【完結】死に戻り王女は男装したまま亡命中、同室男子にうっかり恋をした。※R18

かたたな

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ドキドキの予感

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 すぐ後にビュンと風が通り抜ける音が聞こえ、何か重いモノがドンと落ちた様な音。

 「やっぱり。」
 「っぅ、ぐっ!」

 静かなコハクさんの声と元婚約者の声にならない声。

 「恐怖で動きが鈍ってるね。それに戦うなら俺の方が強い。ずっと思っていたんだ、もし貴方に会えて勝つことが出来れば彼女の隣に立つ自信が出るのにって。」
 「ぐぁっ!!」
 「静かにしてね、彼女がまだ寝てるから。」

 コハクさんが戦ってる。凄く見たい!!それもトロルゴアの監視を潜り抜けここまで来た元婚約者を圧倒しているっぽい。

 部屋中に剣の弾かれる音や鈍い物音が響く。
 
 見たい!!

 「ぐっ・・・、俺をこのまま拘束しても女王は目を覚まさないぞ、良いのか?」
 「彼女に何をしたの?」
 「この呪いが発動したら俺の番しか治せない。俺に渡さなければ女王はこのまま衰弱して死ぬ。」
 「貴方の番が呪いをかけたの?」
 「ふっ、そうだ、俺の番は優秀でね。石ころ姫とは違うんだ。城を崩壊させたのも手下が何か小細工したんだろ?」

 見たい!!とても悪口言われてるけどそれ所じゃない。凛々しい声だけでもカッコいいのに肉眼で見れないなんてあり得ない。
 コハクさんを見たい!!


 愛こそパワー!!


 ぐぐぐっと力を込めると指先が少しだけ動いた。

 い、行けるぞ!!

 まだ間に合う!!
 
 「俺は人を傷つけるのは嫌いなんだけど、一発くらい殴っておきたい気持ちになるよ。どうするかな。」

 低く怒りの滲む声。
 くぅ~っ!!良い!!いつもパッと表情を明るくしてコロコロ変わる感情駄々漏れだけど怒ることなんて無かったコハクさんの貴重な激おこ!!

 このチャンスを見逃してはいけない!!
 負けるな私!
 今本気を出さなくていつ出すんだ!!

 更にぐぅっと力を入れると私を縛る糸の様なモノがプツリと切れていく様な感覚。
 
 んぬぬ、神様、ご先祖様、私に、私に力を~
 カッコいいコハクさんを見る力を~!!


 『見つけたーーー!!』
 『ひっ』
 『おっとぉ、逃がさないよぉ』

 ふいに遠くから聞こえたガーネットと女性の声、そしてメノウの声。


 きっとガーネットとメノウもこの呪いの術者と戦ってくれている。

 ぐぅっ!!私も負けるかー!!

 全身に力を入れるとまとわり付く黒い糸がプツプツと切れだした。
 
 ブチン!!

 太い縄が切れる様な音がした後、体を起こす事が出来た。

 急に体が軽くなり、呪いに引っ張られる力が無くなったと察する。
 
 勝った!呪いに勝った!!愛こそパワー!!

 急げ、戦うコハクさんを見るんだ!!

 周囲を見渡せば、真っ暗な医務室のカーテン付きベッドの上だった。
 カーテンを開けたら戦うコハクさんが見えるのだろうけど・・・ここで出ていっては私に気を取られてカッコいい姿が見れないかも。
 そ~っと、そ~っとカーテンの隙間から覗いて・・・

 「お前だって番に会ったんだろ?なぜ素直にそっちへ行かない。」
 「何で俺に番がいるって知ってるの。」
 「アスティリーシャの怪しい魔法で番を取られたから何とか出来ないか、とわざわざ面会申請して聞いてきたのがお前の番だからな。
 やせ我慢なんてする必要は無い、その生意気な女王をこちらに渡してラピスとか言う可愛らしい番と仲良くすれば良いじゃないか。」


 ただただ、コハクさんの姿を見たい一心で慎重にカーテンから様子を覗くと仰向けに倒れた元婚約者の胸に片足で踏み抑えているコハクさん。
 いつもの温厚なコハクさんからは想像できない荒っぽい対応だ。ワイルド!!

