28 / 231
4 再会
2
しおりを挟む
『あのっ――』
振り向くと、彼女は手の甲で涙を拭っていた。
『すみません、お仕事中に。大丈夫です』
全然大丈夫そうじゃない赤い目で、見え見えの無理をして笑った。
『これ、差し入れってことで貰ってください。お口に合わなければ、捨ててもらって構わないので』
『いや――』
背後で靴音が聞こえ、俺よりも彼女が慌て、俺の胸にチョコの箱を押し付けた。
『すみませんでした』
宇喜原優さんは振り返ることもなく、足早に去って行った。
彩と付き合う前の俺ならば、見向きもしなかったタイプ。
毎日連絡をして、休日は外に出かけて、キスまで何日、セックスまで何週間、なんて手順を大切にする女は、面倒でしかなかった。
けれど、今の俺は、チョコレートを口に含んでは彼女の後姿を思い出し、彩に会いたくて堪らなくなる。
変われば変わるもんだ。
俺は着信履歴の一番上の番号に発信した。
『ふぁい』
今度は彩が何かを食べているようだった。
「何食ってんだ?」
『千堂課長から貰ったチョコ』
つんけんした声。
「なんで千堂からチョコを貰うんだよ」
『いーじゃない。私は告白されたわけじゃないもの』
ちょっと妬かせたかったけど、ここまで妬かせたかったわけじゃない。
彩が妬いて、正確には怒ってくれるのは嬉しいけれど、俺が告白されたことが理由か?
貰ったチョコを食べたからか?
彩なら、折角もらったなら捨てるのは勿体ない、とか言いそうじゃないか?
わからない。
わからないから、素直に聞くことにした。
「どうした?」
『なにが!?』
「そんなに怒ることか?」
『……』
何かあったらしい。
千堂からチョコを貰ったことに関係があるのだろうか。
そう思うと、今度は俺がイライラしてきた。
「千堂と何があった?」
未だに千堂に過剰反応するのは大人気ない、というか、しつこいのはわかっている。が、やっぱり気になる。
今は恋人がいるとわかっていても、彩が一度は身体を許し、気持ちが揺らいだ男だ。
あの頃、俺が彩に興味を持たなかったら、彩は千堂と付き合っていたのかもしれない。
遠距離なんかじゃなく、毎日会社で顔を合わせて、一緒に仕事をして、休日も子連れで遊びに行ったりして。
そう考えると、イライラが怒りに変わっていく。
「今まで千堂と一緒にいたのか」
『勘違いしないでよ』
「じゃあ、説明しろよ」
『もう家に着くから、また後で電話する。――あ、そこの電柱のところで――』
電話が切れて、俺は少し乱暴にスマホを枕の上に放り投げ、すぐにまた手に取った。JR北海道のサイトで、釧路発札幌行きの時刻を検索する。十九時発が最終。今は二十時十五分。
次に都市間高速バスの時刻を検索する。釧路から二十三時三十分発の便がある。札幌に到着するのは翌朝五時三十分。
それから、飛行機の時間。札幌発が八時の便に乗れば、八時四十五分には釧路に着く。この後の便では、十一時からの納品に間に合わない。
くそっ――!
振り向くと、彼女は手の甲で涙を拭っていた。
『すみません、お仕事中に。大丈夫です』
全然大丈夫そうじゃない赤い目で、見え見えの無理をして笑った。
『これ、差し入れってことで貰ってください。お口に合わなければ、捨ててもらって構わないので』
『いや――』
背後で靴音が聞こえ、俺よりも彼女が慌て、俺の胸にチョコの箱を押し付けた。
『すみませんでした』
宇喜原優さんは振り返ることもなく、足早に去って行った。
彩と付き合う前の俺ならば、見向きもしなかったタイプ。
毎日連絡をして、休日は外に出かけて、キスまで何日、セックスまで何週間、なんて手順を大切にする女は、面倒でしかなかった。
けれど、今の俺は、チョコレートを口に含んでは彼女の後姿を思い出し、彩に会いたくて堪らなくなる。
変われば変わるもんだ。
俺は着信履歴の一番上の番号に発信した。
『ふぁい』
今度は彩が何かを食べているようだった。
「何食ってんだ?」
『千堂課長から貰ったチョコ』
つんけんした声。
「なんで千堂からチョコを貰うんだよ」
『いーじゃない。私は告白されたわけじゃないもの』
ちょっと妬かせたかったけど、ここまで妬かせたかったわけじゃない。
彩が妬いて、正確には怒ってくれるのは嬉しいけれど、俺が告白されたことが理由か?
