続・最後の男

深冬 芽以

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「今回のタンブラーを第一弾として、再来年の創業五十周年記念品までの全てを、FSP我が社にお任せいただけませんか」

『なに、言ってんの?』と言わんばかりの驚きの表情で、荻野さんが私を見ているのがわかった。

「堀藤さん。我々は自社製造を――」

「――第一弾、ということは――」と、部長が初めて口を開いた。

「第二弾があるということですか?」

 単純なものだ。

 部長に興味を持ってもらえたことで、途端に掌の汗が引いた。

「はい! 夏にレストランを一店舗オープン予定と伺いました。第二弾はそちらのオープン記念です。今回の第一弾からシリーズでノベルティを展開し、五十周年記念を集大成とします。タンブラーのロゴか配色をベースとして、レストランのノベルティにも使用すれば、お客様にお揃いで集めたいと思っていただけるかと考えています」

「シリーズ、ですか」

「ですが、シリーズ物は最初に失敗すると後に続きません。かなり危険な賭けでしょう」と、主任が言った。

「それに、シリーズ化するのなら尚更、自社製造の方が――」

「それこそ、失敗した時の損失は膨大ではありませんか?」

「――だが、逆の場合は? 成功した場合、自社製造していればもっと利益をあげられた、ということになる可能性もある」

 驚くほど冷静だった。

 それは、部長の言葉が、予想していたものと同じだったから。予想したのは、私ではないけれど。

『自社製造、社内でも割れてるんじゃないか?』

 智也が言っていた。

『企画部長は、根は保守的な考えだ。奥山商事の基本理念は食に関するものだ。経営状態が思わしくない現状を、食以外で打破しようとするのは、保守派は気に入らないだろう』

「確かに、そうです。ですが、全てはやってみなければわかりません。ならば、危険リスクが最小限の可能性に賭けませんか?」

「――というと?」

「自社製造ラインの導入は、成功しても利益を生むまでに何年も要します。失敗した時の損失は計算済みだと思います。ならば、今回の企画は外注にして、成功した場合に自社製造に切り替えればいいのでは?」

「それこそ、何年もかかるだろう」

「それは、製造工場を新規に建設した場合です」

 会議室に緊張が走る。

 私のこれまでの仕事は、オープン〇周年記念の記念品を扱うような、毎年恒例の契約ばかりで、内容も『昨年と同じもの』が多かった。完全に、顧客と工場の連絡係。

 こんな風に、自分の企画を持ち込んだりしたことはない。

『彩。本当の意味で営業としての初仕事だ』

 電話の向こうで、智也は楽しそうだった。



 この仕事を成功させたら、智也は喜んでくれるだろうか?

 私は、少しは自分に自信を持てるだろうか?


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