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逆襲の時。
しおりを挟む「アスティリーシャ様、ごめんなさい。」
ガーネットによって拘束された私。祖国付近で調達した荷馬車へメノウに担がれ乗せられる。
「あーぁ、嘘でもこんな事するの好きじゃないなぁ。」
私を荷馬車に乗せる仕草は罪人を捕らえた者達という設定にしては丁寧に扱い過ぎる様に見える。
「このまま国に入るには座り心地が良くないわね、クッションかフカフカの敷物を・・・」
「そんなの要りませんから。それに拘束がゆるゆるですよガーネット。」
「荷馬車の馬も大人しい性格の子を借りてきたからぁ、多少は大丈夫かなぁ。」
荷台から馬を見るとお目々パッチリの可愛らしい馬がモッサモッサと草を食べていた。
一般兵士達との争いを最小限にと考えた結果、私を罪人として捕らえた二人が婚約者とその仲間の所まで連れて行くという筋書きなのに本当に大丈夫だろうか。
借りてきた馬のパッカパッカとのんびり歩く音が暫く響く。メノウが馬を操作し、ガーネットは私の隣にピッタリ座り、こまめな水分補給をしてくれているとピタリと止まった。
「門を開けてくれるぅ?グレングールシア女王陛下連れてきた。」
友達連れてきたみたいに言うな。
そんな気の抜けた言葉から始まったのに門をあっさり通過してしまう。
「!?」
「驚きましたか?女王派って結構多いんですよ。メノウが話しかけたのは女王派の仲間です。」
この二人凄く働いてくれてる・・・。大丈夫?とか思ってごめん。今は口も布でゆるっと塞がれて話したら布が落ちそうだから話せないけれど頼もしい仲間に感謝した。
城へ続く大きな街道を走れば静かに住民達が近寄ってくる。
「女王陛下!よくぞ御無事で。」
「あぁ、こんな乗り心地の悪そうな所に座って・・・我が家ので良ければクッション持ってきましょうか?」
皆、私の安否と乗り心地を気にして帰っていく。
「女王陛下を慕う者達は多いですが、城内は敵派閥で固められています。ですが私達が必ず守りますからね。」
コクリと頷いた時。
「女王を拘束した、一番上のヤツに報告しろ。」
城に着いた事への緊張感より、メノウがハキハキと喋る事への衝撃が勝る。
「仕事してるメノウカッコいい・・・」
私と一緒に荷台から彼を見るガーネットは完全に恋する乙女だ。
「んー・・・」
お互い好みじゃないって言ってたのに何が起こってこうなったのか。本当に不思議で声が出たら心を読んだかのようにガーネットは話し始める。
「ふふふ、彼の仕事ぶり見たら惚れない女の子は居ないですって!本当にキリッとしてカッコいいんですから。それなのに普段はダラダラのギャップ。私がいなきゃダメだと思わせてくれる感じが」
「んー・・・」
そうですかー、と言う気持ちを込めて返事をしておく。すると乱暴に荷台の扉が開かれた。
「ほお、本当に女王じゃねーか。強大な魔力を持つって噂の王族もお仕舞いだな。こんなマヌケな女王じゃあな。」
突然開かれた荷台の扉から覗きこむのは見たことの無い兵士だった。私が居ない間に雇ったのだろうか・・・とか考えている内にその人はぶっ飛び姿が見えなくなる。
「ぐぁ!!・・・な、何を、」
「俺の獲物に手を出そうとしたから、殺そうと思って。」
「ま、待て!!手を出そうとした訳じゃ」
「メノウ、仲間割れは後が面倒よ。」
チラッと私を見たガーネットの視線にメノウがハァとため息をつく。
「やるなら誰の目にも付かない所でね。」
「わかったよ。」
メノウが見知らぬ兵士をもう一発蹴り、動かなくなったのを確認して戻ってきた。この二人、こんな怖い人達なのかと内心ビビり散らした。
「他の奴らもこうなりたくなければさっさと上のヤツに報告しろ。」
「っ、ただいま!!」
あの若い兵士可哀想に。下っ端が走らされる後ろ姿を見届けるとトントン拍子に話が進んだ。
拘束された私はメノウにお姫様抱っこをされると玉座がある謁見の間まで連れていかれる。
(運びかた丁寧過ぎる!!)
んー!と抗議してもガーネットにトントンと背中を優しく叩かれるだけ。子供じゃないんだから!
(こういう時は担ぐとかさ!)
