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7.面倒な女心、複雑な男心
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「麻衣さん」
「え?」
ハッとして顔を上げると、鶴本くんが右手を差し出していた。
その表情は、ちょっと寂しそうで、不機嫌そうには見えない。
私はおずおずと左手を差し出した。
手を繋ぐのは照れ臭い。
それに、周囲の目も気になる。
一緒に歩いているだけなら誰も何も思わないだろうけれど、手を繋いでしまったらいかにも付き合っていますと公表しているようなものだ。
いくら若く見られると言っても、やっぱり私は鶴本くんより年上に見えるだろうし、太っている外見も鶴本くんとは釣り合っていない。
手を繋いで歩いて恥をかくのは、鶴本くんだ。
それなのに、力強く私の手を握って、心なしかちょっと嬉しそうな顔をされると、罪悪感でいたたまれない。
「週末、暇?」
「え? あ、うん。買い物に行こうと思ってただけで――」
「飯、食わして?」
お金のことで気を悪くしたわけじゃなさそうで、ホッとした。
「うん! 何が食べたい?」
「唐揚げとか……ハンバーグ? あ! グラタンとかも好き」
「え? どれ? あ! 〇山に美味しいハンバーグ屋さんがあるよ。ちょっと遠いけど――」
「はっ!?」
鶴本くんが足を止め、と言うか、突然勢いよく振り返ったから、私は急には止まれずに、鶴本くんの腕に体当たりしてしまった。
ひっくり返るほどではなかったけれど、身体が仰け反り、鶴本くんが鞄を持つ手で私の腰を支えてくれた。
「なに、急に――」
「違うから」
「はい?」
「手料理! 麻衣さんの手料理が食いたい」
「……ああ! いいけど、別にすごく料理上手ってわけじゃないよ? 割と、フツーな――」
「はあ?」
鶴本くんの拍子抜けした声。
それから、深いため息。
「何で、そんなに反応軽いの?」
「へ?」
「彼女の手料理とか、俺、初めてだから、ねだっていいのかめっちゃ考えたんだけど! 麻衣さんはそんな軽い感じで、男に手料理食わしちゃうの?」
……。
「俺、彼女の手料理とか食ったことないから、めっちゃ憧れてて。麻衣さんが食べてる弁当とか、めっちゃ美味そうだなって思ってたし。けど、そういうのねだるのってウザかったりしないのかなとか、めっちゃ考えてたんだけど!」
鶴本くんがそこまで興奮する理由に共感は出来ないけれど、とにかく、色んなことが『めっちゃ』なのはわかった。
アルコールのせいもあって、鶴本くんの口から勢いよく飛び出した、いくつもの小さな雲がふわふわと空に昇っていく。
「つーか! 部屋で二人きりとかも避けてたのに、そんなに簡単にOKしちゃうわけ? がっついてると思われたくなくて、めっちゃ我慢してたんだけど!」
また、『めっちゃ』って言った。
怒るのがわかっているから、鶴本くんには言えないけれど、可愛いな、と思った。
部屋のこともだけれど、鶴本くんは付き合い始めた日以来、キスもしてもない。
今の言い方だと、それも『めっちゃ』我慢しているのかもしれない。
方向性が正しいかは別として、大事にされているのは『めっちゃ』伝わった。
「で、何がいい?」
「え?」
「週末は、お家デートしよう」
明日は定時で上がって部屋の掃除をしなきゃな、と思った。
「え?」
ハッとして顔を上げると、鶴本くんが右手を差し出していた。
その表情は、ちょっと寂しそうで、不機嫌そうには見えない。
私はおずおずと左手を差し出した。
手を繋ぐのは照れ臭い。
それに、周囲の目も気になる。
一緒に歩いているだけなら誰も何も思わないだろうけれど、手を繋いでしまったらいかにも付き合っていますと公表しているようなものだ。
いくら若く見られると言っても、やっぱり私は鶴本くんより年上に見えるだろうし、太っている外見も鶴本くんとは釣り合っていない。
手を繋いで歩いて恥をかくのは、鶴本くんだ。
それなのに、力強く私の手を握って、心なしかちょっと嬉しそうな顔をされると、罪悪感でいたたまれない。
「週末、暇?」
「え? あ、うん。買い物に行こうと思ってただけで――」
「飯、食わして?」
お金のことで気を悪くしたわけじゃなさそうで、ホッとした。
「うん! 何が食べたい?」
「唐揚げとか……ハンバーグ? あ! グラタンとかも好き」
「え? どれ? あ! 〇山に美味しいハンバーグ屋さんがあるよ。ちょっと遠いけど――」
「はっ!?」
鶴本くんが足を止め、と言うか、突然勢いよく振り返ったから、私は急には止まれずに、鶴本くんの腕に体当たりしてしまった。
ひっくり返るほどではなかったけれど、身体が仰け反り、鶴本くんが鞄を持つ手で私の腰を支えてくれた。
「なに、急に――」
「違うから」
「はい?」
「手料理! 麻衣さんの手料理が食いたい」
「……ああ! いいけど、別にすごく料理上手ってわけじゃないよ? 割と、フツーな――」
「はあ?」
鶴本くんの拍子抜けした声。
それから、深いため息。
「何で、そんなに反応軽いの?」
「へ?」
「彼女の手料理とか、俺、初めてだから、ねだっていいのかめっちゃ考えたんだけど! 麻衣さんはそんな軽い感じで、男に手料理食わしちゃうの?」
……。
「俺、彼女の手料理とか食ったことないから、めっちゃ憧れてて。麻衣さんが食べてる弁当とか、めっちゃ美味そうだなって思ってたし。けど、そういうのねだるのってウザかったりしないのかなとか、めっちゃ考えてたんだけど!」
鶴本くんがそこまで興奮する理由に共感は出来ないけれど、とにかく、色んなことが『めっちゃ』なのはわかった。
アルコールのせいもあって、鶴本くんの口から勢いよく飛び出した、いくつもの小さな雲がふわふわと空に昇っていく。
「つーか! 部屋で二人きりとかも避けてたのに、そんなに簡単にOKしちゃうわけ? がっついてると思われたくなくて、めっちゃ我慢してたんだけど!」
また、『めっちゃ』って言った。
怒るのがわかっているから、鶴本くんには言えないけれど、可愛いな、と思った。
部屋のこともだけれど、鶴本くんは付き合い始めた日以来、キスもしてもない。
今の言い方だと、それも『めっちゃ』我慢しているのかもしれない。
方向性が正しいかは別として、大事にされているのは『めっちゃ』伝わった。
「で、何がいい?」
「え?」
「週末は、お家デートしよう」
明日は定時で上がって部屋の掃除をしなきゃな、と思った。
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