続・最後の男

深冬 芽以

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3 誰もが持つ裏の顔

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『お疲れ。忙しいか?』

「いえ。課長ですか?」

『ああ』

「今、他の電話に――」と言いながら、課長に目を向けると、ちょうどスマホを耳から離したところだった。

「あ、終わったので変わります」

『どうした?』

「え?」

『いや、なんか――』

「大丈夫です」

 言った瞬間、荻野さんの『大丈夫です』を思い出し、また喉の奥が痞えたような違和感と言うか不快感をもった。

「代わりますね」

 千堂課長に外線番号を伝え、私は給湯室に向かった。

 苦いくらい濃くて冷たいコーヒーで頭を冷やすつもりだった。

 けれど、智也の声を聞いて、やめた。

 私はミルクたっぷりの冷たいコーヒーを淹れた。

「どうだった? 初営業」

 真っ黒の液体が見る見る間に薄い茶色に変わっていくのを眺めていると、広瀬さんの声が聞こえた。

 エレベーターを待っているのだろう。給湯室ここまで声が聞こえてきた。

「んー……、普通」

 カチン、と頭の中で機械音がした。

「部長はおっさんだったけど、主任は格好良かったよ」



 なんてことを――!



 誰をどう思うかは自由だ。仕事相手とはいえ、愛想笑いにも苦労する人はいる。やけに馴れ馴れしかったり、女だからと言わんばかりの差別的な発言をする人もいる。

 けれど、どんなにムカついても、それを職場の、しかも、共有スペースで声高に言ってはならないことくらい、社会人として常識だ。

『本来、指導の必要がない『常識』が通用しない若者が多いんですよね』

 つい四十分前に聞いた言葉を思い出し、納得した。

 私はミルクコーヒーを一気に飲み干し、もう一杯注いだ。



 てか、『普通』ってなに!?

 初めての営業で、『普通』が何かわかるの!?



「主任も同席してたの? ラッキーだったね」

 甲高い広瀬さんの声は、恐らく部内に筒抜けだろう。

「指輪してないってことは、独身?」

「どうだったかな。けど――」

「あなたたち、そういう話は会社の外でしなさい」

 落ち着いた、少し威圧的な声が広瀬さんの言葉を遮った。

「お客様が聞いていないとも限らないのよ」

「……すいませーん」

 肩を竦める姿が目に浮かぶ。

 ポーンとエレベーターの扉が開く合図の音、パタパタと乗り込む足音、扉が閉まる音が、続けざまに聞こえた。

「――ったく!」

 声の主は冨田課長。

 課長はため息をつきながら、給湯室に入って来た。すぐに私に気がつき、微笑む。

「お疲れ様」

「お疲れ様です」

 課長の爪は昨日のまま。

「あの、すみません」

「なにが?」

「荻野さんたち……」

「ああ。あなたが謝ることじゃないでしょ」

「一応、指導係なので」

「あんなの、指導されなくったってわかってて当然じゃない。誰に聞かれてるかわからない場所で、お客様の噂話なんて」

 ごもっとも。

「あなたも大変ね、あんなのの世話なんて」



 あんなの、って――。


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