続・最後の男

深冬 芽以

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 ちょっと妬かせたかっただけだ。

 憂鬱な気分を忘れたかっただけ。

 まさか、彩が怒って一方的に電話を切るとは思わなかった。

 彩が面倒な女の指導で、ストレスを抱えていることは知っていた。ご丁寧に千堂が知らせてきたから。

 だが、俺から彩にそれについて聞いたことはない。彩から聞かされたこともない。

 彩は俺に愚痴を言わない。

 もともと、だ。

 俺はそれが気に入らなかった。

 冨田との関係を疑いつつ言わなかったことにしてもそうだ。

 壁を感じる。

 俺はもっと気楽に思ったことを話して欲しい。くだらなくても、つまらなくても、いい。

 そんな風に思える女は初めてで、そんな風に思える自分に驚いているし、気に入ってもいる。

 だから、彩にも同じように思って欲しい。

 いつか姉さんが言っていた。

『智くんは彩さんにとって一番にはなれないよ?』

 その言葉が、喉の奥、いや、胃の中心? でもぞもぞとうごめいている。



 彩の一番になりたい――。



『いつ、結婚するの?』



 結婚、か――。



 狭いベッドに横になり、黄ばんだ天井を見上げる。



 結婚、かぁ……。



 今日に限ってこんなことを考えてしまうのは、ブランデー入りのチョコレートのせいだ。

『ずっと、素敵だなって思ってて……』

 真っ赤な顔で、涙目になりながら差し出された箱の表面には『Happy Valentine』のシール。

『恋人、いるんです』と、俺は言った。

『気持ちはありがたいんですけど、受け取れません』

 相手は釧路支社の一番古くて一番大口の取引先の、事務員。恐らく、二十代後半。

 宇喜原うきはら商店の宇喜原ゆうさん。確認したことはないけれど、宇喜田社長の娘か、年の離れた妹か、とにかく、経営者一家の一人。

 断るにも、言葉を選ぶ。

『恋人……』と、宇喜原優さんは呟いた。

 瞳に滲んでいた涙が粒になり、ゆっくりと溢れ出た。

『そう……ですよね。いないはず――』

 以前にも、こうして取引先の社員に告白されたことがあったが、その時はここまでであっさり立ち去った。

 けれど、今回はただの社員ではないし、何と言ってもエレベーター前という場所のせいで、いつ扉が開いて誰が現れるかと思うと、早々に立ち去りたい反面、さすがに泣いている女をエレベーター前こんなところに置き去りには出来なかった。

『場所を変えましょうか』

 俺は彼女の肩を軽く押して歩くように促し、すぐに手を離した。

 とはいえ、人の会社。

 どこなら人目に付かずに話せるかもわからない。しかも、勤務時間中。俺は次のアポの時間が迫っていた。

 腕時計に目を落とした。
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