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コハクさんの家族。
しおりを挟む後日、学園長から改めて連絡が来た。
この学園の女子生徒の制服が届き、着替えてから女王として会うように指示があった。
だけど今の私はそれどころでは無い。
「何でこんなにドキドキしてしまうのだろう。」
アスティリーシャ・グレングールシアとしてコハクさんの呪印に触れ、キスやら色々してしまってから私は完全にコハクを意識してしまっている。
日を追うごとに胸にコハクさんの優しさが蓄積され、恋じゃないと押し込んでもすぐに顔を出す。
「はぁ。」
最近のコハクさんは自分と二人だけの時はお面を外してくれている。お面をしていないコハクは表情豊かでコロコロ変わる表情が可愛いのに普通にしていると凛々しく格好いい。
優しいく世話好きで思いやりがあり、呪印さえ無ければモテモテ間違いない。
離れたい。
一旦離れて頭を冷やしたい。でも一緒に居たい。迷惑な恋愛脳だ。
ジリジリと熱い空を見上げると汗が流れ首に落ちる。この恋心も汗と共に流れて行ってしまえば良いのに。あぁ、もう。恋って言っちゃったよ。
部屋に帰るとシャワーを浴びた。
女王として汗まみれで臭いまま祖国の人間には会えない。
ザーーーー。
シャワーで滝行の様に頭を冷やす。
最近は暑さと邪念を払いたくてシャワー滝行の頻度が高くなっている。
・・・
そろそろ出ようかな。
ガラッ
「にいちゃーん!!」
急に勢い良く開けられた浴室の扉。そこに知らない可愛らしい顔の男の子が居た。
「女の子だ!!かーちゃん!とーちゃん。にーちゃんが女の子部屋に連れ込んでる!!」
「こら!!開けるんじゃないの!!ごめんなさいねー。」
何も言えず、母親らしき女性と子供は嵐の様に去っていった。だけど脱衣場から出ただけで部屋にはまだ居るみたいだ。それからの話し声も駄々漏れだった。
「コハク、彼女出来たのかしら?部屋は間違って無いわよね?」
「お兄ちゃんに彼女って・・・友達じゃないの?」
「友達が部屋のシャワー借りる?彼女よ。あら、邪魔しちゃったかしら。」
「めっちゃ美人だったー、綺麗なおっぱい。」
「同室の子は可愛い系の男の子だって言ってただろう?その子の彼女ではないか?」
「確かに。」
私が何者なのか凄い考察されている。
コハクさんをにーちゃんと呼んでたからには多分家族なんだ。挨拶くらいしないといけない気がする。
コハクさんが部屋に居なかったから油断して鍵掛け忘れてたな。どうしよう、何て説明したらいいか。見られてしまったし、今チョーカー付けて男に変わる訳にも行かない。
さっさと髪を乾かすと女子生徒の制服を着て脱衣場から出る。そこにはコハクさんの家族と言われると確かに似ている、という人達がこちらを見ていた。
「挨拶が遅れました。コハクさんの同室の者の身内で、部屋のシャワーが調子悪くてこちらで借りていました。・・・驚かせてしまって申し訳ありません。」
少しぎこちないけれど精一杯の嘘と笑顔で挨拶する。するとコハクさん一家がパッ!と明るい表情に変わる。
この表情がパッとなる所がコハクさんにそっくりだった。
「あらあらー!!そういう事なの?ごめんなさいね。コハクの母です。」
それぞれ続いて挨拶をして貰えて、ここに居るのはコハクさんのご両親と次男・長女・三男だと分かった。
皆どことなくコハクさんに似ているけど角は無いし呪印も勿論無い。
そして二人部屋にこの人数は狭い。
「ご丁寧にありがとうございます。コハクさんにはとてもお世話になっています。」
日々思っている事を言葉にすると一家で驚いた顔をする。
「貴方、恋人はいらっしゃる?」
「母さん、急にそれを聞くのはどうかと思う。」
コハクさんに似た凛々しい顔立ちのお母様が突然そんな質問をすると、コハクさんに似ているけど少しキツイ目元の次男が止めに入る。
しっかりした次男だ。多分だけど村を出された時に荷物を持ってきてくれたと言うのがこの子だろう。
「婚約者が居ますが、破談になると思います。相手に別の好きな人が現れたので。」
「えー!!何それ!!浮気じゃないサイテー!」
黙っていた妹らしき人が恋の話が好きなのか興味津々て話に入る。
その後もワイワイ話しているとコハクさんが部屋に帰って来た。
まずいまずい。今アスティリーシャだった。気まずい。あの後で気まずい。
「騒がしくて廊下まで話し声聞こえたよ?もっと小さな声で・・・っ!!え!何で貴女がここに!?」
「お邪魔しています。」
苦笑いで返すとお面を外したコハクさんがポッと赤くなる。やめて、私も思い出してしまうから!