貰ったチョコを食べたからか?
彩なら、折角もらったなら捨てるのは勿体ない、とか言いそうじゃないか?
わからない。
わからないから、素直に聞くことにした。
「どうした?」
『なにが!?』
「そんなに怒ることか?」
『……』
何かあったらしい。
千堂からチョコを貰ったことに関係があるのだろうか。
そう思うと、今度は俺がイライラしてきた。
「千堂と何があった?」
未だに千堂に過剰反応するのは大人気ない、というか、しつこいのはわかっている。が、やっぱり気になる。
今は恋人がいるとわかっていても、彩が一度は身体を許し、気持ちが揺らいだ男だ。
あの頃、俺が彩に興味を持たなかったら、彩は千堂と付き合っていたのかもしれない。
遠距離なんかじゃなく、毎日会社で顔を合わせて、一緒に仕事をして、休日も子連れで遊びに行ったりして。
そう考えると、イライラが怒りに変わっていく。
「今まで千堂と一緒にいたのか」
『勘違いしないでよ』
「じゃあ、説明しろよ」
『もう家に着くから、また後で電話する。――あ、そこの電柱のところで――』
電話が切れて、俺は少し乱暴にスマホを枕の上に放り投げ、すぐにまた手に取った。JR北海道のサイトで、釧路発札幌行きの時刻を検索する。十九時発が最終。今は二十時十五分。
次に都市間高速バスの時刻を検索する。釧路から二十三時三十分発の便がある。札幌に到着するのは翌朝五時三十分。
それから、飛行機の時間。札幌発が八時の便に乗れば、八時四十五分には釧路に着く。この後の便では、十一時からの納品に間に合わない。
くそっ――!
1
あなたにおすすめの小説
【ルーズに愛して】指輪を外したら、さようなら
深冬 芽以
恋愛
インテリアデザイナーの相川千尋《あいかわちひろ》は、よく似た名前の同僚で妻と別居中の有川比呂《ありかわひろ》と不倫関係にある。
ルールは一つ。
二人の関係は、比呂の離婚が成立するまで。
その意味を深く考えずに関係を始めた比呂だったが、今となっては本気で千尋を愛し始めていた。
だが、比呂の気持ちを知っても、頑なにルールを曲げようとしない千尋。
千尋と別れたくない比呂は、もう一つのルールを提案する。
比呂が離婚しない限り、絶対に別れない__。
【ルーズに愛して】シリーズ
~登場人物~
相川千尋《あいかわちひろ》……O大学ルーズサークルOG
トラスト不動産ホームデザイン部インテリアデザイン課主任
有川比呂《ありかわひろ》……トラスト不動産ホームデザイン部設計課主任
千尋の同僚
結婚四年、別居一年半の妻がいる
谷龍也《たにたつや》……O大学ルーズサークルOB
|Free Style Production《フリー スタイル プロダクション》営業二課主任
桑畠《くわはた》あきら……O大学ルーズサークルOG
市役所勤務、児童カウンセラー
小笠原陸《おがさわらりく》……O大学ルーズサークルOB
|Empire HOTEL《エンパイアホテル》支配人
小笠原春奈《おがさわらはるな》……陸の妻
|Empire HOTEL《エンパイアホテル》のパティシエ
新田大和《にったやまと》……O大学ルーズサークルOB
新田設計事務所副社長
五年前にさなえと結婚
新田《にった》さなえ……O大学ルーズサークルOG
新田大斗《にっただいと》……大和とさなえの息子
亀谷麻衣《かめやまい》……O大学ルーズサークルOG
楠行政書士事務所勤務
婚活中
鶴本駿介《つるもとしゅんすけ》……楠行政書士事務所勤務
年下研修医の極甘蜜愛
虹色すかい
恋愛
医局秘書として市内の病院に勤務する廣崎彩27歳。普段はスマートに仕事をこなすクールな彼女だが、定期的にやって来る「眠れない夜」に苦しんでいる。
そんな彩に、5年越しの思いを寄せる3歳年下の藤崎仁寿。人当たりがよくて優しくて。仔犬のように人懐っこい笑顔がかわいい彼は、柔和な見た目とは裏腹に超ポジティブで鋼のような心を持つ臨床研修医だ。
病気や過去の経験から恋愛に積極的になれないワケありOLとユーモラスで心優しい研修医の、あたたかくてちょっと笑えるラブストーリー。
仁寿の包み込むような優しさが、傷ついた彩の心を癒していく――。
シリアスがシリアスにならないのは、多分、朗らかで元気な藤崎先生のおかげ♡
*****************************
※他サイトでも同タイトルで公開しています。
やさしいキスの見つけ方
神室さち
恋愛
諸々の事情から、天涯孤独の高校一年生、完璧な優等生である渡辺夏清(わたなべかすみ)は日々の糧を得るために年齢を偽って某所風俗店でバイトをしながら暮らしていた。
そこへ、現れたのは、天敵に近い存在の数学教師にしてクラス担任、井名里礼良(いなりあきら)。
辞めろ辞めないの押し問答の末に、井名里が持ち出した賭けとは?果たして夏清は平穏な日常を取り戻すことができるのか!?
