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前から番が居たとは気が付かなかった。
しおりを挟む「ラピス、止めてくれ。彼女を傷付ける事を言うなら友人でも許さないよ。」
「・・・そんな!そんなのおかしいわ!」
「おかしい事なんて無い。ラピスと初めて医療科の教室で会った時、君は俺を避けたじゃないか。番はあくまでも生き物としての本能みたいな物だよ。」
「それは貴方の呪印が邪魔をしていたからでしょう?今は怖くなくなって普通に過ごせるんだよ?」
そういえば、初めて専攻授業が終わった時、迎えに行ったらとても落ち込んでいた。呪印のせいで番に出会えたのに避けられたということ?
「呪印のせいだとしても俺と仲良くしてくれて、その呪印と向き合って解決してくれたのが彼女だよ。」
「待って。纏う魔力に影響を与えるスタンプや爪の飾りは男の子が開発したって聞いているわ!やっぱりその人に惑わされているのよ、目を覚ましてコハク。きっと」
「ラピスに説明する事はさっきの話で終わりだから。ヒスイ、行こう。具合悪そうだから部屋に戻った方がいい。」
ラピスさんを置いて私の所へ来るコハクさん。
追いかけようとするラピスさんをコハクさんの友人リベルさん達が止めているけど、ラピスさんの友人らしき女の子は彼女に同情している様だ。
拒否する間も無く私を抱えると他の人に見せつける様に寮まで運ばれた。
大人しく運ばれる程、コハクさんに番が存在した事の衝撃は相当のものだった。
私は何もして無くても人に恨まれる人生なのだろうか。いいや、人生って案外そんなもんかもしれない。ただ、自分の不利益になる事は避けなければ。
そんな事をボーッとする頭で考えながら大人しく運ばれた。
寮に着くと、ベッドに寝かせてくれる。彼もここまで疲れただろうな。
「ヒスイ、大丈夫?ごめんね、変な事に巻き込んで。話を終えたはずなのにラピスが付いてきて。」
「番の話は本当なんですか?番が現れると自然と惹かれ合う存在だと聞きましたけど・・・コハクさんいいんですか?」
「ヒスイも知ってるでしょ?入学してからずっとヒスイと居て、あの人は寄り付かなかったじゃないか。ヒスイが国に帰ってから呪印も気にならなくなってやっと話す様になったくらいで。」
私を覗き込み真剣にコハクさんが向き合ってくれている。番の言葉に何も考えられなくなっていた頭がやっと動き出した。
「番って何なのでしょう?何故コハクさんはラピスさんをただの友達だと思えるんですか?」
ベッドに寝たままになってしまうけれど、コハクさんの手を握り必死で彼の反応を逃さない様に見つめた。
「番については医療科の授業でも習ったんだけど・・・その。簡単に言えば、体の相性がとても良くて強く優秀な子孫を残しやすい相手なんだ。体から出るフェロモンを嗅覚が察知して番を判断するらしい。」
強く優秀な子孫を残す・・・生物には重要な事。
「だから俺は、ラピスが近くに居る時はフェロモンをお互いに察知しないように風を作って流してた。初めて会った時に俺は番だと分かったけれど避けられたから、結構ショックで・・・お互いの為にそうした方がいいと思って。」
「なるほど・・・。」
「だけど、ヒスイの作った呪印用のスタンプやインクで纏う魔力が変わって話す機会も増えたら今みたいになってしまって。」
世の中では番が見つかると運命のパートナーと言われる。そんな存在に避けられたのならショックだっただろう。
「コハクさん。辛かったですね。」
「その時は確かに辛かった、番にも避けられる存在なんだって。だけど、その後ヒスイが入学祝いしてくれただろ?それでどうでもよくなったんだ。俺にはこの人が居るからいいかって。」
思い出話をする様に和やかで幸せな空気が戻ってきた。その思い出話で色々な記憶が甦る。
男友達として接していた私に一切ラピスさんの話は出てこなかった。
アスティリーシャの話は出たのに。
コハクさんは番であるラピスさんが存在しながらもヒスイとアスティリーシャである私の事ばかり。
その事実が番に対する心配の欠片を一つ一つ取り除いてくれた気がした。
「俺が愛してるのはヒスイだけだから。心配になったら何を差し置いても君の側に居るし、何度でも愛してるって伝える。ええと、他に出来る対策は・・・」
私から不安を取り除こうとこうして考えてくれる。さっきもラピスさんを置いて真っ先に私の所へ来てくれた。
「ありがとうございます、コハクさん。今、少しだけ側に居てくれますか?」
ベッドに横になりながら、さっき動揺したことで疲れたのか眠気がやってくる。
しっかりありがとうを伝えるとコハクさんがキスをしてくれた。
「いくらでも側に居る。」
その言葉に安心して目を閉じるとすぐに睡魔がやって来て眠りについた。
◆◆◆◆
ラピスさんとコハクさんの番騒動があった次の日。
学園での私の噂は大変な事になっていた。
寮には男を連れ込み遊び。他人の恋人にも手を出す。番であっても怪しい魔法で惑わす。
他人の研究を自分の成果として横取りする。
とんでもねー。
「噂の出所は分かっています。あの女ぁー!!」
「いつ絞めに行こうかなぁ。」