 「番に狂った貴方を見ると番に出会う前に彼女に出会えて良かったと思える。それに、貴方に教える義理も無いけどヒスイは・・・アスティリーシャは可愛いから。」
 「あの女が!?趣味が悪いな。」

 唐突に可愛いと言われた私はポッと顔が熱くなる。照れる・・・。元婚約者に悪口言われてるけど好きな人からの言葉に勝る物は無い。
 
 「知らないなんて、本当に婚約者だったのかな?」
 「ぐっ・・・うぅっ。」
 「聞きたい話は聞けたし貴方は眠って貰うよ。会話は全てアスティリーシャが開発したこの通信機で上に筒抜けだから。
 今頃ガーネットさんとメノウさんが貴方の番を探し出してる頃かな。」

 悔しそうに歯を食い縛る元婚約者が見える。
 
 「罪人がトロルゴアに入国する時、二度と罪を犯さないと誓って入国するものだ。そのトロルゴアで罪を犯したなら今度はどうなると思う?しっかり罪を償って貰うよ。」


 コハクさんがそう言うと元婚約者はスッと気を失い手から力が抜け、眠りに落ちた。
 仰向けだった元婚約者を足で蹴りうつ伏せにする。

 あぁ、その仕草が悪者みたいでギャップにやられそう。

 テキパキと元婚約者を拘束する彼を観察しているとパッとこちらを見た。
 アッサリと終わってしまった彼らの戦いに気が抜けてぼんやり眺めていた私は目が合っても何も出来ない。

 「・・・ヒスイ?起きれたの?呪いは?」
 「動こうと必死でもがいていたら・・・動けました。それにしても、コハクさん強いですね。」
 
 コハクさんの瞳をよく見ると赤い気がする。

 「鬼人の血が濃いって知ってから鬼人の事も色々調べていて、それで色々と出来ることが分かってきたんだ。・・・怖い?よね。」

 何やら落ち込んだ様子で聞くコハクさんに私は首をブンブン振って否定した。

 「怪我をしてないかヒヤッとはしましたけど怖くないですよ。むしろ惚れ直しました。」
 
 ドキドキする胸を抑えながら言うと、拘束を終えたコハクさんが目の前にやってくる。

 「この人を警備隊に引き渡すけどいいね?」
 「勿論です。」
 「わかった、起きたばかりで申し訳ないけど呪印のスタンプお願いしてもいい?このままだと誰もこの部屋に近づけないから。」

 呪印ってそんなに効果あるの!?
 コハクさんの赤い瞳も関係するのだろうか。道具を彼から受け取り、顔に手を添えると何やら耐える様な表情をする。やっぱり怪我をしているのだろうか?
 
 ペタリと呪印にスタンプを押すとフゥっと息を掛けてインクが乾く様に手で扇ぐ。

 呪印へのスタンプが終わったのを見計らったかの様に警備部隊が駆けつけるとあっさり連れて行かれた元婚約者。

 危機は去った!

 ホッと胸を撫で下ろすと緊張が解けて医務室のベッドに座わる。
 カッコいいコハクさん見たさにずっと立ってたけれど、約2日間?寝たきりだった体が少し疲れたみたいだ。
 もう一度ギシリとベッドが軋む音がして隣にコハクさんも座った事に気がつく。そちらを見れば回復薬を手渡された。

 「飲める?」
 「はい。」

 ちびちびと飲むけど一口でも体の回復が凄まじく驚いた。

 「学園長が一番良い回復薬を数本置いていったんだ。」
 「こんな良い回復薬を?倒れる前より元気にになったかもしれませんよ?これ。」

 腕をぐるぐる回すと羽のように軽い。研究尽くしで固まった体が嘘の様。

 「君がやった事を考えれば当たり前の配慮だし、まだまだ償いにはほど遠いよ。君の作った魔石で学園長の奥様はこの世の薬や治癒魔術師でも治らなかった病が治ったそうだから。」
 「本当ですか!?ではやはりあれは・・・。」
 
