【完結】死に戻り王女は男装したまま亡命中、同室男子にうっかり恋をした。※R18

かたたな

文字の大きさ
23 / 52

逆襲の時。

しおりを挟む

 「アスティリーシャ様、ごめんなさい。」

 ガーネットによって拘束された私。祖国付近で調達した荷馬車へメノウに担がれ乗せられる。

 「あーぁ、嘘でもこんな事するの好きじゃないなぁ。」

 私を荷馬車に乗せる仕草は罪人を捕らえた者達という設定にしては丁寧に扱い過ぎる様に見える。

 「このまま国に入るには座り心地が良くないわね、クッションかフカフカの敷物を・・・」
 「そんなの要りませんから。それに拘束がゆるゆるですよガーネット。」
 「荷馬車の馬も大人しい性格の子を借りてきたからぁ、多少は大丈夫かなぁ。」
 
 荷台から馬を見るとお目々パッチリの可愛らしい馬がモッサモッサと草を食べていた。

 一般兵士達との争いを最小限にと考えた結果、私を罪人として捕らえた二人が婚約者とその仲間の所まで連れて行くという筋書きなのに本当に大丈夫だろうか。

 借りてきた馬のパッカパッカとのんびり歩く音が暫く響く。メノウが馬を操作し、ガーネットは私の隣にピッタリ座り、こまめな水分補給をしてくれているとピタリと止まった。


 「門を開けてくれるぅ?グレングールシア女王陛下連れてきた。」

 友達連れてきたみたいに言うな。
 そんな気の抜けた言葉から始まったのに門をあっさり通過してしまう。

 「!?」
 「驚きましたか?女王派って結構多いんですよ。メノウが話しかけたのは女王派の仲間です。」
 
 この二人凄く働いてくれてる・・・。大丈夫?とか思ってごめん。今は口も布でゆるっと塞がれて話したら布が落ちそうだから話せないけれど頼もしい仲間に感謝した。
 
 城へ続く大きな街道を走れば静かに住民達が近寄ってくる。

 「女王陛下!よくぞ御無事で。」
 「あぁ、こんな乗り心地の悪そうな所に座って・・・我が家ので良ければクッション持ってきましょうか?」

 皆、私の安否と乗り心地を気にして帰っていく。

 「女王陛下を慕う者達は多いですが、城内は敵派閥で固められています。ですが私達が必ず守りますからね。」
 
 コクリと頷いた時。

 「女王を拘束した、一番上のヤツに報告しろ。」

 城に着いた事への緊張感より、メノウがハキハキと喋る事への衝撃が勝る。

 「仕事してるメノウカッコいい・・・」

 私と一緒に荷台から彼を見るガーネットは完全に恋する乙女だ。

 「んー・・・」

 お互い好みじゃないって言ってたのに何が起こってこうなったのか。本当に不思議で声が出たら心を読んだかのようにガーネットは話し始める。

 「ふふふ、彼の仕事ぶり見たら惚れない女の子は居ないですって!本当にキリッとしてカッコいいんですから。それなのに普段はダラダラのギャップ。私がいなきゃダメだと思わせてくれる感じが」
 「んー・・・」

 そうですかー、と言う気持ちを込めて返事をしておく。すると乱暴に荷台の扉が開かれた。

 「ほお、本当に女王じゃねーか。強大な魔力を持つって噂の王族もお仕舞いだな。こんなマヌケな女王じゃあな。」

 突然開かれた荷台の扉から覗きこむのは見たことの無い兵士だった。私が居ない間に雇ったのだろうか・・・とか考えている内にその人はぶっ飛び姿が見えなくなる。

 「ぐぁ!!・・・な、何を、」
 「俺の獲物に手を出そうとしたから、殺そうと思って。」
 「ま、待て!!手を出そうとした訳じゃ」
 「メノウ、仲間割れは後が面倒よ。」

 チラッと私を見たガーネットの視線にメノウがハァとため息をつく。

 「やるなら誰の目にも付かない所でね。」
 「わかったよ。」
 
 メノウが見知らぬ兵士をもう一発蹴り、動かなくなったのを確認して戻ってきた。この二人、こんな怖い人達なのかと内心ビビり散らした。

 「他の奴らもこうなりたくなければさっさと上のヤツに報告しろ。」
 「っ、ただいま!!」

 あの若い兵士可哀想に。下っ端が走らされる後ろ姿を見届けるとトントン拍子に話が進んだ。

 拘束された私はメノウにお姫様抱っこをされると玉座がある謁見の間まで連れていかれる。
 
 (運びかた丁寧過ぎる!!)

