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最初で最後の思い出つくり。
しおりを挟むその後、学園長に案内されたのは綺麗な牢獄。
私が最初に通された牢獄に似ている。そして保護されている祖国から来たという暗殺者・諜報員を眺めると確かに見覚えのある8名が居た。
私はその者達に、再び私には仕える覚悟はあるか問い。恋人や配偶者の有無を聞いた。
「えー、ここで恋人居ないってバレるの恥ずかしぃ。年頃なのに。」
「何が恥ずかしいのよ、貴方は予想通りだわ。」
恋人も配偶者も居ない、そう話した二名に同意のもと【王家の印章】を使い破れない契約をした。また裏切られたらやってられない、無闇に信じるなんて出来なかった。
「裏切る事無く仲間として共に行動し助け合う事。これを契約します。」
「はい!女王陛下。」
「はーい。」
残りの者は学園長に従う様に伝えた。学園長はにこりと笑う。
この者達は国に忍び込んだ罪人なのだから本来なら私には何もする権利がない。だけどこういう配慮をしたのは簡単な要求を叶え少しでも従順に働いて貰う為だろうか。
「学園長、この二名を連れて祖国へいきます。国内の揉め事を治めたら相応の礼を致します。」
「期待していますよ女王。」
学園長は満足げに言う。
こんな小娘+二人に出来ると思ってるのだろうか。
「ガーネット、メノウ。これから宜しく頼みます。」
「女王陛下・・・私達の名前をご存じで!?」
「わぁ~凄い。」
二人が驚いているけれど、私も驚いている。
この二人は一度目の人生で起こった事件の犠牲者であり、それを回避した為に普通の人生を歩んでいると思っていた。
特にこの二人は別々の事件で最初の犠牲となる人物だったので特別注意していた。
自ずと名前も覚えている。
「私は貴方達に驚いています。貴方達を助けたのは諜報員や暗殺者にする為ではありません。何故ここにいるのです。」
「それは暗殺者として女王を探せって言われたからだよぉ。探しだしたら殺してって言われたけど、俺は女王陛下を見つけられたらいいかなぁ~って。」
「報酬貰って女王陛下を探しに行けるとなれば行くに決まっているじゃないですか。」
何とも言えない。
「トロルゴアを出るのは一ヶ月後とします。それまでに準備と情報を。」
「女王陛下~。」
「何です?」
「好きな人居ますかぁ?」
「は?」
メノウと名乗った、気の抜けた暗殺者の男はこれまた気の抜けた口調で話しかけてくる。
「恋人や配偶者が居る人を省いたからぁ、愛を知っちゃったりなんかしたりしたのかなぁーって。」
「メノウ、そんな事聞かないの。女王だって年頃の女の子よ?当たり前じゃない。」
私達は友達かよ。
ガーネットと名乗った女性は狩人の娘で諜報員として捕まったと言う。
「答える気はありません。」
「女王~その話し方やめません?これから話す事増えるじゃないですかぁ。怪しまれるぅ。タメ口で。」
「あのね、良い意見だけどソレ女王から言い出す事だから!貴方の立場から言う事じゃないのよ。」
「・・・タメ口はあれですが、普通に話す事にしましょう。」
◆◆◆
それからメノウとガーネットの3人で話し、必要な物は学園長に相談した。
学園長には頼った以上に礼をしなければいけない事が痛いけれど誰も傷つかない為にそこを惜しまないと決めている。
だけどチョーカーを着けて男装してから契約した仲間の二人がおかしい。
「ヒスイ~」
「熱いんですけど。」
「ヒスイ君にくっ付けすぎですよメノウ。次は私の順番なので早く退きなさい。」
寮に帰る道すがら、二人がチョーカーの能力を使い男装した私を可愛い可愛いと撫で回しくっついてくる。男装した私は背が変わらない為、小さく可愛い系男子に見えるらしい。上下間系なんてここには存在しない。
出国まで二人に与えられたのは私達の住む寮の二人部屋と同様の部屋だった。
同室になる二人に、男女で同室なんて大丈夫かと聞けば「全くタイプじゃないから大丈夫」と口を揃えて言う。
二人が良いなら大丈夫なのだろう。
「ヒスイ?」
ワイワイ話ながら寮の前に着いた所で、お面と深くフードを被ったコハクさんがご家族と出てきた。
「コハクさん、今からお出かけですか?メノウ、ガーネット、この人は同室のコハクさん。僕の親友でもあるから敬意をもって接するようにしてください。」
「こんにちわぁ~」
「初めまして、ガーネットです。」
その対応にコハクさんのお母様と妹の二人が私の前に出てくる。
「可愛い・・・、この子が同室の?可愛い!!」
「きゃー!!美少年だよお兄ちゃん、王子様みたい。」
その流れで改めて皆さんが自己紹介してくれる。
男装の方が人気なのか?不服ではあるけど女性の姿は王女だからどうしても無愛想だ、仕方ない。
「というかぁ、そっちこそ大丈夫なの?そのコハクさんと同室で?」
「・・・ヒスイ君可愛いから。」
「何の心配ですかソレ。」
その言葉を聞いて、何故かコハクさんの家族がザワッとする。気分を害しただろうか。
「・・・にいちゃん、惚れっぽいからなー。」