何て言ってても、どこかにある幸せの結末を求めて突っ走ります。
こちらは2001年初出の自サイトに掲載していた小説です。完結済み。サイト閉鎖に伴い移行。若干の加筆修正は入りますがほぼそのままにしようと思っています。20年近く前に書いた作品なのでいろいろ文明の利器が古かったり常識が若干、今と異なったりしています。
20年くらい前の女子高生はこんな感じだったのかー くらいの視点で見ていただければ幸いです。今はこんなの通用しない! と思われる点も多々あるとは思いますが、大筋の変更はしない予定です。
フィクションなので。
多少不愉快な表現等ありますが、ネタバレになる事前の注意は行いません。この表現ついていけない…と思ったらそっとタグを閉じていただけると幸いです。
当時、だいぶ未来の話として書いていた部分がすでに現代なんで…そのあたりはもしかしたら現代に即した感じになるかもしれない。
ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?
春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。
しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。
美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……?
2021.08.13
なし崩しの夜
春密まつり
恋愛
朝起きると栞は見知らぬベッドの上にいた。
さらに、隣には嫌いな男、悠介が眠っていた。
彼は昨晩、栞と抱き合ったと告げる。
信じられない、嘘だと責める栞に彼は不敵に微笑み、オフィスにも関わらず身体を求めてくる。
つい流されそうになるが、栞は覚悟を決めて彼を試すことにした。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~
汐埼ゆたか
恋愛
絶え間なく溢れ出る涙は彼の唇に吸い取られ
慟哭だけが薄暗い部屋に沈んでいく。
その夜、彼女の絶望と悲しみをすくい取ったのは
仕事上でしか接点のない上司だった。
思っていることを口にするのが苦手
地味で大人しい司書
木ノ下 千紗子 (きのした ちさこ) (24)
×
真面目で優しい千紗子の上司
知的で容姿端麗な課長
雨宮 一彰 (あまみや かずあき) (29)
胸を締め付ける切ない想いを
抱えているのはいったいどちらなのか———
「叫んでも暴れてもいい、全部受け止めるから」
「君が笑っていられるなら、自分の気持ちなんてどうでもいい」
「その可愛い笑顔が戻るなら、俺は何でも出来そうだよ」
真摯でひたむきな愛が、傷付いた心を癒していく。
**********
►Attention
※他サイトからの転載(2018/11に書き上げたものです)
※表紙は「かんたん表紙メーカー2」様で作りました。
※※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
Home, Sweet Home
茜色
恋愛
OL生活7年目の庄野鞠子(しょうのまりこ)は、5つ年上の上司、藤堂達矢(とうどうたつや)に密かにあこがれている。あるアクシデントのせいで自宅マンションに戻れなくなった藤堂のために、鞠子は自分が暮らす一軒家に藤堂を泊まらせ、そのまま期間限定で同居することを提案する。
亡き祖母から受け継いだ古い家での共同生活は、かつて封印したはずの恋心を密かに蘇らせることになり・・・。
☆ 全19話です。オフィスラブと謳っていますが、オフィスのシーンは少なめです 。「ムーンライトノベルズ」様に投稿済のものを一部改稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる