93 / 179
12. 湧き上がる不安
5
しおりを挟む『ごめんね。今日も残業なの』
昨日と同じ台詞。
『帰りはタクシーを使うから』
これも。
『ごめんね』
四日続けて同じ会話。
本当に残業しているかなんて疑う気はない。
ただ、今までは、遅くなっても俺が会いたがるからと、『○○時頃には帰るから』とか『会社を出る前に電話するね』とか言ってくれた。
それが、今週は『ごめん』だ。
会いたくない、と言われているも同然だ。
原因はわかっている。
あの、陸、って男……。
他の誰とも違う、あからさまな挑発と敵意を感じた。
サークルの飲み会の後から、麻衣の様子がおかしい。
あの日は麻衣の部屋に泊まったけれど、『お酒臭いから』とか『疲れたから』とか理由をつけて別々の布団で寝た。
翌日も、会話が途切れると何か考え込んでいたし、俺に触れられるのを拒む仕草もあった。それでも、多少強引に抱き締めれば抱き締め返してくれたし、キスにも応えてくれてはいた。
だから、気にし過ぎだと思おうとしたが、月曜からの四日間、こうして会うのを拒絶されては、不安になる。
俺は散らかった部屋に一人、カップ麺をすすっていた。
「まっず……」
俺は割り箸を置き、スマホを眺めた。顔認証でロックが解除される。指で画面をスクロールし、カレンダーを表示させた。
あと、七か月……。
麻衣さんと付き合い始めて、来週で五カ月に入る。年末年始はお互いに帰省する予定だし、仕事始めでバタバタしていたら、六か月目に突入。一年なんてあっと言う間だ。
クリスマスは一緒に過ごせんのかな……。
先週、クリスマスの話をした時には、平日だし、クリスマスにこだわりがあるわけじゃないから、特別なことはしなくていいと言われた。
『仕事、優先で!』と。
行政書士の仕事はともかく、社労士の仕事は年末年始は忙しい。というのも、十二月末で退職する人や、一月一日付で入社する人が多いから。建設関係の会社は、夏場だけの契約で雇用している人たちが多く、そのほとんどが十二月末を目処に契約期間満了として退職させる。その人たちは冬場は失業保険を貰い、春になったらまた契約してもらう。こうした季節労働者は、特例で始業保険がすぐに支給されるので、本人も会社も、社労士に手続きを急がせる。
と言うわけで、麻衣さんが忙しいのは嘘じゃない。
わかってはいるんだけどさ……。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる