続・最後の男

深冬 芽以

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3 誰もが持つ裏の顔

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 帰りの車の中で注意しても、きっと彼女の耳から耳へと素通りするだけだと思った。

 大事なことは、目を見て話した方がいい。

 それに、彼女の様子からして、わかっていない。

 私は正社員になる時、二日間の研修を受けた。それは、新入社員や中途採用者の誰もが受ける研修で、一日目は我が社の社訓や規則、組織構成について、二日目は挨拶の仕方や電話応対、お茶の出し方や訪問先での所作全般など。

 パートとして入社した時には、二日目の内容についてはざっと指導を受けただけだった。

 十年近く前のこととはいえ、荻野さんも入社時に同じ研修を受け、名刺交換の仕方なんかは知っているはずだ。

 たとえ、初営業で緊張していたにしても、冷静になってみれば自分の言動に失礼があったことに気づけそうなもの。

 けれど、助手席の彼女は窓の外を眺めたりスマホを弄ったりしていて、とても反省している様子はない。

「緊張した?」

「え? いえ! 大丈夫です」



 なにが、大丈夫……?



 私が千堂課長について初めて営業先に出向いた時には、それはもう緊張したものだ。挨拶にしても、名刺の交換にしても、不手際がないか心配で堪らなかった。

 千堂課長に緊張したかと聞かれるより先に、自ら緊張したことを伝えたし、失礼がなかったかも聞いた。

 けれど、荻野さんからは何も言われない。



 私が細かすぎるのかな……。



 社に戻り、私は荻野さんに、ミーティングルームで打ち合わせ内容をまとめると伝えた。

「ランチの後でもいいですか? 広瀬さんと平山さんとパスタを食べる約束をしてるんです」

 荻野さんはあっけらかんと言った。

 十二時まであと十五分。

 私のこめかみには、漫画などでよく描かれている、くの字を背中合わせに四つ書いた怒りの絵が浮き出ていたかもしれない。

 それでも、伊達に四十年生きて、場数を踏んできたわけではない。

 私は何でもないような顔で、言った。

「じゃあ、まずは自分なりにまとめてみて。午後から見せてもらうから」

「わかりました」と、彼女もまた、何でもないような顔で言った。

 軽快にキーボードを叩く荻野さんの隣で、私は打ち合わせ内容をメモしたノートを開き、議事録の様式に手書きで清書した。しようとした。

 いつもは気にならないキーボードを叩く音がやけに耳障りで、私は席を立った。

 濃いコーヒーが飲みたい。

 そう思った時、電話が鳴った。

 千堂課長はスマホで電話中、風間主任は木田さんと話し込んでいる。

 荻野さんは電話に見向きもしない。

 私は小さくため息をつき、一番端の使われていない机の受話器を取った。ディスプレイには『釧路支社』と表示されていた。

「お疲れ様です。札幌、営業一課です」

『堀藤?』

 智也だった。

 いつもなら、仕事中に智也からの電話を受けると、ちょっと気が抜ける。なんとなく、嬉しくて。

「お疲れ様です」

 けれど、今は苛立ちの方が大きくて、つい口調がきつくなってしまった。
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