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婚約の挨拶。
しおりを挟む「どうもー、普通の家ですがゆっくりしていって下さい。」
騒がしく聞こえた物音が静かになると、何事も無かったかの様にお母様が出迎えてくれる。
初めて入るコハクさんのトロルゴアでの実家は綺麗な家で、家族皆が余裕持って暮らせる余裕のあるお家。コハクさんのお父様とお母様はニコニコしながら急に訪れたにも関わらず上機嫌で案内をしてくれた。
お父様・お母様とコハクさんと私がリビングにあるテーブル席に通され、護衛の方々も~と後ろのソファにお茶菓子と飲み物が出される。
「コハク、それで?説明して。説明。」
急かすお母様の言葉に苦笑いしながらコハクさんが婚約した事を話してくれた。
影からコハクさんの弟二人と妹も見守っている。
「こちら、アスティリーシャ・グレングールシアさん。」
「前の部屋でシャワー使ってた美人でしょ?それで!やっぱりそういう仲だったの?あの時から?」
「あの時は別に深い仲ではなくて・・・いや、深い仲なのかな?」
「まぁ!」
コハクさんはきっと親友だし関係は深いと言いたいのだと思う。だけどその言い方は誤解を生むよ。
「ヒスイ覚えてる?可愛い可愛いって母さん達が言ってた同室の子。
その子が変装したアスティリーシャさんだったんだ。俺も出ていく直前に知って。それでトロルゴアに帰って来て・・・俺が卒業したら結婚しようという話をしたんだ。さっき貢がされてると勘違いされたのは婚約のイヤリングを買いに行ってた。お互いのを贈り合ってたんだよ。」
「おおーーーーー!!」
コハクさん一家が一気に盛り上がりを見せる。
お祝いのムードが完全に出来上がっている。
「挨拶が遅くなり、申し訳ありません。」
「いいの、いいの!もぅ、こんな綺麗なお嬢さんが変装してコハクと同室だったなんて。変な事されなかった?」
したと言うなら私の方。
「いいえ、私はコハクさんに世話になってばかりで。一緒にいて頼もしかったです。」
「そうかそうか、学園長に紹介して頂いた仕事は稼ぎも良くて、家の借金はすぐに返せる目処もたったし。なかなか良いタイミングじゃないか。何よりコハクが幸せそうで嬉しくて今にも泣きそうだ。」
「ねぇねぇ。アスティリーシャさんはお兄ちゃんのどこが良かったの?」
妹の言葉に皆の視線が集まる。
具体的に何処がいいかなんて出したらいっぱい有りすぎるのだけど・・・
「無実の罪で処刑されかけて、逃げ延びた先で泥だらけの私に唯一優しさをくれた信頼できる人だったからでしょうか。国を取り戻そうと思ったのもコハクさんのご家族に何も自己紹介が出来ない自分が嫌で・・・それでやる気が出た様なものです。」
「へ?国を取り戻すって?」
「あぁ、そうか。家族にその辺の話してなかった。情報にも疎いから色々知らないかも。」
それなら何から話すべきかと考えるとガーネットがスッと立ち上がり武勇伝の様に語りだした。
◆◆◆
「という事で、国はあるべき姿を取り戻したのでした。戻ってきたアスティリーシャ様はコハク君と再会を果たし、二人はずっと一緒に居ようと約束するのです。」
「きゃーーー!!お兄ちゃん物語のヒロインみたい!王子様が庶民の町娘に恋するやつー!」
「お姉ちゃん好きな物語のやつねー。」
「俺は国を取り返す辺りが熱くてこの話好き。3人でだよ?凄いな!!」
ガーネットとメノウがいるソファでは私達の話で盛り上がっていた。
コハクさんの弟と妹は大興奮だ。
「ヒスイ君にはお礼を言いたいとずっと思っていたんだ。この子の呪印をなんとか出来ないかとずっと悩み続けて来たんだ。」
「本当にね。良かったわ、コハクがアスティリーシャさんに出会えたのは運命かもしれないわ。」
そう言われると恐縮してしまう。私は彼から教えて貰った事や出来事を元に作ったのだから。
あ、でも運命といえば。
「運命と言えば、コハクさんって獣人だったんですね。この前、コハクさんの番だと言う女性に会って話を少し聞きました。」
この世界の番というものは鼻の効く獣人特有の物だと聞いた。コハクさんもラピスさんを番だと感じたなら獣人のはず。
その話で出すとコハクさん一家のテンションがグンと下がった。
「あー、あの子に会ったのね。本当に良かったわ、コハクがあの子選ばなくて。番の匂いがするって聞いて終わったわーって落胆したものよ。」
お母様のその言葉にコクコク頷くお父様。
「ご両親としては番と結ばれた方が嬉しい・・・という事は無いんですか?」
聞いてから凄く不安になった。だけど少し暗くなった私の手にコハクさんの手が重なり気分が少し落ち着く。
「普通なら番と結ばれる方が幸せでしょうね、だけどあの子は呪印に耐えられないじゃない?」
「え、何で知ってるの?ラピスがそんな話した?」
コハクさんの言葉にはぁ~とため息をついてお母様が続ける。
「入学して半年近く、聞く話はヒスイ君かアスティリーシャさんの事ばかり。それなのにヒスイ君が呪印を何とかしたら急に番です!ってラピスって子が出てくるのよ?そりゃ分かるわよ。」
