続・最後の男

深冬 芽以

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「今回のタンブラーの発注は見送りたいと考えています」

 奥山商事企画部三課主任が言った。部長は主任の隣で、硬く口を結んでいる。

 私の隣では、荻野さんが座っているが、その表情には焦りも動揺もない。彼女にとって、今回の契約がどうなろうと、大した問題ではないのだろう。

「理由をお聞かせ願えますか」

「自社製造ラインの導入を検討中です。今回のオープン記念には経費をかけず、創業五十周年と併せて完全オリジナルタンブラーを製作予定です」

「では、オープン記念のノベルティ企画自体を反故にする、ということですか?」

「はい」

 奥山商事はファミレスやコンビニをチェーン展開している。食品製造の自社工場は持っているが、他のものは全て外注。

 カフェは新規のプロジェクトで、今回のタンブラーは第一号店のオープン記念の先着ノベルティだった。

「それは、決定事項ですか?」

「……」

 私の問いに、主任は横目で部長を見た。

「失礼ですが、どんなに小さなお店でも、オープンとなれば何かしらノベルティなりセールなりがあります。なければ、集客できないからです。タンブラーに代わる企画はおありでしょうか?」

「先着で割引券の配布を検討中です」

 主任の言葉に、私は部長を見た。そして、部長も私を見ていた。

『どうせ切られるなら、強気で攻めてみろ』

 智也はそうして優秀な営業マンになったのだろう。

 冨田課長も押しが強そうだし、それを習っているのかもしれない。

 千堂課長は二人ほど押しは強くないけれど、人当たりの良さと丁寧なプレゼンで安心させる手腕を持っている。



 私は……?



 三人と肩を並べようとは思わない。

 けれど、見習いたい。少しでも追いつきたい。



 自分に、自信が欲しい。



「それだけ、ですか?」

 思い切って、言ってみた。

 部長の眉間に、皺が一本増えた気がした。

「――と言いますと?」と言った主任の口元から、笑みが消えた。

「ご来店いただいたお客様に割引券を配布するだけでは、弱い、と思います」

 正直、怖い。

 目の前の二人を怒らせたら、千堂課長に迷惑がかかる。

 契約を解除されるにしても、円満な方がいいに決まっている。

 けれど、部長が今日の打ち合わせ以前に契約解除を匂わせてきたことも、さっき私が『決定事項か』と聞いた時の主任の反応も気になる。

 まだ、交渉の余地があるんじゃないだろうかと思えて、仕方がない。



 女は度胸だ――!!



 私は汗ばむ掌をギュッと握り、顔を上げた。

 不安を悟られてはいけない。
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