【ルーズに愛して】私の身体を濡らせたら

深冬 芽以

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7.面倒な女心、複雑な男心

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「代わりに北事務所こっちに来る不破ふわさん? って知ってますか?」

「うん。何度か会ったことあるよ。合同忘年会の時とか。すっごいテキパキしてて、忙しいの」

 じっとしていない、という意味で、忙しい、と言った。

「社労士の資格持ってるから、北事務所こっちに来てもらって、社労士事務所を併設させたみたい」

「社労士か……」

 社会保険労務士は、企業から委託されて、雇用、労災、健康保険や厚生年金などの手続きをしたり、労働基準監督署やハローワーク、年金事務所などに提出する書類を作成し、手続きをしたりする。

 資格を持っていなくてもその業務は代行できるけれど、資格を持った人間の監督の下で、という条件がある。

「麻衣さんは社労士そっちの仕事の経験あるんですか?」

「軽くかじった程度ならね。鶴本くんが入社してくる前に、所長が懇意にしている社労士事務所に出向したことがあったの。たった半年だったから、手続きのざっくりとした流れを覚えるので精いっぱいだったけど」

「難しいです?」

「簡単ではないよね。雇用形態とか条件とか、いろんなパターンがあって、それに応じた手続きがあるから、なんせ覚えることがあり過ぎて」

 鶴本くんが深いため息をついた。が、目の前で肩が上下に動くのを見ていたからわかるだけで、はぁ、という声は聞こえなかった。隣に座っていても聞こえないほど、店内は騒がしかった。

「独り立ちしたばっかりの鶴本くんに、社労士業務を覚えろなんて言わないと思うよ? 所長」

「そうかもしれないですけど……」

 私の隣のスーツを着た男性が、突然大声で笑った。驚いて、私のグラスを持つ手に力が入った。

「出よう」

 鶴本くんはそう言うと、伝票を持ってさっさと立ち上がった。

 自動ドアが開き、私たちが出て、閉まった。すると、それまでの騒がしさが耳鳴りのように感じた。

 この二週間で五回、一緒に食事をしたけれど、全て鶴本くんが支払った。

 私に気遣われるのを嫌がるだろうと思って素直にご馳走になっていたけれど、彼のお給料を知っている私としては、心苦しかった。

「ご馳走様でした」

「どういたしまして」

「次は……私が出すから」

「……」

 何となく、目線を足元に落とした。

『気にしないで』とか『今度はね』とか、適当に流されるかと思ったから、無言で返されると不安になる。



 気を悪くしたかな……。



 けれど、無理はさせたくないし、そんな関係はきっと長く続かない。



 ん?

 私、鶴本くんと長い関係を望んでるの……?


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