【ルーズに愛して】私の身体を濡らせたら

深冬 芽以

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12. 湧き上がる不安

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『ごめんね。今日も残業なの』

 昨日と同じ台詞。

『帰りはタクシーを使うから』

 これも。

『ごめんね』

 四日続けて同じ会話。

 本当に残業しているかなんて疑う気はない。

 ただ、今までは、遅くなっても俺が会いたがるからと、『○○時頃には帰るから』とか『会社を出る前に電話するね』とか言ってくれた。

 それが、今週は『ごめん』だ。

 会いたくない、と言われているも同然だ。

 原因はわかっている。



 あの、陸、って男……。



 他の誰とも違う、あからさまな挑発と敵意を感じた。

 サークルの飲み会の後から、麻衣の様子がおかしい。

 あの日は麻衣の部屋に泊まったけれど、『お酒臭いから』とか『疲れたから』とか理由をつけて別々の布団で寝た。

 翌日も、会話が途切れると何か考え込んでいたし、俺に触れられるのを拒む仕草もあった。それでも、多少強引に抱き締めれば抱き締め返してくれたし、キスにも応えてくれてはいた。

 だから、気にし過ぎだと思おうとしたが、月曜からの四日間、こうして会うのを拒絶されては、不安になる。

 俺は散らかった部屋に一人、カップ麺をすすっていた。

「まっず……」

 俺は割り箸を置き、スマホを眺めた。顔認証でロックが解除される。指で画面をスクロールし、カレンダーを表示させた。



 あと、七か月……。



 麻衣さんと付き合い始めて、来週で五カ月に入る。年末年始はお互いに帰省する予定だし、仕事始めでバタバタしていたら、六か月目に突入。一年なんてあっと言う間だ。



 クリスマスは一緒に過ごせんのかな……。



 先週、クリスマスの話をした時には、平日だし、クリスマスにこだわりがあるわけじゃないから、特別なことはしなくていいと言われた。

『仕事、優先で!』と。

 行政書士の仕事はともかく、社労士の仕事は年末年始は忙しい。というのも、十二月末で退職する人や、一月一日付で入社する人が多いから。建設関係の会社は、夏場だけの契約で雇用している人たちが多く、そのほとんどが十二月末を目処に契約期間満了として退職させる。その人たちは冬場は失業保険を貰い、春になったらまた契約してもらう。こうした季節労働者は、特例で始業保険がすぐに支給されるので、本人も会社も、社労士に手続きを急がせる。

 と言うわけで、麻衣さんが忙しいのは嘘じゃない。



 わかってはいるんだけどさ……。



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