そこへ妹さんがひょっこり現れる。
「番とはいえ、ずっと呪印を気にしながら生きるより、呪印が気にならないアスティリーシャさんとヒスイ君どちらか落として来なさいってお母さんはお兄ちゃんに勧めてたよね。」
「あー、言われた。あの頃は無茶言うなって思ってた。」
「そりゃそうよ!」と、ここからお母様が拳を握り力説する。
「だって、ヒスイ君の顔は覚えていないけど、凄く可愛かったのは覚えているわ!衝撃の可愛さだったのよ。
それにアスティリーシャさんのキリッとしているのに照れた時の可愛さ。溶けるかと思ったわ!」
「あー!綺麗なおっぱいの話した時の。」
その言葉に優しく手を握ってくれてたコハクさんがバッと立ち上がると末っ子の弟に駆け寄り高い高ーいをするように持ち上げる。
「わー!」
「おっぱいの事は忘れる様に!」
「やだー!」
こうなると熱くなる頬を手で隠しながらハハッと笑うしか出来ない。
だけど、弟を危険の無い様に振り回すコハクさんはやはり良いお兄ちゃん。
弟が笑い疲れた所で私の隣に戻ってきた。
「あぁ、そうだわ。コハクが獣人かって話なのだけどね?結婚する前に教えておいた方が良いかも知れないわね・・・あのね、落ち着いて聞いて欲しいのだけど。」
「何でしょう?」
コハクさんも何故か不思議そうな顔をする。コハクさんも知らない内容なのかも知れない。
「コハク、あのね貴方のお爺ちゃんは鬼人でね?貴方は鬼人の血が濃いみたいなのよ。本来なら鬼人の遺伝は弱い物で滅多に特徴が遺伝しないものなの。私達は血が薄いみたいで人間と何も変わらないのだけど。」
「はぁ!!!!嘘、そんなの初めて聞いたよ!!」
「ごめんね、貴方のお爺ちゃんが角のある何かの獣人ってぼかして。」
角のある何かの獣人で納得してたコハクさんのおおらかさ。
鬼人なら角の長さや形も納得だし、この世界の鬼の特徴である呪印があるのも納得。ニホンで生活した記憶から見ても漫画に出てくる様な優しくカッコいい鬼だ。
「言うにしてもタイミングが違うじゃないか。まずは俺に話してからとか。」
「でもね、婚約までしたなら言わないとね?結婚してから知らなかったじゃ不誠実よ。」
「それはそうだけど・・・心の準備が。」
青ざめた表情で私をチラリと見たコハクさんの瞳と目と合った。今になって自分の新たな事実を知り、困惑しているのだと思う。
視線を落とすと手が震えている気がして彼の手に触れようと自分の手を伸ばすけど、コハクさんの手が引っ込んでしまった。
少しムッとして引っ込んだ手を強引に掴む。
「コハクさん、こういう事はすぐに受け止めるのは難しいと思います。だけど受け止められる様に私も側で一緒に考えますから。だから避けないで下さい。」
「息子の嫁が頼もしい。まぁ、アスティリーシャさんに避けられないなら問題ない話だと思うのだけどね。」
「修羅場を潜り抜けて来た嫁だからかしら。肝が据わってるわ。」
お父様、お母様の中で既に嫁になっているのが嬉しい。コハクさんも暫く私の瞳を見て絶対離さないと握る手に観念したようにため息をついた。
「・・・ごめん、取り乱して。ヒスイが良いって言うならとりあえずは良いかって思えてきた。」
「それは良かったです。」
ソファの方から「王子様カッコいい!!」の声が聞こえて来る。
王子様か、悪い気はしない。
「俺、頑張ろう。ずっと町娘じゃいられない。」
「カッコいい王子の心の支えが町娘なのに?」
「頑張ろうって思った時にそんな事言われたら俺がダメ人間になってしまうよ。」
そう言うコハクさんの手を強く握り、唇を寄せる。
「僕が居なければダメな人間になってしまえば良い・・・なんてね?」
昔のヒスイだった時の様に、胸を張りキザに悪戯っぽく言ってみる。
ここで笑いが起こるかと思っての行動だった。だけど静まり返った室内にこれはスベった!と感じる。スベった時は堂々としてスベり感を無かった事にするしかない。落ち着いて静かにお茶を飲んだ。
「惚れる。」
「カッコいい。何で言われてるのが私じゃなくてお兄ちゃんなの?ずるくない?」
「お姉ちゃんカッコいいー!」
好評で何より。ボケがスベった等と思われていない様だ。コハクさんを覗き見ると何故だか項垂れている。彼にはスベったのがバレたのかも知れない。
「コハク、お前も格好いい所あるから。見せ場が無いだけで。」
「父さん、見せ場ってどうやって作るの?」
「・・・。」
答えられないお父様にはぁ~とため息をついて、拗ねた顔をする。
「そう言う表情がコロコロ変わって、お面してた時でも感情が駄々漏れなコハクさんが私には魅力的なんですよ。裏を感じなくて一緒に居て安心するんです。」
「・・・そう。」
「そうです。」
私達の会話を温かい目で見守る皆さんのお陰で私達は無事にご家族への挨拶を終える事が出来た。
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