私の付き人もとんでもない。
ガーネットの調査によると噂の広まりが妙に早かったのもラピスさんによるものだとか。
門限になっても帰らない彼の事を聞こうと一般寮の管理室に行くと管理室の人達がコハクさんが私の部屋にお泊まりする事について話していた事から私が誘ったと判断したらしい。
その話を聞いた後のラピスさんは番に手を出されたと目立つ所でシクシク泣き、人が集まり噂が広まったと。
「本人を締めた所で新しい噂が増えるだけですよ。」
私はこの日も資料室に来ていた。
噂というものは本当に厄介で、オアシスだった研究開発科でも私が横を通るだけで研究を取られ無い様にと避けられてしまう。
結果、資料室にこもっていた。
ガーネットはとても怒っているけれど、私は楽観的に見ている。
「ここはトロルゴアですよ?悪い噂が流れても冤罪を吹っ掛けられる心配は無いでしょう。根も葉もない噂ならこの学園より外には出ないだろうし噂に飽きるのを待てばいいです。
自国民に武器を向けられた時に比べたら小さな事です。」
「アスティリーシャ様、死ななければ大丈夫な精神になってますね。」
「俺らが堪えられなぃ。」
ガーネットとメノウはゲンナリしていた。
確かに自分の支えている主が悪者とされるなら良い気分ではいられ無い。
「ガーネット、メノウ。貴方達、しばらく休暇を取りますか?」
「「取るわけないでしょう?」」
声が被った。
「流れてしまった悪い噂を止める事は出来ないけれど、新しい話題で上塗りしたらいいんです。今、良い素材を見つけました。」
私が資料を見て指したのは、この世界特有の石材。スライム石と呼ばれるモノだった。
見た目はその辺の石ころと変わらず、見つける事が困難だが私の求めていた物だった。
「このスライム石、割れた石の欠片に衝撃を与えると割れた欠片全て同じ動きはをするそうです。武器で切ると増えるスライムという魔物から名付けられたとか。まだ反応距離など実験は必要ですが求めていた物その物です!
この石、もしかするとスライムという魔物が石化した物だったりするのでしょうか!?面白いですね。」
「アスティリーシャ様、楽しそうですね。」
「アスティリーシャ様が楽しいならいいかぁ。」
割れた欠片全てが同じ動きを見せる。
それは振動を伝えるという事。遠くの人に声を届ける事が可能かも知れない。
そして、私はこの石を一度目の人生で見た事がある。一度目の人生は国交だと近隣諸国を巡り、湯水のごとくお金を使う女王として知れ渡っていた。だから色々な珍しい物や国宝など見せられ隙あらば高値で何かを売ろうとされたものだ。
資料を見てから目を閉じて頭で思い浮かべると鮮明に思い出される。
確かあれは町の子供達が見つけたとかで、護衛を連れて歩く私の目の前に子供達が飛び出して来たんだ。
「珍しい石見つけたから買って!」と。
見た目は何の変哲もないただの石なのに子供達がその石と欠片を丁寧に置いて「見てて!」とド突き回す。子供は無邪気で時に残酷なものだ。
笑顔で「いくらなの?」と聞いたらキラキラしたお目々で「百億万円!」とか言われて笑ったのを覚えている。
大人がすぐに出てきて「申し訳ございません!!」と引きずられて行った。
懐かしい。
コトンッ
すると、資料の上に石が落ちた。
「アスティリーシャ様、資料の上に石が。」
「つい物思いにふけってしまいました。無意識に石を出してしまうなんて、私もまだ気が緩んでますね。」
「これってぇ、もしかするとスライム石?」
見た目はただの灰色の石。
手に取りくるくる回して見るけど何の石かはわからない。
「念のため実験してみましょうか。」
研究開発科の筋肉の美しい女性の先生に許可を貰ってから実験室に入るとその石で実験を始める。
砕くのはメノウが、そしてガーネットが欠片の一つを取り指で弾くと・・・
カタン。
全ての石が音を立てて同じ動きをした。
「アスティリーシャ様ぁ。俺、薄々思ってたんですけどぉ。思い浮かべた鉱石出せますぅ?」
「え?そんな事って・・・」
「・・・」
薄々、私も思っていた。
爪につける飾りを作ってた時、綺麗な石を出したいと一度目の人生で出会った様な宝石を思い浮かべて一粒一粒作った事がある。
手のひらから現れる透明で綺麗な石。
これって本物じゃないよね?まさかね。
時折そう思いながら作っていた。
もし、思い浮かべた鉱石を出せるとしたら。
「もしかしてぇ、宝石や魔石も出せるんじゃ無いですかぁ?」
冗談っぽく話すメノウの言葉に思わず冷や汗が出て目をそらした。
「あえて試した事はないです。」
「「・・・これ以上はやめよう。」」
皆の意見が合った所で、新しい研究内容について研究開発科の先生に相談した。
「魔法が使えなくても誰でも使える連絡手段か。良いんじゃないか?変な噂が流れているけど教員の間では事情は共有されているし、聞かれれば正しい事を生徒に伝えている。だから安心して研究に励むんだよ。」
そう言って私の頭をぐしゃぐしゃと撫でる先生。やっぱりこの先生好き。
この調子なら研究開発科ではまたすぐに元の生活に戻れそうだ。
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