「暴れないで下さい。」
(はい。)
目線で訴えて早速折れた。メノウの圧が怖い。
重い扉が音もなく静かに開くと冷たい風が流れ出す。その風と共に懐かしい香りがした。
「アスティリーシャ、待っていたよ。メノウ、ガーネット。良くやったね、近くに連れて来なさい。」
「・・・」
「・・・」
私の婚約者が玉座に座るのが見える。王族しか座れないその玉座に堂々と座る姿は国王にでもなったかの様な振る舞い。その近くに運ばれると周辺を見知らぬ兵士達が武器を手に取り囲んだ。
「王家の印章、持っているね?アスティリーシャ。」
睨み付けるとフッと笑われる。
「君が居ないと言う事を聞かないヤツが多くてね、従わせるのにソレが必要なんだ。」
「王家の印章は王族の血筋でないと使えませんよ?私が貴方の良いように契約させるとでも?」
口の緩く縛られた布を首を振って取り、返事をすれば「やっぱりね」と肩をすくめる婚約者。その隣へ女性がやって来て寄り添い膝に座る。
「うふふ、血が必要なら貴女から取れば良いわ。だから生きて捕まえさせたんじゃない?」
メノウがギリッと歯を食いしばる音がする、ガーネットの彼らを見る視線も敬いなんて一ミリも見えない。
「ふふっ、そんな目付きをして私達を騙してるつもり?メノウ、ガーネット」
「気安く名を呼ぶな。汚れる。」
「メノウ、まだ耐えて。」
その様子を勝ち誇った様に見る婚約者。バレているなら、とメノウに下ろして貰い堂々と立ち向かう。
「私と貴方はまだ婚約破棄の書類を交わしていないですね、番が居るならまずその手続きをすべきでは?いくら愛していてもこれじゃあただの愛人。哀れなものですね。」
その言葉に番の顔が歪む。
「ふっ、良いだろ。こんな状態で石ころ姫に何も出来る筈がない。正式に婚約破棄した後、この国の玉座を私に譲ると王家の印章で契約でもさせよう。もう王になる為の婚約に縛られる必要は無い。」
「まぁ、嬉しいわ!早くやりましょう。」
番と婚約者は抱き合い部下に書類を持って来させる。自分は上等な椅子に座り、サラサラとペンを走らせると紙とペンを私に投げつけた。
「っ!!」
「さぁ、書け。お前との婚約を破棄する。」
私に当たり赤い絨毯に落ちるペンと婚約破棄の書類。
これで良い。これで正式に婚約者の居ない綺麗な身になれるのだから。
地べたでソレにペンを走らせると、書き終わると同時に元婚約者の部下が奪う様に取り、確認する。
「これにて正式に婚約破棄がされました。」
「やったわ!!これで私は王妃ね。」
番は嬉しそうに元婚約者を抱き締める。その光景を見て、私も微笑んだ。そんな私の表情が気に食わなかったのか元婚約者が表情を歪める。
「今の状況を理解してないのか?たった3人で敵に囲まれて成す術もない今の状況を。」
「状況ならよく理解しています。あぁ、次は玉座が欲しいんでしたか?」
ピシッ ギギギ
「な、何?」
ギシギシと何かが軋む音とパラパラと何かの欠片が上から落ちてくる。
「欲しければ差し上げますよ、そんなので良ければですけどね?」
「!!」
私が玉座を指差すとパァン!!と爆発でもするかの様に何かに耐えきれず玉座が弾けとんだ。
座っていた元婚約者とその番も盛大に転ぶ。
「ぷっあはははは!!行きますよ、メノウ、ガーネット。」
「「はい!」」
物という物がガラガラと次々に崩れ始める。城の壁に亀裂が入り天井はボロボロと落ちてくる。
「な、何を!?」
「石ころ姫を甘く見るからこうなるんですよ?」
見たか!!石ころの力!!
私がトロルゴアでやって来た事。それは学園長から依頼される大量の拘束器具の強度検査。ひたすらそれらを壊す行為。
ひたすら壊していて私は分かるようになっていた。何処にどう石を出現させればこれらが壊れるか。
そしてもう1つ。大量の爪飾り作り。
このことにより大量に小石を出せる様に鍛えられた。
だから考えた。王政を完全に廃止するために、全てを壊そうと。
「ひゃっほーーーう!!壊れろ壊れろー!!」
自分達が逃げる為に確保した道をメノウに抱えられながら進み、敵が追って来れない様に足場を崩していく。それでも追ってきた敵をガーネットが倒す。
誰かが武器を向ければそれを壊し、防具も小石を詰めて間接を動かなくできる。足場を崩し、全てを壊し。兎に角暴れまわった。
小石でも、少しの隙あれば大きな物を揺るがし壊す事ができる。それが爽快だった。
ガラガラとオモチャ様に壊れる城の外側にはガーネットとメノウが集めたという女王派の仲間達が待機している。
王城を崩すのに時間を稼ぐのは大変だったけれど上手く行ったのはコハクさんのお陰だった。
右手の掌を見ると浮かび上がるコハクさんの呪印。
呪印に触れる度に火傷した様に赤くなるけれど跡が残ったのは今回が初めての事。
これのお陰か、私にも少し未来の流れが見えていた。
しかし完全に城を崩してから、負傷した敵派閥を捕らえている間にはすっかり薄くなってしまい流れを見る事も出来なくなる。
あらかたの負傷者を手当てし、壊れていない地下牢獄送りにした所で仲間達とお祝いをする事になった。
それはもうお祭り騒ぎで、街中で喜びの声を聞いた。今の状況を喜んでくれる仲間がこんなに居ると思うととても嬉しい。
そしてこんなに騒いでいるのにも関わらず、右手の呪印を見ては『コハクさんに早く会いたい』と思う気持ちがひょっこり顔を出すのだった。
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