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増す母親感。

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 お手伝いさんを初めて5ヶ月。

 空は太陽の日差しがジリジリと輝き、目を背けても暑くて仕方ない。季節は夏。

 私の正規就職の話も無く、日雇いだけど何だかんだで延長して貰えている。
 ルナス様との仲はやっと【仕事仲間】といった所だろう。ルナス様を不快には思っていないという事は態度で伝わったと思うけど、好意は伝わって無い気がする。

 朝食も最初の頃はローブを着て恐る恐る入って来ては、そのまま顔を隠して食卓に並ぼうとしていたけど「ローブが汚れてしまいますよ?脱いで食べましょう。」と何度か優しく言うと着用せず来てくれる様になった。

 慣れてきた朝食の準備といつものコーヒーを出す。

 皆でご飯を食べて、食器を洗い、掃除をして・・・これ完全にお母さん感溢れてません?
 このまま異性として見れなくなってしまったらどうしようと乙女心は焦っていた。

 そして、ラグラ様の目を治そう計画。ネムは順調に中級魔物を目指して成長している。
 最初は消えても良いと言ってたネムがツガイが現れてからキラキラしている。純粋に嬉しい。

 だけど魔動人形計画はなかなか上手く行ってない様だ。
元々の仕事に加えて、人形を作っているというのもあるのだけど、木で作っていた人形が「硬いから嫌だ。女性らしい柔らかさじゃないと」とラグラ様憑きの魔物が言うのだとか。
 今、人の肌に似た感触の素材を研究しているらしい。素材さえ出来てしまえば、人形職人へ依頼を出せるそうだ。

 余談だけど魔物の名前はメメになったそうだ。メメはなかなかワガママな気がするが、ネムをツガイとして求めた見る目のあるヤツである。

 室内は魔術で涼しいとはいえ、水分補給は大切。
私は定期的に飲み物をラグラ様とルナス様に持っていった。

 ラグラ様に届けた後はドキドキのルナス様だ。

 「ルナス様お飲み物を置いておきますね。」
 「ありがとう。」

 このありがとうの為に生きていると言っても過言ではない。
 だけどルナス様の手元は粘土の様な物をフニフニ触りながら頬杖をついている。
 やはり上手く行ってない様だ。

 「あまり上手く行ってないのですか?」

 いつもなら声は掛けないのだけど、あまりにも行き詰まっているようだったのでつい聞いてしまった。

 「そうですね、女性の肌の柔らかさを再現してくれというメメの要望ですが・・・女性の柔らかさなんて想像つきません。僕自身の、体はそれなりに筋肉質ですからね。」

 ルナス様が捨て子だった話はラグラ様から世間話をしているときに聞いた。
 お母さんに抱き締められた記憶も無いのだろう。何だか目頭が熱くなる。

 「触ってみますか?」

 ・・・

 「・・・・・・何を言ってるんですか?」

 つい言葉に出していた。だって身近に女性がいるじゃないか。お母さん感しか出せてないけど。

 「一応、嫁入り前なので腕とかでしたら。」

 「・・・」

 ルナス様めっちゃ考えている。眉間にシワを寄せて考えている。

 「僕に触られたら嫌じゃないですか?無理しなくて良いんですよ。仕事熱心なのは分かりますがそれは良くない。」

 ・・・

 「醜い僕に触れられたら、貴方が汚れてしまいそうだ。」

 最後、小さく聞こえないように、だけど本心からの言葉。私の耳は静かな室内で聞き捨てならない言葉を拾った。

 「ルナス様は素敵な人です。汚れるなんて思いません。」

 思わずルナス様に近づくとルナス様が椅子から立ち上がり壁に逃げる。
 そっちは行き止まりだぞおっちょこちょいめ。

 「ルナス様こそ、そんなに逃げて。嫌なんですか?私に触られるのが。」

 「そんな事あるはずない、貴女は美しいじゃないか。」

 ルナス様から美しいのお言葉頂きました!!頑張れ自分!!見目だけはいいんだ自分!!