そう思っても遅く、熱くなる頬を手で扇いだ。
それを見たお母様の目がキラリと光る。
「コハク、このお嬢様はコハクを怖がらない子みたいね。そうそう、コハクは昔から優しくてとても良い子でねー結構気が利くでしょ?それで・・・」
「にーちゃん。おねーさんのおっぱいめっちゃ綺麗だった!!」
「あ、こら!!」
「見たの!?」
まさに家族団らんのお茶の間が凍りつく瞬間。お母様がコハクさんの良いところを話し始めた所で凍りついた。
兎に角恥ずかしくて両手で顔を隠し自分でも驚くほど弱々しい声で「忘れて下さい・・・」としか言えなかった。
ほどほどの所でコハクさん一家との話を切り上げて、学園長先生に用事があるからと席を立つ。
するとお母様がコハクさんを立たせ「じゃあコハクが送ります。」と何故か学園長室まで送って貰う事に。
「家族がご迷惑をお掛けしました。」
とても賑やかな家族でコハクさんをとても大切にしている事が分かる。
コハクさん一家はこのまま家を探しトロルゴアに住むそうだ。
「良いお家が見つかると良いですね。」
「はい。学園長がお金を貸してくれてちょうど良い物件を探せそうです。俺が仕事を頑張れば何とかなりそうですし、父も母も働く気満々だからすぐに返せると思います。学園長には頭が上がりません。」
学園長がお金を貸すなんて相当コハクさんの能力が認められているらしい。
恩を売り、他国への人材流出を避けるというところか。それにしても、家の借金を払いながら学生生活なんて苦労人だな。
・・・
話題が無くなり、前回からの気まずさもあって沈黙が続いた。だけど「気にしてます。」という雰囲気は出したくない。背筋を伸ばし、まっすぐ前を見る。
堂々としていれば大抵の事はなんとかなる。
二人の足音がコツコツと響く中、コハクさんの家族と話して自己紹介もろくに出来ない今の状況について考えていた。
最初はこのまま隠れ、逃げてのんびり暮らせば良いと思っていた。何だかんだでトロルゴアという国に守られ安全だから。それに自分は祖国にとって用済みだからそれで良いと。
だけど私がコハクさんを好きだとして、もっと先を求めるなら。婚約者との正式な婚約破棄と国の行く末を最後まで導かなければいけない。
そして正式に女王ではない自分になり、心置きなくコハクさんを好きになりたい。
恋は私にとって毒かも知れない。
逃げてのんびり暮らす生活を選ぼうと思えば選べるのに、私は祖国に行こうと思っている。
ホントに厄介だ。
恋をしたばっかりに処刑されるかも知れない場所に行く気になるのだから。
胸元のポケットに入れた【王家の印章】に手を当てると燃えるように熱く感じた。それは私に応援すると言ってくれている、そう受けとる事にする。
「コハクさん、私は近いうちに祖国に帰ります。ヒスイも連れて。」
「!!」
沈黙を破った言葉はそれだった。
一歩間違えれば罪を擦り付けられ処刑される。上手くやらなければ。
私が私として生きる為に。
国民の為にと言えたら格好いいのだけど、正直に言えばコレだった。
気が付けば学園長室の前に来ていた。
「送ってくれてありがとう。」そう言ってノックをしようと思えばコハクさんが立ちふさがる。
「・・・行かないで下さい。」
「ヒスイが心配ですか?」
お面越しでは表情がわからない。だけど少し震えて見えた。
「ヒスイも、貴女も心配なんです。」
「そう?ありがとう。だけど今は下がりなさい。」
やはり私には可愛げがない。
すまし顔で構わずドアをノックすると秘書から返事を貰いコハクさんを廊下に残し部屋に入る。
扉の閉まる音が妙に重く、体に響いて聞こえた。
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