7 / 231
1 心の距離
7
しおりを挟む
「……別に」
大抵、『別に』という時ほど、何かある。
俺は起き上がり、一緒に彩も抱き起した。
「次に会えるの、いつになると思ってんだよ」
「……」
「彩」
「…………」
俺はため息をついた。
また、だ。
俺がため息をつくと、彩の表情が強張る。怯えているようにも感じるほど。
それはきっと、元夫に植え付けられたトラウマ。
怒鳴られることが多かった彩が、男の大声を怖がっていることはわかっていた。ため息にも反応を示すことに気づいたのは、付き合い始めてから。
大した意味のないため息でも、彩は敏感に反応する。
気づいてからは、ため息をつかないように気を付けているが、無意識に口で息を吐いてしまうこともある。
彩が俺のため息に怯える度、思う。
彩にとって、俺も元夫と同類なのだろうか……?
それは、堪らなく、嫌だ。
「彩」
俺は彼女の顔を覗き込んだ。
「俺が怖いか?」
「え?」
彩が俺の顔を見て、首を振る。そして、また、俯く。
「ごめんなさい……」
「謝らなくていいから、思ってることをちゃんと言えよ」
「……」
元夫が彩に残した傷の深さを思い知る度、言いようのない苛立ちを感じる。それから、苛立つ自分に苛立つ。
俺は元夫とは違う。
俺は、彩を抱き締めた。
「言えよ」
断じて、俺は元夫とは違う。
「彩」
ただ、抱き締めていた。
他に、どうしたらいいのか、わからなかった。
「……シてもらったこと、ある?」
俺の肩で、彩が聞いた。
「――冨田課長に」
「……なにを?」
「……」
本気で、意味がわからなかった。
けれど、気が付いた。
俺は正面から彩を見た。
「もしかして、俺と冨田が付き合ってたとか、思ってたのか?」
彩が、目を逸らす。
嘘だろ……。
「彩」
「もしそうなら、言ってくれるだろうなとは……思ってたけど……」
「けど?」
「わざわざ過去なんて……言わないかも……とか……思ったりして……」
俺はため息をつきそうになったが、止めた。
けれど、心の中では、特大のため息をついていた。
「この一年、ずっとそう思ってたのか」
「ずっと思ってたわけじゃ――」
「どうして聞かない」
「……」
イライラする。
「彩」
「過去なんて聞いて……いいことなんて一つも――」
イライラする。
「けど、気になってたんだろう?」
「だから、ずっと気になってたとかじゃなく――」
イライラする。
「ずっとじゃなくても、気になったんなら聞けばいいだろ!」
やってしまった。
彩の肩が小さく跳ねたのがわかった。
俯く彼女の表情は、怖くて見れない。
きっと、怯えている。
大抵、『別に』という時ほど、何かある。
俺は起き上がり、一緒に彩も抱き起した。
「次に会えるの、いつになると思ってんだよ」
「……」
「彩」
「…………」
俺はため息をついた。
また、だ。
俺がため息をつくと、彩の表情が強張る。怯えているようにも感じるほど。
それはきっと、元夫に植え付けられたトラウマ。
怒鳴られることが多かった彩が、男の大声を怖がっていることはわかっていた。ため息にも反応を示すことに気づいたのは、付き合い始めてから。
大した意味のないため息でも、彩は敏感に反応する。
気づいてからは、ため息をつかないように気を付けているが、無意識に口で息を吐いてしまうこともある。
彩が俺のため息に怯える度、思う。
彩にとって、俺も元夫と同類なのだろうか……?
