続・最後の男

深冬 芽以

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『あのっ――』

 振り向くと、彼女は手の甲で涙を拭っていた。

『すみません、お仕事中に。大丈夫です』

 全然大丈夫そうじゃない赤い目で、見え見えの無理をして笑った。

『これ、差し入れってことで貰ってください。お口に合わなければ、捨ててもらって構わないので』

『いや――』

 背後で靴音が聞こえ、俺よりも彼女が慌て、俺の胸にチョコの箱を押し付けた。

『すみませんでした』

 宇喜原優さんは振り返ることもなく、足早に去って行った。

 彩と付き合う前の俺ならば、見向きもしなかったタイプ。

 毎日連絡をして、休日は外に出かけて、キスまで何日、セックスまで何週間、なんて手順を大切にする女は、面倒でしかなかった。

 けれど、今の俺は、チョコレートを口に含んでは彼女の後姿を思い出し、彩に会いたくて堪らなくなる。



 変われば変わるもんだ。



 俺は着信履歴の一番上の番号に発信した。

『ふぁい』

 今度は彩が何かを食べているようだった。

「何食ってんだ?」

『千堂課長から貰ったチョコ』

 つんけんした声。

「なんで千堂からチョコを貰うんだよ」

『いーじゃない。私は告白されたわけじゃないもの』

 ちょっと妬かせたかったけど、ここまで妬かせたかったわけじゃない。



 彩が妬いて、正確には怒ってくれるのは嬉しいけれど、俺が告白されたことが理由か?

 貰ったチョコを食べたからか?

 彩なら、折角もらったなら捨てるのは勿体ない、とか言いそうじゃないか?



 わからない。

 わからないから、素直に聞くことにした。

「どうした?」

『なにが!?』

「そんなに怒ることか?」

『……』

 何かあったらしい。

 千堂からチョコを貰ったことに関係があるのだろうか。

 そう思うと、今度は俺がイライラしてきた。

「千堂と何があった?」

 未だに千堂に過剰反応するのは大人気ない、というか、しつこいのはわかっている。が、やっぱり気になる。

 今は恋人がいるとわかっていても、彩が一度は身体を許し、気持ちが揺らいだ男だ。

 あの頃、俺が彩に興味を持たなかったら、彩は千堂と付き合っていたのかもしれない。

 遠距離なんかじゃなく、毎日会社で顔を合わせて、一緒に仕事をして、休日も子連れで遊びに行ったりして。

 そう考えると、イライラが怒りに変わっていく。

「今まで千堂と一緒にいたのか」

『勘違いしないでよ』

「じゃあ、説明しろよ」

『もう家に着くから、また後で電話する。――あ、そこの電柱のところで――』

 電話が切れて、俺は少し乱暴にスマホを枕の上に放り投げ、すぐにまた手に取った。JR北海道のサイトで、釧路発札幌行きの時刻を検索する。十九時発が最終。今は二十時十五分。

 次に都市間高速バスの時刻を検索する。釧路から二十三時三十分発の便がある。札幌に到着するのは翌朝五時三十分。

 それから、飛行機の時間。札幌発が八時の便に乗れば、八時四十五分には釧路に着く。この後の便では、十一時からの納品に間に合わない。



 くそっ――!


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