 んー!と抗議してもガーネットにトントンと背中を優しく叩かれるだけ。子供じゃないんだから!

 (こういう時は担ぐとかさ!)
 「暴れないで下さい。」
 (はい。)

 目線で訴えて早速折れた。メノウの圧が怖い。

 重い扉が音もなく静かに開くと冷たい風が流れ出す。その風と共に懐かしい香りがした。


 「アスティリーシャ、待っていたよ。メノウ、ガーネット。良くやったね、近くに連れて来なさい。」
 「・・・」
 「・・・」


 私の婚約者が玉座に座るのが見える。王族しか座れないその玉座に堂々と座る姿は国王にでもなったかの様な振る舞い。その近くに運ばれると周辺を見知らぬ兵士達が武器を手に取り囲んだ。

 「王家の印章、持っているね?アスティリーシャ。」

 睨み付けるとフッと笑われる。

 「君が居ないと言う事を聞かないヤツが多くてね、従わせるのにソレが必要なんだ。」
 「王家の印章は王族の血筋でないと使えませんよ?私が貴方の良いように契約させるとでも?」

 口の緩く縛られた布を首を振って取り、返事をすれば「やっぱりね」と肩をすくめる婚約者。その隣へ女性がやって来て寄り添い膝に座る。

 「うふふ、血が必要なら貴女から取れば良いわ。だから生きて捕まえさせたんじゃない?」

 メノウがギリッと歯を食いしばる音がする、ガーネットの彼らを見る視線も敬いなんて一ミリも見えない。

 「ふふっ、そんな目付きをして私達を騙してるつもり?メノウ、ガーネット」
 「気安く名を呼ぶな。汚れる。」
 「メノウ、まだ耐えて。」
 
 その様子を勝ち誇った様に見る婚約者。バレているなら、とメノウに下ろして貰い堂々と立ち向かう。

 「私と貴方はまだ婚約破棄の書類を交わしていないですね、番が居るならまずその手続きをすべきでは?いくら愛していてもこれじゃあただの愛人。哀れなものですね。」
 
 その言葉に番の顔が歪む。

 「ふっ、良いだろ。こんな状態で石ころ姫に何も出来る筈がない。正式に婚約破棄した後、この国の玉座を私に譲ると王家の印章で契約でもさせよう。もう王になる為の婚約に縛られる必要は無い。」
 「まぁ、嬉しいわ!早くやりましょう。」

 番と婚約者は抱き合い部下に書類を持って来させる。自分は上等な椅子に座り、サラサラとペンを走らせると紙とペンを私に投げつけた。

 「っ!!」
 「さぁ、書け。お前との婚約を破棄する。」

 私に当たり赤い絨毯に落ちるペンと婚約破棄の書類。

 これで良い。これで正式に婚約者の居ない綺麗な身になれるのだから。

 地べたでソレにペンを走らせると、書き終わると同時に元婚約者の部下が奪う様に取り、確認する。

 「これにて正式に婚約破棄がされました。」
 「やったわ!!これで私は王妃ね。」

 番は嬉しそうに元婚約者を抱き締める。その光景を見て、私も微笑んだ。そんな私の表情が気に食わなかったのか元婚約者が表情を歪める。

 「今の状況を理解してないのか?たった3人で敵に囲まれて成す術もない今の状況を。」
 「状況ならよく理解しています。あぁ、次は玉座が欲しいんでしたか?」


 ピシッ ギギギ

 「な、何?」

 ギシギシと何かが軋む音とパラパラと何かの欠片が上から落ちてくる。

 「欲しければ差し上げますよ、そんなので良ければですけどね?」
 「!!」

 私が玉座を指差すとパァン!!と爆発でもするかの様に何かに耐えきれず玉座が弾けとんだ。

 座っていた元婚約者とその番も盛大に転ぶ。

 「ぷっあはははは!!行きますよ、メノウ、ガーネット。」
 「「はい!」」

 物という物がガラガラと次々に崩れ始める。城の壁に亀裂が入り天井はボロボロと落ちてくる。

 「な、何を!?」
 「石ころ姫を甘く見るからこうなるんですよ?」


 見たか!!石ころの力!!