それは、堪らなく、嫌だ。
「彩」
俺は彼女の顔を覗き込んだ。
「俺が怖いか?」
「え?」
彩が俺の顔を見て、首を振る。そして、また、俯く。
「ごめんなさい……」
「謝らなくていいから、思ってることをちゃんと言えよ」
「……」
元夫が彩に残した傷の深さを思い知る度、言いようのない苛立ちを感じる。それから、苛立つ自分に苛立つ。
俺は元夫とは違う。
俺は、彩を抱き締めた。
「言えよ」
断じて、俺は元夫とは違う。
「彩」
ただ、抱き締めていた。
他に、どうしたらいいのか、わからなかった。
「……シてもらったこと、ある?」
俺の肩で、彩が聞いた。
「――冨田課長に」
「……なにを?」
「……」
本気で、意味がわからなかった。
けれど、気が付いた。
俺は正面から彩を見た。
「もしかして、俺と冨田が付き合ってたとか、思ってたのか?」
彩が、目を逸らす。
嘘だろ……。
「彩」
「もしそうなら、言ってくれるだろうなとは……思ってたけど……」
「けど?」
「わざわざ過去なんて……言わないかも……とか……思ったりして……」
俺はため息をつきそうになったが、止めた。
けれど、心の中では、特大のため息をついていた。
「この一年、ずっとそう思ってたのか」
「ずっと思ってたわけじゃ――」
「どうして聞かない」
「……」
イライラする。
「彩」
「過去なんて聞いて……いいことなんて一つも――」
イライラする。
「けど、気になってたんだろう?」
「だから、ずっと気になってたとかじゃなく――」
イライラする。
「ずっとじゃなくても、気になったんなら聞けばいいだろ!」
やってしまった。
彩の肩が小さく跳ねたのがわかった。
俯く彼女の表情は、怖くて見れない。
きっと、怯えている。
1
あなたにおすすめの小説
【ルーズに愛して】指輪を外したら、さようなら
深冬 芽以
恋愛
インテリアデザイナーの相川千尋《あいかわちひろ》は、よく似た名前の同僚で妻と別居中の有川比呂《ありかわひろ》と不倫関係にある。
ルールは一つ。
二人の関係は、比呂の離婚が成立するまで。
その意味を深く考えずに関係を始めた比呂だったが、今となっては本気で千尋を愛し始めていた。
だが、比呂の気持ちを知っても、頑なにルールを曲げようとしない千尋。
千尋と別れたくない比呂は、もう一つのルールを提案する。
比呂が離婚しない限り、絶対に別れない__。
【ルーズに愛して】シリーズ
~登場人物~
相川千尋《あいかわちひろ》……O大学ルーズサークルOG
トラスト不動産ホームデザイン部インテリアデザイン課主任
有川比呂《ありかわひろ》……トラスト不動産ホームデザイン部設計課主任
千尋の同僚
結婚四年、別居一年半の妻がいる
谷龍也《たにたつや》……O大学ルーズサークルOB
|Free Style Production《フリー スタイル プロダクション》営業二課主任
桑畠《くわはた》あきら……O大学ルーズサークルOG
市役所勤務、児童カウンセラー
小笠原陸《おがさわらりく》……O大学ルーズサークルOB
|Empire HOTEL《エンパイアホテル》支配人
小笠原春奈《おがさわらはるな》……陸の妻
|Empire HOTEL《エンパイアホテル》のパティシエ
新田大和《にったやまと》……O大学ルーズサークルOB
新田設計事務所副社長
五年前にさなえと結婚
新田《にった》さなえ……O大学ルーズサークルOG
新田大斗《にっただいと》……大和とさなえの息子
亀谷麻衣《かめやまい》……O大学ルーズサークルOG
楠行政書士事務所勤務
婚活中
鶴本駿介《つるもとしゅんすけ》……楠行政書士事務所勤務
年下研修医の極甘蜜愛
虹色すかい
恋愛
医局秘書として市内の病院に勤務する廣崎彩27歳。普段はスマートに仕事をこなすクールな彼女だが、定期的にやって来る「眠れない夜」に苦しんでいる。
そんな彩に、5年越しの思いを寄せる3歳年下の藤崎仁寿。人当たりがよくて優しくて。仔犬のように人懐っこい笑顔がかわいい彼は、柔和な見た目とは裏腹に超ポジティブで鋼のような心を持つ臨床研修医だ。
病気や過去の経験から恋愛に積極的になれないワケありOLとユーモラスで心優しい研修医の、あたたかくてちょっと笑えるラブストーリー。
仁寿の包み込むような優しさが、傷ついた彩の心を癒していく――。
シリアスがシリアスにならないのは、多分、朗らかで元気な藤崎先生のおかげ♡
*****************************
※他サイトでも同タイトルで公開しています。
Home, Sweet Home
茜色
恋愛
OL生活7年目の庄野鞠子(しょうのまりこ)は、5つ年上の上司、藤堂達矢(とうどうたつや)に密かにあこがれている。あるアクシデントのせいで自宅マンションに戻れなくなった藤堂のために、鞠子は自分が暮らす一軒家に藤堂を泊まらせ、そのまま期間限定で同居することを提案する。
亡き祖母から受け継いだ古い家での共同生活は、かつて封印したはずの恋心を密かに蘇らせることになり・・・。
☆ 全19話です。オフィスラブと謳っていますが、オフィスのシーンは少なめです 。「ムーンライトノベルズ」様に投稿済のものを一部改稿しております。
やさしいキスの見つけ方
神室さち
恋愛
諸々の事情から、天涯孤独の高校一年生、完璧な優等生である渡辺夏清(わたなべかすみ)は日々の糧を得るために年齢を偽って某所風俗店でバイトをしながら暮らしていた。
そこへ、現れたのは、天敵に近い存在の数学教師にしてクラス担任、井名里礼良(いなりあきら)。
辞めろ辞めないの押し問答の末に、井名里が持ち出した賭けとは?果たして夏清は平穏な日常を取り戻すことができるのか!?
