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5 試練
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しおりを挟む男は本当に子供だ、と私が思う理由の一つに、体調が悪い時の気持ちの弱さがある。
とはいえ、私が知っている男は元夫だけ。
三十七度五分の熱で今にも死にそうな呻き声をあげて、肩で息をする。子供にうつらないようにと食事の時間をずらすと、冷たい、とか、死ねばいいと思ってるんだろ、とか言っていじける。
私は三十八度以上の熱があっても、幼稚園の送迎をしたわ! と何度言いそうになったかわからない。
そのくせ、病院には行こうとせず、よく効くと勧められた薬とドリンクを買って来たら、マズいと吐き出す。
離婚直前は、眠ったまま死んでくれないかと本気で思った。
ところが、智也は何も言わなかった。
何も言えないほど弱っていたのかもしれないけれど、私に言われるがままにお粥を食べて、薬を飲んだ。さすがに滋養強壮ドリンクは苦そうだったけれど、私の顔を見て観念したのか、一気に飲み干した。
冷えピタには抵抗があったようだけれど、それも私の無言の圧力によってねじ伏せられた。
真と亮より聞き訳がいいかも……。
弱って私の言いなりになる智也を、可愛いなんて思っていることは絶対に言えない。
「ぐっすり寝て起きたら、少しは楽になってるはず」と言って、私は智也の頭を撫でた。
最早、癖だ。
子供たちによくしているから。
智也の髪は少し湿っていた。熱で汗ばんでいるのだろう。
パジャマやシーツの替えは足りるだろうか、と気になった。
「あや……」
「ん?」
「奥山――の……契約はどうなった?」
「うん。ばっちり」
布団で顔が半分隠れているけれど、なんとなく喜んでくれているのはわかった。
「部長のアドバイスのお陰です」
「少しは……、惚れ直したか?」
「そうね」
「そっか……」
今度は、ちゃんと喜んでいるのがわかった。
私は無意識に手を伸ばし、もう一度彼の頭を撫でた。
無防備な智也を見ていると、そうせずにはいられなかった。
「早く治して……?」
犬や猫のように、頭を撫でられた智也は安心したように目を閉じた。
智也のご両親のことを、夏子から聞いたことがある。少しだけ。
仕事で家を空けることが多くて、智也にとって母親は祖母だったという。学校行事もインフルエンザも、ご両親が家に変える理由にはならなかったと。
幼い智也の頭を撫でてくれた人はいたのだろうか、と思う。
「あや……」
かすれた声。
「……あや――」
「ずっとそばにいるよ」
『ずっとそばにいる?』
そう聞かれたような気がして、私は答えた。
「大丈夫よ」
智也が、心細さに涙を堪える子供のように、見えた。
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