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13.ずっと好きだった男性《ひと》
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しおりを挟む『忘れるなよ? 今は誰と居ても、地球滅亡の瞬間は俺のそばにいろ』
心臓が、肋骨を突き破るんじゃないかってくらい、大きく跳ねた。
陸の髪が頬をかすめ、アルコールの香りにクラリとした。微かに、シトラスの香りも混じっている。
あの夜と、同じ。
忘れようと努力してきた二年前のあの夜の記憶と感触が、一瞬でよみがえる。
駿介が隣にいたのに――!
陸が、どうしてあんなことを言ったのか、わからない。
その前に、離婚した理由。
陸は『ずっとうまくいっていなかった』と言っていたけれど、それはいつからだったのだろう。
私とのことは、陸は憶えていないはずだし、たとえ思うことがあったとしても、その後にちゃんと結婚した。
やっぱり、流産が原因……?
陸は秘密主義なところがある。
大学時代から自分の恋バナはしない人だったけれど、『彼女が妊娠したから結婚する』と聞かされた時には、本当に驚いた。
何度か陸に恋人がいるかと聞いたけれど、いつも適当に流されていた。
ホント、昔っからそうだったよな……。
私がOLCに入ったのは、例によっていやらしい目つきの先輩に絡まれているところを陸に助けられ、一緒に絡まれてしまった私たちを大和が助けてくれたのがきっかけだった。当時、私と陸が一年、大和が二年。
大和はサークルの存続のために勧誘して来いと先輩に言われて、両手をすり合わせて私たちに頼み込んできた。
助けてもらったくせに失礼だが、私の大和への第一印象は、『チャラそう』だった。だから、大和の話を聞いている間中、私は陸の服の裾を掴んで離さなかった。それに気付いたのは、話が終わってからだったが。
服の裾が思いっきり皺になってて、私、陸に何度も謝ったっけ……。
私は同じ高校からの友達がいなくて、一人でいるところを合コンに誘われたりしていた。陸はそれを何度か見ていて、いよいよ断れなくて本当に怖くて困っていたところを助けてくれた。
初対面の時から、陸は特別だった。
OLCに入ってからは、いつも大和と陸が助けてくれた。
その時の大和には年上の彼女がいて、私の憧れだった。
私の隣には、いつも陸がいた。
陸のことを好きになるのに時間はかからなかったけど、彼女になりたいという希望が打ち砕かれるのにも時間はかからなかった。
陸がモデルのような背の高い美人と歩いているのを見た時、どうあがいても敵わないなと思った。
ちょうどその頃、私は電車で痴漢から守ってくれた二歳年上の人に告白されて、付き合うことにした。誰にも、言わなかった。
陸への恋心を忘れたかった。
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