 私がトロルゴアでやって来た事。それは学園長から依頼される大量の拘束器具の強度検査。ひたすらそれらを壊す行為。
 ひたすら壊していて私は分かるようになっていた。何処にどう石を出現させればこれらが壊れるか。

 そしてもう1つ。大量の爪飾りネイルストーン作り。

 このことにより大量に小石を出せる様に鍛えられた。

 だから考えた。王政を完全に廃止するために、全てを壊そうと。


 「ひゃっほーーーう!!壊れろ壊れろー!!」

 自分達が逃げる為に確保した道をメノウに抱えられながら進み、敵が追って来れない様に足場を崩していく。それでも追ってきた敵をガーネットが倒す。

 誰かが武器を向ければそれを壊し、防具も小石を詰めて間接を動かなくできる。足場を崩し、全てを壊し。兎に角暴れまわった。

 小石でも、少しの隙あれば大きな物を揺るがし壊す事ができる。それが爽快だった。

 ガラガラとオモチャ様に壊れる城の外側にはガーネットとメノウが集めたという女王派の仲間達が待機している。
 王城を崩すのに時間を稼ぐのは大変だったけれど上手く行ったのはコハクさんのお陰だった。

 右手の掌を見ると浮かび上がるコハクさんの呪印。

 呪印に触れる度に火傷した様に赤くなるけれど跡が残ったのは今回が初めての事。

 これのお陰か、私にも少し未来の流れが見えていた。
 しかし完全に城を崩してから、負傷した敵派閥を捕らえている間にはすっかり薄くなってしまい流れを見る事も出来なくなる。

 あらかたの負傷者を手当てし、壊れていない地下牢獄送りにした所で仲間達とお祝いをする事になった。

 それはもうお祭り騒ぎで、街中で喜びの声を聞いた。今の状況を喜んでくれる仲間がこんなに居ると思うととても嬉しい。

 そしてこんなに騒いでいるのにも関わらず、右手の呪印を見ては『コハクさんに早く会いたい』と思う気持ちがひょっこり顔を出すのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】亡くなった人を愛する貴方を、愛し続ける事はできませんでした

凛蓮月
恋愛
【おかげさまで完全完結致しました。閲覧頂きありがとうございます】 いつか見た、貴方と婚約者の仲睦まじい姿。 婚約者を失い悲しみにくれている貴方と新たに婚約をした私。 貴方は私を愛する事は無いと言ったけれど、私は貴方をお慕いしておりました。 例え貴方が今でも、亡くなった婚約者の女性を愛していても。 私は貴方が生きてさえいれば それで良いと思っていたのです──。 【早速のホトラン入りありがとうございます!】 ※作者の脳内異世界のお話です。 ※小説家になろうにも同時掲載しています。 ※諸事情により感想欄は閉じています。詳しくは近況ボードをご覧下さい。(追記12/31〜1/2迄受付る事に致しました)

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

幼馴染みを優先する婚約者にはうんざりだ

クレハ
恋愛
ユウナには婚約者であるジュードがいるが、ジュードはいつも幼馴染みであるアリアを優先している。 体の弱いアリアが体調を崩したからという理由でデートをすっぽかされたことは数えきれない。それに不満を漏らそうものなら逆に怒られるという理不尽さ。 家が決めたこの婚約だったが、結婚してもこんな日常が繰り返されてしまうのかと不安を感じてきた頃、隣国に留学していた兄が帰ってきた。 それによりユウナの運命は変わっていく。

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。

香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。 皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。 さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。 しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。 それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?

【完結】タジタジ騎士公爵様は妖精を溺愛する

雨香
恋愛
【完結済】美醜の感覚のズレた異世界に落ちたリリがスパダリイケメン達に溺愛されていく。 ヒーロー大好きな主人公と、どう受け止めていいかわからないヒーローのもだもだ話です。  「シェイド様、大好き!!」 「〜〜〜〜っっっ!!???」 逆ハーレム風の過保護な溺愛を楽しんで頂ければ。

処理中です...