ダブル・ミッション 【女は秘密の香りで獣になる2

深冬 芽以

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Mission 6*共同戦線

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 翌朝。

 昼近くに伊織に起こされてようやく、俺は目を覚ました。

 伊織がベッドから出たのにも気づかないほど、熟睡していた。

 伊織の匂いに興奮し、安らぐ。初めて来た家なのに、ずっとここにいたいと思う。

「なぁ、やっぱり一緒に暮らそうぜ」

 昨夜のカレーを食べながら、言った。

「無理」

 最初の時とは違い、伊織は顔色を変えずに即答した。彼女の返事は予想していたから、ショックは受けなかった。

「今は……か?」

「え?」

「『無理』なんであって『嫌』ではないんだろう?」

 伊織は少し複雑な表情で、お茶を飲んだ。

「で? 昨日のUSBの解析結果は?」

「そのことなんだけど……。圭、データの数字が改ざんされている状態で会計監査に通るもの?」

「ん?」

「改ざんされているのは少額で、あまり気にも留めない項目なの。だけど、それも毎月のこととなれば帳簿との誤差に気付く人がいてもおかしくないでしょう? どうして、誰も気づかないの?」

「SIINAの規模だと、公認会計士の監査は義務付けられていないんだよ。一応、会計事務所に監査を依頼しているようだけど、経理で作成した書類に不備がないかをチェックしているだけだから、データの改ざんにはもちろん、領収書にも目は通していないだろうな」

 俺はカレーを食べ終えて、ティッシュで口を拭いた。

「経理で作成する決算書関係は、数字が合わなくてもある程度の額なら使途不明金で計上すれば問題ない。決算の後で不明金の使途が明確になったら、その時に決算修正すればいいんだ」

「なるほど……」

 俺の話を真剣に聞く伊織の姿に、俺は嬉しくなった。

 伊織に講義レクチャーする日が来るとは思わなかった。高校時代、テスト前は伊織に勉強を教わっていた。

「じゃあ、改ざんされたデータを復元出来たら、決算修正できる?」

「恐らく。データの復元は出来そうなのか?」

「恐らく」と言って、伊織はスプーンを置いた。

「ただ、復元には時間がかかりそうなの。データなしで改ざん箇所を特定できる?」

「全ての月次決算書と資材管理表、領収書や納品書を拾えば、ある程度は可能だろうな。ただ、これもかなり時間がかかるぞ」

 伊織は皿をシンクに運び、冷蔵庫を開けた。

「圭……今日の夜ご飯は何が食べたい?」



 料理で釣るつもりか……。



「んーーー……」と、俺は返事を濁した。

 伊織の思惑に乗るのはやぶさかではないが、食いもんで思い通りに出来るとナメられるのはごめんだ。

「他にわかったことは?」

 俺は聞いた。

「書き換えられたのは、服飾部の資材の在庫数や入荷数、仕入値、交際費だった。けど、どれも少量、少額の書き換えで、犯人の目的がわからないの」

「単純に考えれば、横領……だよな」

 俺はわざと『横領』と言う言葉を使った。伊織の反応を見るために。

「手が込んでいる割に大した金額じゃないところを見ると、違うと思う」

 彼女は顔色を変えずに言った。



 伊織が調べているのが横領でないとなると、SIINAは二つの犯罪に巻き込まれているということか……?

 ぶっちゃけて聞いて、伊織が素直に話すとは思えないしな……。 



 伊織はカップを二つ、テーブルに置いた。コーヒーの香ばしい香りがする。

 俺は考えを巡らせながら、一口飲んだ。伊織も何か考え込んでいた。
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