92 / 179
12. 湧き上がる不安
4
しおりを挟む
俺は麻衣の肩を抱く手に力を込めた。
「帰ろう、麻衣」
「う……ん」
麻衣は陸さんのハンカチを握り締め、どこか上の空で頷いた。
陸さんに何を言われたのか、気になる。
が、まずは、一刻も早く二人きりになりたかった。
「麻衣、またね」と、あきらさん。
「うん。あ! 大和、さなえに体調が良くなったら連絡するように言っておいて」
「おお」と、大和さん。
「またな、麻衣」と、陸さん。
「陸」
「そいつに泣かされたら、言えよ」
「り――」
「――泣かせません!」
俺は苛立ちを隠さずに言った。真っ直ぐ、陸さんだけを見て。
「絶対、泣かせませんから!」
こんなことでムキになれば子供扱いされるのはわかっている。だけど、言わずにはいられなかった。
ハッキリ、キッパリ、『あんたの割り込む隙なんかない』と意思表示したかった。
「行こう」
俺は他の人たちに会釈すると、麻衣の手を引いて歩き出した。
焦り過ぎて歩幅が大きくなり、麻衣が少し小走りになっていると気づいていたけれど、もう少し、もう少しと足を止めなかった。
「駿介?」
「ん?」
「あのっ、なんか、ごめんね?」
「なにが?」
「せっかく――っ、来てくれたのに、陸が――」
俺はピタッと足を止め、振り返って麻衣を抱きとめた。そして、そのまま抱き締める。
すぐ真横を歩いていたカップルにガン見されたが、構わなかった。
「あの人に、なに言われたの?」
「え?」
「さっき、耳元で」
「あ……れは、泣くな、って……」
「それだけ?」
俺の腕の中で、麻衣が小さく頷く。
それだけじゃないことはわかっていた。だけど、麻衣がそう言うなら、それ以上は何も言えない。
張り合ったって仕方がない。
俺とあの人たちとでは、付き合いの長さが違う。俺の知らない麻衣を知っている人たち。麻衣が、大切にしている仲間。
それでも、やっぱり嫉妬はしてしまう。
「好きだよ」
俺は彼女の頭を抱えて、言った。
「大好きだよ」
道の往来でこんなこと、恥ずかしすぎる。わかっているけど、言わずにはいられなかった。
余裕の笑みで俺を見る陸さんの顔が、頭から離れない。
「駿介……」
「ごめん」
「え?」
「嫉妬なんて……子供くさいよな」
こんなんじゃ、陸さんにつけ込まれる。もっと堂々としていなければ。
「寒いから、早く帰ろう」
俺は麻衣を抱き締める腕を離し、彼女の乱れたマフラーを整えた。
困った表情で俺を見上げる彼女の頬に触れると、その冷たさに驚いた。よく見ると、瞳も潤み、鼻の頭が赤い。
酒を飲んだ後だから、身体が冷えるのも早いのだろう。
「ごめん! 寒いよね」
麻衣がフルフルと首を振る。
「帰ろう」
俺は麻衣の手を引き、足早に駅を目指した。
「帰ろう、麻衣」
「う……ん」
麻衣は陸さんのハンカチを握り締め、どこか上の空で頷いた。
陸さんに何を言われたのか、気になる。
が、まずは、一刻も早く二人きりになりたかった。
「麻衣、またね」と、あきらさん。
「うん。あ! 大和、さなえに体調が良くなったら連絡するように言っておいて」
「おお」と、大和さん。
「またな、麻衣」と、陸さん。
「陸」
「そいつに泣かされたら、言えよ」
「り――」
「――泣かせません!」
俺は苛立ちを隠さずに言った。真っ直ぐ、陸さんだけを見て。
「絶対、泣かせませんから!」
こんなことでムキになれば子供扱いされるのはわかっている。だけど、言わずにはいられなかった。
ハッキリ、キッパリ、『あんたの割り込む隙なんかない』と意思表示したかった。
「行こう」
俺は他の人たちに会釈すると、麻衣の手を引いて歩き出した。
焦り過ぎて歩幅が大きくなり、麻衣が少し小走りになっていると気づいていたけれど、もう少し、もう少しと足を止めなかった。
「駿介?」
「ん?」
「あのっ、なんか、ごめんね?」
「なにが?」
「せっかく――っ、来てくれたのに、陸が――」
俺はピタッと足を止め、振り返って麻衣を抱きとめた。そして、そのまま抱き締める。
すぐ真横を歩いていたカップルにガン見されたが、構わなかった。
「あの人に、なに言われたの?」
「え?」
「さっき、耳元で」
「あ……れは、泣くな、って……」
「それだけ?」
俺の腕の中で、麻衣が小さく頷く。
それだけじゃないことはわかっていた。だけど、麻衣がそう言うなら、それ以上は何も言えない。
張り合ったって仕方がない。
俺とあの人たちとでは、付き合いの長さが違う。俺の知らない麻衣を知っている人たち。麻衣が、大切にしている仲間。
それでも、やっぱり嫉妬はしてしまう。
「好きだよ」
俺は彼女の頭を抱えて、言った。
「大好きだよ」
道の往来でこんなこと、恥ずかしすぎる。わかっているけど、言わずにはいられなかった。
余裕の笑みで俺を見る陸さんの顔が、頭から離れない。
「駿介……」
「ごめん」
「え?」
「嫉妬なんて……子供くさいよな」
こんなんじゃ、陸さんにつけ込まれる。もっと堂々としていなければ。
「寒いから、早く帰ろう」
俺は麻衣を抱き締める腕を離し、彼女の乱れたマフラーを整えた。
困った表情で俺を見上げる彼女の頬に触れると、その冷たさに驚いた。よく見ると、瞳も潤み、鼻の頭が赤い。
酒を飲んだ後だから、身体が冷えるのも早いのだろう。
「ごめん! 寒いよね」
麻衣がフルフルと首を振る。
「帰ろう」
俺は麻衣の手を引き、足早に駅を目指した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
体育館倉庫での秘密の恋
狭山雪菜
恋愛
真城香苗は、23歳の新入の国語教諭。
赴任した高校で、生活指導もやっている体育教師の坂下夏樹先生と、恋仲になって…
こちらの作品は「小説家になろう」にも掲載されてます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる