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美しい少女【ルナス視点】

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 僕は道端に捨てられていたらしい。国王陛下と当時3才だった第一王子が偶然馬車で通った際に赤子の僕を見つけて下さったそうだ。
 幼い第一王子は醜い私を普通の赤子を見るのと同じように接し、駄々をこねて城へ連れ帰った。その後、目の悪い魔術師ラグラ・ウォルズマー様に預けられ、その人を父と慕い生きてきた。
 物心ついた時には幸いにも魔術に適正が有った事、目が悪い父の手伝いをする事で役に立つ事ができた。

 たまに王子が遊びに来て話もしたが、他の者に見つかると見た目を馬鹿にされたり八つ当たりで蹴られる事もある。嫌な事しか無いので魔術に没頭し隠れて過ごす日々だった。

 8才になった頃。いつもの様に王子がやって来て王城のガーデンパーティーの話を楽しそうにしてきた。同世代の子供が多く集まるパーティーだ。好奇心から少し見てみたいと思い、手頃な大きさのタオルを被り、長い前髪で鋭い目を隠し、建物の影から覗きに行った。

 皆、綺麗な服を着て美しい容姿で・・・僕とは大違いだった。
 世界が違いすぎて、もしかしたら友達が出来るかもしれないと思っていた1ミリ程の期待もしぼんで無くなる。

 「ねぇ、あの噂知ってる?宮廷魔術師の中に醜の象徴を4つも持ってる魔術師がいるらしいわ。4つもよ。私達と同じくらいの男の子ですって。どれだけ醜いのか気にならない?」

 一人の令嬢が大きな声で話始めた。きっと僕の事だ。

 「4つも持って生まれるなんて有るわけ無いだろ、もし本当なら人じゃなくて魔物なんじゃないか?
 見つけたら俺が退治してやる。」

 「本当に出来るの?怖くて逃げ出すんじゃない?」

 「よし!それなら今から探検に行こうぜ。魔物は俺が見つけてやる。」

 パーティーに飽きたのだろう。一番体格の良い男の子が言い出すと、俺も、私もとほとんどの子供が城内探索へ走り出した。

 震える足で建物の影から影へ、その集団とは逆の方向へ死角になるように移動していく。
 声が遠くなると恐怖でその場にペタンと座る。早く帰ろうと思うのに、あの集団に出くわしたらと思うと震えが暫く止まらなかった。


◆◆◆


 「あの・・・すみません、タオルを被ったお兄さん。」
 「!!」

 落ち着いた頃、声を掛けられた。驚いて顔を上げるととても美しい女の子が顔色を悪くして目の前に立っている。隠していても隠しきれてない僕の醜さにそんな顔をしているのだろうか。

 「気がついたら皆さん・・・居なくなってて・・・。」

 あ、知らない内に置いて行かれたのか。

 「皆さんは冒険に行きました。」

 被ったタオルを強く握りしめ、長い髪で目を改めて隠して内容を濁して伝える。

 「あのね、今日のデザート全種類食べてみたくて、でも全部は食べきれないから、それぞれを半分こしてお皿に並べてたの。でも全部終わって気がついたの。」

 美しい女の子は泣きそうな顔で続けた。

 「半分になったデザートを乗せたお皿は2つ出来るの・・・こんなに・・・私・・・食べれない。でも、お皿に盛ったら残したらダメってお母様いつも言うから・・・でも、絶対食べきれない。」

 泣きそうな顔から本格的に泣き始めた女の子。

 「お願いします、こっちのお皿の、食べるのでずだっでぐだざい・・・。うぅ・・・」

 デザートを綺麗に半分こすることに専念したら、友達に置いて行かれ、食べきれないデザートを両手に持って泣く女の子にとても気が抜けた。

初めて食べる美味しいデザートの数々。初めて女の子と話をしながら楽しく食べた。何度も女の子はありがとうと言っていたけど自分がありがとうと言いたかった。
 僕の中にある父や王子とでは無い唯一の良い思い出として残った。

 その後、アーシェリア・トランヴェジェールが第一王子の婚約者候補にと名前が上がり、姿絵を見て「やっぱりな」と思う。醜い僕の胸がチクチクするのだった。

 第一王子は見目が良く、優秀で社交性の塊、そして博愛主義者みたいな所がある。だから僕を何とも思わないのだろう。そんな王子の完璧そうに見えて唯一の欠点は異性との関係だった。この人と決められず婚約者を誰にするか何年も決められなかった。そして候補以外の異性とも親しい。

 第一王子は23歳になっても婚約者を選べず、痺れを切らした国王陛下が【婚約の儀】をするからその日までに必ず決めろと王子へ圧力をかけた。

 そして今回の事件が起こったのだ。

 美しく育ったアーシェリア嬢が魔憑きになれば、自分が有力候補だと思っての犯行だそうだ。

 王子の婚約者が決まれば何かしら揉め事が起こるだろうと、城内を警戒していた僕は倒れている彼女を見つけて久しぶりに焦ったと思う。彼女を背負って必死に走った。

 顔に出さないまでも警戒していたトランヴェジェール夫妻だったが、魔物祓いを拒否されても手段を変えて魔術式を組み直し魔物祓いをしていく僕の魔術をキラキラした目で見てきた。

 「私も魔術を使えたら・・・」

 そう溢す言葉につい「誰でも出来る魔術もあります」と話せば「本当かい!?魔術のセンスが無いと諦めていたのだけど・・・」と雑談も増えた。
 まだぎこちないが、嫌な顔をせず話してくれる人が増えて嬉しい気持ちになった。


◆◆◆◆


 それから5日目の朝、第一王子の婚約者は決まった。
 アーシェリア嬢の回復を待っていたが、魔物をアーシェリア嬢へ取り憑かせた犯人の婚約者候補を除いた残りの一人は王女のお気に入りらしく押し通したらしい。王子より年上のしっかり者だ。だけどアーシェリア嬢のこれまでの努力を思うと複雑だ。

 魔憑き事件が起きてから1ヶ月たった頃、やっと本人の意思で体を動かせるようになった。
 その時、怖がらせてはいけないと思い、顔を隠し離れた。
 魔物祓いを拒否するなんて何かしら理由があるんだろう。しっかりと話をして魔物祓いを拒否しなければどの魔術師でも魔物祓いができる。僕みたいなのは関わらない方が良い。


◆◆◆◆


 それから数日。魔物祓いはできただろうかと時々思いながら魔術の研究を続けていた。

 「ただいま、ルナス。ちょっといいかい?」
 「お帰りなさい、今なら大丈夫です。何かありました?」

 目が悪いのに毎日フラフラっと何処かへ行く父が上機嫌で帰ってきた。

 「前から話してた、お手伝いさんなのだけど女性でもルナスは大丈夫かい?やっぱり求人を出すだけ出してみようと思ってね。」

 誰も来ないと思う。という言葉を飲み込んだ。

 僕が幼かった頃は、まだ醜の象徴も小さかったから手伝いが居たのは記憶にある。
 だけど僕が成長すると求人を何度出しても誰も来なくなった。だから僕は必死に父の手伝いをしたけれど、もし来たら助かる。手伝いの人がいる間は別室に居ればいい。父が助かるなら努力しよう。
 
 「来てくれるなら誰でも神様かと敬える自信があります。」
 「ははは、そりゃ良いね。」

 誰も来る筈がない、だけど父の負担を軽くするためにも誰か来て欲しいと願いその日は夕食を一緒に食べて眠った。
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