 「でしたら触れてみて下さい。」

 壁と私の間で慌てるルナス様に向かって軽く両手を広げてみる。
 あー。とか意味を持たない言葉が出てきている。しばらくしてから顔を赤くしてゴクリと喉が鳴り、意を決した様に目をギュッと閉じて手が延びてくる。

 あれ?そのまま手を伸ばすと・・・

 ぷに。

 胸ですよ。
 だけどルナス様はそっぽを向いたまま目をギュッとしているままだ。多分どこを触っているか気がついて無い。どうしよう、そこは胸ですよって言うの?私が?

 ぷにぷに。

 「や、柔らか」

 ぷにぷにぷに。

 「・・・あっ、あの~」

 口に手を当てて恥ずかしさを隠していたけど、あんまりにも触るものだからついに変な声が出てしまった。

 ハッとして目を開けたルナス様と口に手を当て顔が真っ赤だろう私の視線が交わった。

 「うわぁあああ!!」
 「あ、ルナス様!!」

 叫んだルナス様。テンパっている。

 今どういう感情なの、どうだったの!!感想を!!そんな事を思う私もテンパっている。

 テンパったルナス様は壁に勢いよく頭をぶつけ、そのまま倒れた。

 「どうしたルナス!?」

 目がまだ悪いながらも声を聞きつけ急いで来てくれたらしいラグラ様。私の居るであろう方向を見つめ冷ややかな目を向ける。

 「ち、違います!!私は無実です!!」

 むしろ許可してない部位を触られてます!と言いたいけど言えなかった。
 その日のルナス様は目覚めても上の空で仕事にならなかった。


◆◆◆◆◆


 そして翌日から、色々あったはずなのに何も無かったかのように時が過ぎていった。



 いつも通り、熱中症対策で教務の合間に飲み物を運ぶ。


 「ルナス様、お飲み物置いておきますね。」
 「ありがとう。」

 ありがとうの後、珍しく何か言いたげに視線向けられたけどルナス様からは何も言葉は出てこなかった。

 「前の事気にしてますか?」

 「う・・・申し訳ないと思ってるんです。
 あんな事。本当にすみませんでした。」

 本当に真面目な人だな。事故みたいなものだったのに。

 「良いんですよ、気にしないで下さい。」
 「・・・気には、するでしょう?僕みたいな男に触られて。さすがに不快だったはずだ、もう来てくれないんじゃないかと思ったんです。」

 何だか胸が熱い。ひどく悩ませてしまっていたんだ。

 「来ますよ。私が触っても良いって言ったんじゃないですか。貴方に触られるのが嫌なら言いません。」

 「触っても嫌じゃ無い?本当に?」

 少し言葉が幼い。人に見目で色々言われて来た人だ。悲しい思いを沢山してきたのだろう。あぁ、その分甘やかしてあげたい。私が甘やかしたい!!
 衝動を止められず。椅子に座るルナス様に目線を合わせて真っ直ぐ見た後、頭を抱える様にギュッと抱き締めた。


 「私はルナス様が大好きですから。嫌なんてこれっぽっちも思わないんです。」


 抱き締めているから顔は見えないけど、拒絶はされてない。せっかくだから頭を撫でる。髪がさらさらで気持ちいい。

 そうしていると、私の背中へルナス様の手がかかる。まだ嫌じゃないか心配の様で添えるだけだ。そして嫌がらないのが分かったのか力を込めて抱き返してくれた。

 どのくらいそうしていただろう。そろそろお仕事しなくてはと離れようとすると、ルナス様が潤んだ瞳で見てくる。



 あーーーーー!!可愛い!!



 誘惑に負けて抱き締めるを繰り返して、気がついたら帰る時間の3時になっていた。
 決死の思いで離れた後は、ラグラ様に平謝りしてから急いで残りの業務を行った。
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