すると、小さな小箱も入っている。箱には何も説明が書いて無い。
振って見るとカラカラと軽い音がする。
「コレ何でしょうね、綺麗な箱ですが。」
その様子を見て不思議そうに首を傾げるコハクさん。
「それは避妊薬だから目に付かない所に入れておくようにね。」
「あぁ、これが。」
この世界の避妊薬・・・どんな物だろう。箱の封を切ろうとすると慌てた様子のコハクさんに止められた。
「あ、開けるのは良くない!それ女の子に見られたら遊び人だと思われるから。」
使用跡のある避妊薬か、確かに印象は良くなさそうだ。
「見ないと使い方も分からないし、箱から出した方が隠しやすくないですか?」
「ヒスイはこういうの疎いと思ったのにやる気満々なの!?驚くんだけど!?」
「コハクさん、いざという時に慌てたいんですか?何事も想定はすべきですよ。」
私は男装している女だし、誰も連れ込む気は無い。だからこそ開けても何の弊害もない。好奇心から最もらしい理由を付けて開けると小さな粒が可愛らしい袋に小分けになって入っていた。説明書らしきものを中から出して読む。
「事前か事後に女性が一粒飲む事で避妊効果と病気の予防効果があるそうです。あ、男性も飲む事で病気予防になるってあります。凄いな・・・。事後の場合はなるべく早くって書いて有りますよ。」
「へ、へぇ。」
ニホンで生きた記憶から、お酒の飲み過ぎによるワンナイトで後悔していた友人を思い出す。
そういう後悔するような行為後も有効なのは有難い。
「・・・そもそも恋人ってどうやって作るんでしょうね。」
「俺に聞かれても。」
とてつもなく悲しくなる会話をしてしまった。
私はこの世界の恋愛事情には詳しくない。コハクさんは他人に避けられていると言う事で詳しくない。行き詰まりである。
「練習してみましょうか。」
「何の?」
「気になる子が部屋に来た練習です。」
私の言葉にコハクさんがウーンと苦笑いしている気がする。お面で分からないけど。
「女性って男性より力が弱くて警戒心が強いだろうから部屋に来るだけでも脈有りなんじゃ・・・。その前の積み重ねが難しいんだと思うよ。」
「なるほど。じゃあ下心無さそうに誘えば良いんじゃないですか?」
「・・・そんな魔法の言葉があるの?」
魔法の言葉!!凄い期待されている気がする。なのでニホンでの遠い記憶を掘り起こして何とか例を上げてみる。
「例えば、僕達の得意科目を教えるから部屋で勉強会しよう・・・とか。逆に苦手科目を教えて?お礼に美味しいものご馳走するから。とか。」
「それって食堂とか中庭でいいってならない?」
「完全に脈が無いならそうなると思います。だけど断られても気まずくなりにくい気がしませんか?」
「そうか、どの程度心を許しているか距離感は掴めるな。」
うんうん、と納得してくれた様子のコハクさん。
「だけど上手く部屋に呼べてからが難しいと思うんです。」
「脈有りじゃないの!?」
「純粋に誘った内容に乗っただけの場合も大いにありますから。しかし、部屋に誘ってからは紳士に親睦を深めればこっちの物ですよ!多分。」
「ヒスイ凄い!策士だね!」
何の実績は無いので騙している気分になった。前世の記憶でも試した事なんて無い。もはや詐欺だよ、ごめんね。
「じゃあ、僕はコハクさんの仲良くなりたい友達役やります。」
「…考えて見たんだけどさ、部屋に来てくれる時点で友達として見れないと思う。俺と仲良くしてくれるなんて間違いなく好きになると思うから。」
「ちょろいな。」
そうだ、この人免疫無さすぎてちょろいんだった。
「ええと、仲良くしてくれるから好き。というのも良いと思うのですが、その人の他の良さも具体的に見つけていきませんか?」
「多分全部好きになる。悪い所も良い所も。」
「・・・そこまでの強い覚悟が有るなら止めません。続けましょう。」
そこで設定を少し変えてやってみる事にした。
「では、私はコハクさんの事を少し気になっている女性とします。」
「俺も好き。」
・・・
「では、コハクさんの好きな人と言う事にしましょう。でもお付き合いはしてません。すぐに好きとか言うと下心丸見えなので警戒されます。紳士な対応でお願いします。」
「うっ。」
こうして、部屋にやって来た好きな子の役をやったのだけど。
・・・
