続・最後の男

深冬 芽以

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1 心の距離

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「……別に」

 大抵、『別に』という時ほど、何かある。

 俺は起き上がり、一緒に彩も抱き起した。

「次に会えるの、いつになると思ってんだよ」

「……」

「彩」

「…………」

 俺はため息をついた。



 また、だ。



 俺がため息をつくと、彩の表情が強張る。怯えているようにも感じるほど。

 それはきっと、元夫に植え付けられたトラウマ。

 怒鳴られることが多かった彩が、男の大声を怖がっていることはわかっていた。ため息にも反応を示すことに気づいたのは、付き合い始めてから。

 大した意味のないため息でも、彩は敏感に反応する。

 気づいてからは、ため息をつかないように気を付けているが、無意識に口で息を吐いてしまうこともある。

 彩が俺のため息に怯える度、思う。



 彩にとって、俺も元夫と同類なのだろうか……?



 それは、堪らなく、嫌だ。

「彩」

 俺は彼女の顔を覗き込んだ。

「俺が怖いか?」

「え?」

 彩が俺の顔を見て、首を振る。そして、また、俯く。

「ごめんなさい……」

「謝らなくていいから、思ってることをちゃんと言えよ」

「……」

 元夫が彩に残した傷の深さを思い知る度、言いようのない苛立ちを感じる。それから、苛立つ自分に苛立つ。



 俺は元夫とは違う。



 俺は、彩を抱き締めた。

「言えよ」



 断じて、俺は元夫とは違う。



「彩」

 ただ、抱き締めていた。

 他に、どうしたらいいのか、わからなかった。

「……シてもらったこと、ある?」

 俺の肩で、彩が聞いた。

「――冨田課長に」

「……なにを?」

「……」

 本気で、意味がわからなかった。

 けれど、気が付いた。

 俺は正面から彩を見た。

「もしかして、俺と冨田が付き合ってたとか、思ってたのか?」

 彩が、目を逸らす。



 嘘だろ……。



「彩」

「もしそうなら、言ってくれるだろうなとは……思ってたけど……」

「けど?」

「わざわざ過去なんて……言わないかも……とか……思ったりして……」

 俺はため息をつきそうになったが、止めた。

 けれど、心の中では、特大のため息をついていた。

「この一年、ずっとそう思ってたのか」

「ずっと思ってたわけじゃ――」

「どうして聞かない」

「……」

 イライラする。

「彩」

「過去なんて聞いて……いいことなんて一つも――」

 イライラする。

「けど、気になってたんだろう?」

「だから、ずっと気になってたとかじゃなく――」

 イライラする。

「ずっとじゃなくても、気になったんなら聞けばいいだろ!」

 やってしまった。

 彩の肩が小さく跳ねたのがわかった。

 俯く彼女の表情かおは、怖くて見れない。

 きっと、怯えている。
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