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学園長にバレた結果。
しおりを挟む婚約者用のシンプルなイヤリングを身につけ、耳元で奏でる金属音を楽しみながら私達は寮に帰った。
腕を組み学園の敷地に入ればザワザワと私の噂話をする者もいる。けれどそれは今までの悪い噂ではなく私達が婚約の証を付けているからの様だ。
貴族寮の前に着くと、コハクさんが私の手を取り真っ直ぐに目を見て話してくれる。
「明日から可能な限りヒスイと共に行動するよ。このイヤリングを身につけて一緒にいれば悪い噂もなくなる。」
「ふふふっ、また相互監視人になったみたいですね。」
「ははっ、相互監視人か。確かに。」
「コハクさん、忙しいのにありがとうございます。」
「俺は仕事も決まったし、卒業まで時間に余裕が出来たくらいだから気にしないで。元はと言えば、俺が迷惑かけてしまった側だから。」
迷惑なのは番を理由に強引に迫るラピスさんなのだけどコハクさんは上手く立ち回れ無かった事を後悔しているらしい。
だけど、番の香りがするラピスさんを置いて私の所に来てくれたコハクさんは素敵だったと思うよ。
「それでさ、卒業パーティーなのだけど。婚約した事だし一緒に出席できるかな?」
「私も行って良いんですか?」
「俺のパートナーとしてになるけど、君が良ければ。」
学園の卒業パーティー。それは卒業する人たちの最後の交流の場。仕事・恋愛・人脈など今後の為に交流する機会。
だけど、パートナーが決まっている者はパートナーも同伴が望ましい。パートナー含め、今後の付き合いを広める事と浮気防止でトラブル回避の為だそうだ。最後だからと羽目を外し過ぎてしまう人が居るのはどの世界も一緒らしい。
そして恋人の有無は隣に人が居るか居ないかで一目瞭然なのでどんどんアピールしていこう!となかなかテンションの高いパーティーです。
「喜んで参加します。」
「そうか!!ありがとうヒスイ。」
私が参加すると意思表示しただけでこんなに喜んでくれる。それがまた私の心を温かくする。
「だけどその前に学園祭ですね。」
「あぁ、そうだね。医療科は学園祭では怪我人の手当てや応急処置と具合が悪い人が居ないか見回りするんだ。何か研究している人は研究内容の展示をするくらいでやることが少ない。ヒスイの予定は?」
「研究開発科は開発した物の展示と販売です。爪飾りとボディスタンプは販売として、今の研究を展示まで持っていければ良いのですが・・・」
文化祭はこれまでの学習成果をトロルゴア国民に見て貰える機会だから力が入る。
上手くやれば利益も出るし頑張りたい所。
「もしかして、結構忙しい?」
「当日は店番を交代でするだけですから、当番以外は忙しくありませんよ?」
「じゃあ、当番以外なら一緒に文化祭回れるかな?」
「そうですね、当番が決まったらコハクさんにも伝えますね。」
「ありがとう、楽しみだね。」
私にとって初めての文化祭。
それをコハクさんと回れるのが楽しみで仕方ない。婚約者らしくイチャイチャできるだろうし、男装したヒスイとして夏祭りに参加した時とは違う。もっとラブラブな感じの・・・。
考えるだけで顔がにやける!!
ニヤニヤする私を気味悪く思う事無く、ニコニコとしているコハクさんも同じ気持ちだろうか?
