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12. 湧き上がる不安
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しおりを挟む自分でも驚くほど、店内に声が響いた。
「……すいません」
「いや。なんかあったか?」
「え?」
「この前と違って、余裕なさ気だからさ」
「余裕なんて、あったことないです」
強引に気持ちを押し付けて始めた関係だ。
麻衣の好意は感じても、愛までは感じられない。
大学の友達と親しそうにしている姿を見て、仕事が忙しいと会ってもらえないくらいで不安になるのがいい証拠だ。
自信も余裕も、欠片ほどもない。
「何を知りたいのか知らないけど、麻衣に振られた腹いせにデタラメ言うかもしれないだろ。元カレの言葉なんて信じんな」
確かにそうだ。
俺は本庄さんのことを何も知らない。
ただ、麻衣の様子からして、酷い目に合ったわけではないとは思った。
ただ、それだけ。
それだけで、麻衣の何を聞こうと思ったのか。
豚丼と天丼、それに味噌汁と漬物が俺と本庄さんの前に置かれた。
俺たちは無言で箸を取り、食べ始めた。
美味い。
こんな状況でなければ、もっと美味いと感じただろう。
「で? 何を聞きたいんだ?」
俺より一口分早く食べ終えた本庄さんが、言った。
「それとも、聞くのやめとく?」
本庄さんの言った通り、聞いてもデタラメを言われるかもしれない。聞かなきゃ良かったと思うかもしれない。
だが、聞いて後悔するのと、聞かずに悶々と過ごすのと、どちらが正しいのかなんてわからない。
俺にわかるのは、目の前には、麻衣の過去を知る男がいるという事実だけ。
「どうして、麻衣はあなたのプロポーズを断ったんですか?」
聞いてしまった。
結局、知りたいという欲求が勝った。
「麻衣の大学の友達のことと、何か関係があるんですか?」
「……本当に知りたいか?」
「はい」
「それで麻衣との関係がダメんなっても、俺を恨まずにいられるか?」
「……はい」
本庄さんは深いため息をつき、水を飲み干した。
「浮気、されたんだよ」
「……浮気? 麻衣が!?」
「ああ」
いきなり信じられないことを言われ、早くも聞いたことを後悔しそうだ。
浮気、なんて麻衣が最も嫌いそうな行為だ。
「相手は多分、大学の友達の誰か」
「どうして……」
「相手はずっと好きだった人、って麻衣が言ったから。麻衣が大学の友達をすげぇ大事にしてるのは知ってたし、なんせ浮気したって聞いたのがそいつらとの飲み会の翌日だ。それ以外考えられるかよ」
「麻衣が……浮気したこと話したんですか?」
「ああ。プロポーズした一週間後に浮気されて、さよならだ。ま、何となくダメっぽいとは思ってたけど」と言って、本庄さんはハハハと笑った。
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