続・最後の男

深冬 芽以

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5 試練

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「企画が成功した場合、製造工場と専属契約、もしくは工場を傘下に収める、というのはいかがでしょう?」

「買収?」

「はい。社員の高齢化や後継者不足、経営悪化などで閉鎖の危機にある工場は多くあります。ですが、設備と一流の技術者はいるんです。御社が後ろ盾となって技術を受け継ぐ若い世代を雇用できれば、工場側も願ったりです。たとえ企画が失敗に終わっても、工場にしてみれば仕事が終わっただけにすぎません」

「なるほど……」と言って、部長はゆっくりと目を閉じた。

 三秒ほどで目を開いた時、彼の眉間の皺は消えていた。

「堀藤さんの企画を具体的に聞かせてもらえますか?」

「はい! ありがとうございます!!」

 自分でもびっくりするほど大きな、弾んだ声が出た。会議室に響く。

「待ってください! 部長」と、主任が慌てて口をはさんだ。

 自社製造ラインの導入は、社内でもデリケートな問題なのだろう。

 主任は軽く体を捻り、私と荻野さんに背を向けて部長の肩で小声で話した。

 荻野さんは興味津々だったが、私は『いただきます』と言って、冷めたお茶を一口飲んだ。思った以上に緊張していたのだろう。お茶を飲んで、口の中の粘膜に粘りがないほど乾ききっていたと気が付いた。

『社内でもあまり知られていないことだが、企画部長は現社長の義理の弟だ。社長の妹の旦那で、会長の娘の旦那ってわけだ。あの人を説得出来たら、奥山商事が動くはずだ』

 全然知らなかった。千堂課長も、何も言っていなかった。

 十年前に奥山商事の仕事をした時に、智也が偶然気が付いたらしい。

 社長が『中学生の姪が美術展で賞を取った』と話していたことと、企画部長が『中学生の娘が美術展で賞を取った』という話を聞いて。

 智也の問いに、企画部長は『嫁の兄は大学の後輩なんだ』と話してくれたらしい。

 経歴を見ると、社長と企画部長は同じ大学の同じ学部の出身だった。

「仮にあなたの企画で契約するとして――」

 主任が正面に向き直り、私に言った。部長は少し口元を緩ませ、どこか愉快そうに私を見た。

「第一弾で失敗したらどうします? 我が社の自社製造の計画は頓挫し、五十周年の一大イベントの危機にもなりうる。失礼ですが、その責任はあなた一人に負える規模ではありません」

 以前から何となく感じてはいたけれど、主任はかなり慎重だ。今日も、失敗した時の事しか言っていない。タンブラーにしてもそうだ。当初、五百個で見積もっていたのを、三百に変更したのは、主任。



 智也なら、つまんない男だ、とか言いそう……。



「では、逆に、割引券の配布に効果がなかったらどうします? そもそも、何が成功するか失敗するかは、やってみなければ分かりません。自社工場についてもそうです。ならば、最悪の場合は損失を最小限に、成功の場合の利益は最大限に出来る企画をお勧めします」

「随分と自信がおありですね」と、部長が言った。

 部屋の空気が張り詰める。

 けれど、部長の表情は穏やか。

「はい。提案する以上、自信はあります」

「その自信を、具体的に数字にしていただけますか」



 失敗したら、全部智也のせいにしてやる――!!



「第一弾の契約は、前回提示させていただいた見積もりの三割額に訂正させていただきます」

 三秒後、会議室に部長の高らかな笑い声が響いた。

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