 少しの沈黙の後、辛そうな顔で答えをくれる。

 「女神の癒しに極めて近い魔石だって。」
 「そう、ですか。」

 あぁ、それはまずい。

 すこし考えていると彼が欲に揺らぐ熱い眼差しで私を見ているような気がした。
 そちらに目を向けるとその瞳と目が合う。

 「ヒスイ」
 「何ですか?」
 「俺の事、好き?」

 突然の事に胸がギュッとした。
 そんな事を聞くなんてコハクさんにしては珍しい。だけど、こういう事は伝えるべき時に伝えなければいけない。聞かれるという事は何か不安を感じている筈なわけで、伝えるべき時は今な訳で・・・。

 「好きですよ。貴方の戦うカッコいい姿が見たくてもがいたら呪いが解けた程に。」

 ハッキリと目を見て、ドキドキと高鳴る胸を手で抑えながら言った。
 目を丸くして驚いた表情をしたコハクさんはプッと吹き出してから可笑しそうに笑う。

 「何それ、本当に?ふっははっ、やっぱりヒスイは可愛い。」

 笑いながら抱き寄せてくれる彼の体温と鼓動を近くで感じる。髪を撫でる彼の手が心地よくてもう一度眠れそうなほど。
 居心地よく収まって居ると、急に体に体重がかかり背中に少し固いベッドの感触。
 目の前には天井と上気した彼の顔が見える。

 さっきまで楽しく笑ってたのに急展開。

 「ごめん今の俺、少し変みたい。戦った後で興奮が冷めなくて・・・鬼人の力をいくつか試してみたからかもしれない。君を自分のものにしたくて仕方ない。」

 見つめられているだけで溶けてしまいそうな程熱のこもった視線。闘いのあとで汗が伝う肌は良い香りが漂ってきて色気が凄い。

 「鬼人の事調べていて、呪印の事で分かった事が有るんだ。」
 「分かった事?」

 コハクさんの指が私の頬から顎へと滑り撫でる。コハクさんらしからぬ色っぽい仕草。

 「ヒスイの態度を見て、呪印に触れると魅力の効果があると思ってた。だけど違った。呪印は触れた人の本音を引き出すそうだよ。」
 「ほ、本音。」

 うっとりと微笑むコハクさん。
 心臓のドキドキがヤバい。

 呪印に触れたら本音が出るなんて・・・。

 「私・・・コハクさんが最初から大好きって事ですか!?」
 「そう。」

 にっこりと本当に嬉しいと言うように笑う彼の笑顔が眩しい。

 「祖父の記録に残ってたんだ、鬼人の高い能力を求め野心のある者は恐怖を越えてやってくる。呪印に触れ、本心を聞き、それでも協力したい者に力を。って。」

 私をベッドに押し倒した体制のまま、グッと何かと戦う様に辛そうな顔をする。瞳も赤いままだ。

 「俺から退く事が出来なくて申し訳ないんだけど、俺の下から逃げれるかな?このままだと良くないのに、自分ではこれで精一杯で。君が逃げてくれないと・・・いやらしい事しちゃう。まさかこんな副作用あるなんて・・・祖父の記録には書いてなかった。」

 いやらしい事。
 それってエッチな事?
 やぶさかではない!

 だけど逃げて欲しいのだろうか?逃げたら彼は苦しいままなのでは。
 コハクさんの気持ちと今の状況、私の気持ちから総合的に判断した結果。

 「やらしい事をしても、良いんじゃないでしょうか。わ、私は婚約者ですし・・・コハクさんとなら」

 総合的に結果を出すつもりが自分の欲がつい出てしまった。そう呟いてしまえば彼の瞳が赤さを増し、今までのコハクさんからは考えられない程に強引で欲まかせなキスが訪れた。

 医務室のベッドがその動作だけでギシリと軋み、これから行われる行為への期待を高める。

 
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