カッカッカ。
ノートにペンを走らせる音が響く。
「ここは名前が似てるから引っ掛かりやすいんだ、間違えない様にね。」
「うわぁ~。これ混乱します。」
「だけど、こうすると覚えやすいんだ。」
めちゃくちゃ勉強を教えて貰って終わった。
とても教え上手で勉強中の苦痛が少なかったのが凄い所。トロルゴアの庶民が受ける教養ってこんな感じなのか!?なかなかレベルが高いな。と大興奮だった。
きっと部屋で勉強会に持ち込めば彼の魅力が最大限伝わるだろう。
「とても紳士的だったと思いますけど、ここから一歩踏み出すとなると難しいですね。好きな相手とはいえ、ただの家庭教師要員として良いように使われるのも癪です。」
「好きな子の為なら俺はそれでも良いけど。」
「え~。凄いですね。僕なら少しは見返り欲しいですよ。」
勉強を丁寧に教えて貰ったものの、疲れが溜まり伸びをする。
「コハクさんの教え方とても分かりやすかったです、また一緒に勉強しましょう。」
小さく欠伸をしながら一度閉じた目を開けると、視界いっぱいにコハクさんのお面が見えた。顔面に一瞬だけ軽くぐっと押し付けられたお面。
「次もって事は、少しは期待していいの?」
延びをした体制のまま座っている椅子の背もたれとひじ掛けに手を置かれている為、近いし逃げれない。
今の状況に頭をフル回転させて考える。
ビックリした・・・いや、そうじゃない。
さっきのお面が押し付けられたのって・・・顔が私の顔面にくっついた訳で。キスのつもりなのだろうか?それとも互いのおでこをコツンとしたのだろうか。鼻が痛い。
固まった私の様子にコハクさんはダメだったと判断したのか、ストンと自分の椅子に座って頬杖をついた。
「ダメかー。難しいな、距離を縮めるって。」
「あ、そうですね。」
案外悪くなかったような・・・いやいやいや。私の意見はどうでも良い。
どうしよう、心臓がバクバクと!!何か新しい話題を・・・と思うのに妙に胸が騒がしくて何も思い付かない。
ぐぅぅ。
「お腹空いた?そろそろ食堂で夕食にしようか。」
私のお腹はとても良いタイミングで鳴ってくれた。話題に困った私には恥ずかしいという感情より助かったという気持ちでいっぱい。
「そ、うですね。食堂で料理貰って部屋で食べますか?コハクさんの分も持って来ますよ。」
「いいの?ありがとう、助かるよ。」
「勉強教えて貰えましたしね、お安いご用です。」
平静を装い、上着を羽織ってから部屋を出る。
部屋とは違い少し薄暗い廊下を足早に歩き出した。
コツコツと呼吸を整えながら一人で歩く食堂への廊下が私を冷静にしてくれた。
◆◆◆
夜。
初めて眠る二段ベッドの上は快適だった。それなのに見る夢は最悪で。
「ぅっ・・・、逃げ、ないと。」
また暗闇の中を逃げ回っていた。
亡命してトロルゴアに辿り着くまで必死で食料を探し、唯一出来る石を出す魔法で火打ち石を出し手首の壊れた枷に打ち付けて火を起こして生活していた。
だけど夢では火がつかないし、走れば足が思うように動かない。
するとギシリとベッドが軋む音。寝ぼけた私には誰か来たという事に恐怖を覚える。
「わぁぁ!!」
「!!」
勢いよく飛び起きると二段ベッドの上だという事を忘れていてゴッと鳴る鈍い音と共に天井に頭をぶつけてしまう。凄く痛い。
辺りを見渡すと、外は真っ暗で寝ぼけた視界では室内もよく見えない。
「ごめん、驚いたよな。悪夢を見ていた様だから気になって。」
頭を抱えて涙を流すと体を包む温かさがやって来た。私を前から抱き締めて頭を撫でてくれているみたいだ。こんな事をして貰えたのは何年ぶりだろう。
幼い頃、侍女や乳母にされて以来かも知れない。
「大丈夫だよ、ここは俺もいるし怖いことは無いから。何かあればちゃんと助けるから。」
頭を撫でながら落ち着いた声で大丈夫と言ってくれるコハクさん。
大丈夫、大丈夫。
そう言って撫でられると不思議と痛みも引き、眠くなる。まるで子供の夜泣き対応みたいだけどお陰で落ち着く事ができた。眠気で瞼を閉じると寝ると分かっていた様に「お休み。」と優しい言葉を与えてくれる。
落ち着く声に、大した礼や謝罪もできず眠りに落ちていった。
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