何て言ってても、どこかにある幸せの結末を求めて突っ走ります。
こちらは2001年初出の自サイトに掲載していた小説です。完結済み。サイト閉鎖に伴い移行。若干の加筆修正は入りますがほぼそのままにしようと思っています。20年近く前に書いた作品なのでいろいろ文明の利器が古かったり常識が若干、今と異なったりしています。
20年くらい前の女子高生はこんな感じだったのかー くらいの視点で見ていただければ幸いです。今はこんなの通用しない! と思われる点も多々あるとは思いますが、大筋の変更はしない予定です。
フィクションなので。
多少不愉快な表現等ありますが、ネタバレになる事前の注意は行いません。この表現ついていけない…と思ったらそっとタグを閉じていただけると幸いです。
当時、だいぶ未来の話として書いていた部分がすでに現代なんで…そのあたりはもしかしたら現代に即した感じになるかもしれない。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
小野寺社長のお気に入り
茜色
恋愛
朝岡渚(あさおかなぎさ)、28歳。小さなイベント企画会社に転職して以来、社長のアシスタント兼お守り役として振り回される毎日。34歳の社長・小野寺貢(おのでらみつぐ)は、ルックスは良いが生活態度はいい加減、デリカシーに欠ける困った男。
悪天候の夜、残業で家に帰れなくなった渚は小野寺と応接室で仮眠をとることに。思いがけず緊張する渚に、「おまえ、あんまり男を知らないだろう」と小野寺が突然迫ってきて・・・。
☆全19話です。「オフィスラブ」と謳っていますが、あまりオフィスっぽくありません。
☆「ムーンライトノベルズ」様にも掲載しています。
思いがけず聖女になってしまったので、吸血鬼の義兄には黙っていようと思います
薄影メガネ
恋愛
幼い頃、両親を事故で亡くし、孤児院で暮らしていたエリカはある日、
唯一の肉親である兄、リアードをセオドア・フォンベッシュバルト公に奪われた。
子供がなく、後継ぎを探していたシンフォルースの五大公爵家当主、セオドア・フォンベッシュバルト公。
彼の理想とする基準を満たしていたエリカの兄で神童のリアードを、彼は養子ではなく、養弟として迎え入れることにした。なぜなら彼は人外の吸血鬼だったからだ。
五百歳を越えると言われているフォンベッシュバルト公の見た目は、シンフォルースでの成人を迎えた十八歳の青年のよう。そのため、六歳のリアードを子供とするには不自然だからと、養弟として迎え入れられることになったのだ。
目の前で連れていかれようとしている兄を追って、当時、四歳の子供だったエリカが追いすがった先に待っていたのは──この上なく残酷な、拒絶の言葉だけだった。
「必要なのは彼だけです。貴女ではない。貴女は当家の基準を満たしてはいないのですよ」
神童の兄、リアードと違い、エリカはただの子供だった。
──私にはリアードの家族でいる資格はない。
そうして涙の中で、孤児院に一人とり残されてから十四年……
正式に引き取られはしなかったものの。フォンベッシュバルト公の義弟となった兄、リアードの実妹であるエリカは、形式上、フォンベッシュバルト公のある種、義妹という扱いになるのだが──
けして認められることも、迎え入れられることもない。エリカが選んだ道は、吸血鬼とは元来敵対関係にあるはずの聖職者だった。
しかし、聖職者の道を歩むため、孤児院を卒業するその日に、エリカは孤児院の門前で傷付き倒れているフォンベッシュバルト公と再開してしまい……
*ちょいちょいシリアス入りますが、緩めのギャグコメ風? ラブコメです。相棒でペットのアヒルちゃん愛にあふれた内容となります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる