ダブル・ミッション 【女は秘密の香りで獣になる2

深冬 芽以

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Mission 14*もう一人の裏切者

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「トマトと生ハムの冷製パスタとペスカトーレです」と言って、ウエイトレスが大皿を二枚、運んできた。

 冷製パスタを蓮兄の前に、ペスカトーレを私の前に置く。



 悟之さんが笠原さんの蓮兄への気持ちを逆手に取って、利用している?



 二人が恋愛関係にあるとは、どうしても考えられなかった。

「そう言えば、芹沢は?」

 蓮兄からは、三人で食事しようと誘われていた。

「今日中に修正申告の準備が終わりそうだから、って」

「無理をさせたな」

「それももう、終わりだから」と言いながら、私はフォークをくるくる回す。

「いや、芹沢にはもうひと仕事頼むと思う」

 蓮兄はトマトと生ハムを口に入れた。

「T&Nからの業務提携の申し出を受けようと思う」

「え?」

 予想していなかった。

「……と言うか、SIINAの経営をT&Nに任せたい」

「ちょっと待って。あの話はSIINAをSELFデザインから守るための提案でしょ? SELFが手を引いた今、必要ないじゃない」

「わかっている。だけど、SIINAの経営に関しては、少し前から考えていたんだ。事務所を畳むか、どこかに引き取ってもらうか」

 初耳だった。

「どうして? 経営は順調じゃない」

「デザインを……したいんだよ」と言って、蓮兄はフォークを置いた。

「俺も綾香も経営者になりたかったわけじゃないんだ。ただ、一緒に好きなデザインをしていたかった。けど、デザインが認められて仕事が増え、社員を増やし管理するようになって、俺も綾香も二人で会う時間も持てないほど忙しくなった。それも、デザイナーとしての仕事の為じゃなく、経営者としての仕事の為に」

「なら、受注をセーブして、蓮兄と綾香さん自身もデザインに関われるように――」

「そうすると、社員を養えなくなる」

 確かに、そうだろう。

「近々、築島さんにお願いするつもりだ。社員はそのままに受け入れてもらえないか」

 そう言った蓮兄の顔は、穏やか。



 もう、決めてるんだ……。



「じゃあ、経営から離れたら結婚するの?」

「ああ。綾香も受け入れてくれたよ」

「そっか……」

 私はフォークにパスタを巻き付け、口に入れた。

「綾香さんがお義姉さんかぁ……」

 考えると、くすぐったい気持ちになった。

「なんか……嬉しいかも」

「俺は微妙だよ。芹沢の義兄あにになるのは」

「え? どうして圭――」

「結婚するんじゃないのか?」と、蓮兄は驚きの表情。

「まだわからないよ」

「あー……。そういうことか」と、今度は納得の表情。

「何?」

「外堀から埋めようって考えだ」

「何の話?」

「俺とお前が兄妹だってバラした少しあと、芹沢が俺に言ったんだよ。『伊織は俺が幸せにしますから安心してください』って」



 え――。



「それを聞いて、俺は綾香にプロポーズしたんだよ」

「なに……それ……」

 声が、震える。

「なぁ、伊織」

 唇を噛んで、涙を堪えるのが精いっぱい。

「幸せになろうな? 俺たち」

「蓮……に――」

 口を開いた瞬間、涙がこぼれた。
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