「こら!!やめなさい。余計な事ばかり言って!!」
「だけど・・・ヒスイ君可愛いし、お兄ちゃんの・・・その。好みが変わらないか心配なレベル。」
「俺、信用ないな。」
コハクさん、家族から見ても惚れっぽいのか。
「惚れさせちゃったらごめんなさい。」
「ヒスイも話題にのらないでくれ。」
「いいじゃないか、もし関係が上手く行けばこんな可愛い息子が来るんだろ?悪くない。」
「あら、息子になるって思うと更に可愛く見えてきたわ。」
和やかに会話が流れ、家族を見送るコハクさんを残し、メノウとガーネットに部屋まで送られた。
「女王もあんな笑ったり冗談を言ったりするんだねぇ~」
「凄く意外だけど可愛かったです。」
「そうですか。」
「私、本当に心配になってきました。」
「俺もぉ。」
「気にしすぎですよ。」
二人と別れてから部屋に戻ってしばらくするとコハクさんが帰ってきた。私に何か話したそうにしていたけど多分、私が国に帰るという事だろう。
「ねぇ、コハクさん。早速なんですが。」
「な、何?」
「甘えても良いですか?」
「甘えるの種類によるけどいいよ。」
内容も聞かずにいいよと言うお人好しめ。いつか後悔するぞ。
「じゃあ添い寝がいいです。」
「また俺をからかってるだろ、無理だよ。」
「えぇ、何で駄目なんですか。最初の頃してくれましたよね?」
悪夢にうなされた時、よく添い寝をしてくれていた。最近はうなされる事も無いから自然と無くなったけど。
「何で行けると思ったんだよ。何の理由もなく男同士で添い寝する趣味ないから、暑苦しい。」
「じゃあ僕が国に帰るまでの思いで作りに付き合って下さい。」
冗談の後にできる限り明るく言った言葉でもコハクさんが辛そうな表情に変わってしまった。
無理な要求をしてから小さな要求をする交渉テクニックを使って交渉しつつ、少し和むかとも思ったのだけどやはりしんみりしてしまう。
「帰る日が決まったのか。」
「決まりました。一ヶ月後に。それまで課題と依頼を完成させ、ここを出ます。」
「そうか。」
一ヶ月後、長いようで短いんだろうな。
「よし、思いで作りなんていくらでも付き合うよ。俺もヒスイとの思い出欲しいし。一ヶ月後なら夏祭りにも参加できそうだ。」
「お祭り!!」
お祭り、主催側で忙しくする事しかなかったけど参加する側なんて楽しいに決まってる。
「他にも街に出掛けてみよう。学園の外に出るには相互監視人が居れば問題ない。人気の学生向け大盛り定食の店が有るらしい。教室で誰かが話してるの聞いただけだけど。」
「街で人気の大盛のお店!!・・・半分食べてくれます?」
「ホント食べる量少ないよな。じゃあその後お菓子でも買って・・・」
「いいですね!!」
楽しみだな・・・、そんな話をするだけで楽しいのに本当にその日が来たらどうなってしまうのだろう。
頬が緩み顔を上げるとコハクさんと目が合った。
「君って本当に好みを変えてしまいそうな怖さがある。」
「僕、コハクさんに迫られたら断れない。」
「迫らないから!」
顔をポッと赤くしてプイッと背中を向けるコハクさん。
その日から学園長の依頼である頑丈な枷と鍵の開発と爪飾り・ボディスタンプの開発に更に力を入れた。
◆◆◆◆
ジリジリと暑さの続く季節の中で、虫達の行動も活発な放課後の事。
待ちに待った大盛り定食屋さんへ行く日。
学園が終わってから外出届けを出して街へ来た。
「あれ美味しそうだしそっちも美味しそうです。どこもかしこも良い香りですね・・・。」
「街に来ただけでも楽しくなるな。」
「はい!学校終わりに友達とご飯なんて青春を謳歌してますね、僕達!」
「そうかも。こんなに楽しい生活になるとは思わなかった。最近、俺を不気味だと避ける人も居なくてさ、普通に話せる人も少しだけ増えたんだ。ヒスイのお陰。」
私が纏う魔力に影響を与えるグッズを考える度にコハクさんが実験に付き合ってくれる。
試作品を怖くないのか聞けば「これ以上悪くなること無いから」と協力してくれる。
お面を付けたままの生活ではあるけれど、お面を付けていれば怖がる人はそんなに居ないらしい。
その身に付けているお面が人を遠ざけている気もするのだけど、本人が気に入ってるから言わない。
「この開発が上手く行って広まれば纏う魔力で人を判断しなくなるかもしれません。そうしたらコハクさんモテモテですよ。」
「何で俺がモテるに繋がるのさ?」
「だってコハクさん格好いいから。」
目当てのお店に並びながら、あの料理の量凄いなーと眺めながら言う。
「ねぇ、コハクさん。どれ注文します?」
「・・・!!えっ!ぁ、ああごめん。何。」
少し並びながら他の人の頼んだ料理を見ては量凄いなーと目が釘付けになる。
隣のコハクさんは何か考えているのかぼんやり上の空になっていた。
その後、大盛で有名な定食屋さんで一番小さいサイズの料理を頼み、コハクさんも注文したのは普通盛りで「大盛りで有名なのに意味がない」と笑いながらちょうど良い量のご飯を楽しんだ。
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