名残惜しく思いながらコハクさんに「また明日」と告げると改めて研究に燃えたのだった。
◆◆◆◆◆
文化祭が間近に迫った現在。
「私は何度も君に言っていますが。何故、頑丈な石材を生かして更に良い拘束器具や鍵を作ろうとしないんだ。研究を重ねれば前に納品された物より良質な物が出来るはずですよ?この通信機器を悪いとは言わないですが。」
「そうでしょう。スライム石に声の振動を与える事で同じスライム石を入れてある送受信機にも瞬時に振動が届き声が伝わるのです。内部構造の振動を拾いやすい形・聞き取りやすい形を作るのにも苦労しました。」
学園長に呼び出された私は、魔法が使えなくても使える連絡手段を見せていた。
「声で伝えられない時はこう、絵や文字でも使える。なかなかの自信作です。」
今現在の形は掌より少し大きいただの板。形だけ見ればニホンでの生活で見たスマホだけど、機能はたった2つ。同じスライム石が入った物同士で声を伝える事。そしてこの板専用のペンで表面をなぞると簡単な絵や文字を描ける伝える事が出来る。
描く事に関しては前世の記憶から子供達が描いては消してを繰り返すボード型のオモチャからの知識で出来ている。先生や他の生徒と意見を出しながら良い物が出来たと思う。
「それで、スライム石は判別が難しい。なかなか手に入る物ではないのは分かっていますね?なぜそれを持っているか聞いても?」
「・・・。」
「私に黙秘や嘘が通用すると思うのかい?正直に話なさい。私に拷問されたいですか?」
何故特殊な石の出所を聞く為に拷問まで!?そして圧が凄い!!
彼は現在のトロルゴア国王の弟だとか。さすが王族。しかし私も王族。威圧するのは得意な方だけど所詮は17歳の娘だ、まだまだこの領域には達していない。
「スライム石を以前、見た事がありました。それで資料室でその事を思い出していたら鮮明に脳裏に浮かび目の前に石が出現したのです。」
「君の能力は強度の高い石を出すだけだと思っていたが、見た事のある特殊な石や宝石を出せる可能性があると?」
「可能性だけで確証はありません。」
「では、それをここで試して貰おうか。」
「・・・。」
学園長秘書は資料を持って私に差し出す。
「女神の癒し、ですか?」
「他国の厳重に保管された国宝の魔石だ。きっと君なら知っているね?見たことは?」
女王として他国と交流してきた私なら知っていると思ったのだろうか。
実際に知っている。一度目の人生でこの、国宝を自慢された記憶がある。
そして学園長から発せられる有無を言わせぬ雰囲気。この技、私も欲しい。
「ガラス越しではありますが、確かにこの資料にある国を訪れた際に拝見しました。」
「では、試せるのですね。今、ここでやって見せなさい。」
いつもの学園長なのに何か急かすように感じる。
女神の癒し、確かどんな病も癒す魔石。
癒しの女神がこの地で病に苦しむ人々を哀れみ落とした涙が結晶になったって話だ。
当時の国王はその欠片を民の病を治すために使い、今は親指の爪位の大きさしか残っていない・・・って話だったかな。
物は試しと、脳裏に浮かぶイメージがモヤモヤしていたら目を開き資料を読む。そしてまたイメージする。それを繰り返すとモヤモヤがハッキリした物になる。
うん、確かこんなだった。見るだけでも心が落ち着くような澄んだ青色。綺麗だったな。
イメージがハッキリした所でいつもの石を出す時と同様に魔力を一ヶ所に集中させるけれど、体から力がゴッソリ抜けて行く様な感覚がある。
さすが国宝級の魔石。これはなかなか疲れる。
目の前のテーブルにコトンと音を立てて姿を現したソレ。
うーん、大きさは小指の爪位?
同じ物質には見えるけど資料と形は違う石。自分の出現させた石を手に取り触ってみるけど何もない。失敗したのだろうか?
学園長とその秘書は私の様子をジッと見ている。
「これ、できた、のでしょう、か・・・ぁ。」
不思議に思いながら出現した綺麗な石を眺めると視界がグラリと揺れ、目の前が何も見えなくなった。
あ、これヤバいやつなのかな?
「アスティリーシャ様!」
「早く医務室へ!!」
ガーネットとメノウの声が暗闇から聞こえ、その声に安心すると私はそのまま意識を手放した。
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