【ルーズに愛して】私の身体を濡らせたら

深冬 芽以

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13.ずっと好きだった男性《ひと》

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 その人はいたって普通で、キスもセックスもその人が初めてだった。

 最初はとても優しくしてくれた。

 挿入いれると痛いのは、私が不慣れだからだと思って耐えていた。

 次第に体が慣れて言った頃、彼が最中に身体を噛んだり叩いたりするようになっていった。

 あまりにしつこいからセックス自体を拒むと、『涙を浮かべて痛みに耐える麻衣の顔が好きだ』と告白された。

 もともとそういう性癖があったのか、私がそうさせてしまったのかはわからないけれど、もう付き合ってはいけないと思った。が、彼は別れたくないと言い張り、大学で待ち伏せされたりした。

 私の様子がおかしいと気づいた大和と陸が彼と話をつけてくれなければ、どうなっていたかと思うとゾッとする。

 それからだ。

 私の男運の悪さは清々しいほどで、お祓いにでも行こうかと本気で考えたこともある。

 本気で好きでもない男と付き合わなければいいだけなのかもしれないけれど、『この人はいい人かもしれない』と信じたい気持ちを捨てられなかった。何より、独りでいると、陸への気持ちを忘れられそうになかった。

 そんな不純な気持ちで付き合っていたのだから、ナニをされるにしても、私の自業自得だったのかもしれない。

 ずっと、好きだった。

 ずっと、好きでいれば良かったのだ。

 忘れようなんて無駄な足掻きをせずに、想い続けていれば良かった。

 もしくは、さっさと告白して、きっぱり振られてしまえば良かった。

 そうすれば、ここまで拗らせることはなかった。

 結果的に、私の陸への気持ちはくすぶり続けてしまった。いつまでも火種が落ちない線香花火のように。

 火種は少しずつ小さくなっていくけれど、決して消えてはいなくて。だけど、あんまり小さいから忘れそうになってしまうほど。

 その火種が、最後の力を振り絞って火花を散らしたのが、二年前。

 陸の結婚を知らされ、私は自らの素手で火種を落とそうとした。

 なのに、その手を陸に掴み取られ、私は陸の家に足を踏み入れてしまった。

 酔って理性を失ったしまった、陸。

 私の身体は、初めて悦んだ。

 初めて、セックスが愛の行為だと思えた。

 幸せで、気持ち良くて、幸せだった。

 見たことのない蕩けた表情かおで私を揺さぶる陸が愛おしくて、何度も名前を呼んだ。

 翌朝、私は陸の部屋から私がいた痕跡を全て消して、帰った。ベッドに落ちた私の髪も、使用済みのコンドームも持ち帰って、捨てた。

 一年後には、陸は赤ちゃんを抱いていなければならない。

 その為には、全部なかったことにしなければ。
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