続・最後の男

深冬 芽以

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 二十代後半で脇くらいまである髪をハーフアップにしてクリップで留めている。制服のベストの上にカーディガンを羽織り、タイトスカートから覗く膝から下の細い足は薄いストッキングだけで、寒そうだ。

 何を話しているのかはわからなかったけれど、彼女がバレンタインに告白した女性ひとだと、女の勘が告げていた。



 可愛らしい子……。



 彼女のように若い女性なら、結婚して智也の子供を何人でも産んであげられるのだう。

 そんな風に思いながら、私は二人に歩み寄っていた。

 智也の困った顔と、彼女の必死な顔。

 大人しそうに見えるけれど、案外押しが強いのかもしれない。

 智也を諦められない、と訴えているのかもしれない。

 いつもの私ならば、回れ右をして立ち去るだろうけれど、今日はそうはいかなかった。

「打ち合わせは終わりましたか?」

 私は、仕事モードの少し高めの声で言った。

 振り向いた智也は、すごく驚いた顔。

「彩!」

「いつもお世話になっております。溝口の部下の堀藤です」

 私は、智也をスルーして、女性に頭を下げた。

「あ……。こちらこそお世話になっております。宇喜原です」

「お邪魔して申し訳ありません。溝口に急ぎの連絡があったもので」

「いえ。こちらこそすみません。呼び止めてしまって……。失礼します」

 彼女は智也にお辞儀をして、百八十度回転して玄関に入って行った。

 泣きそう、に見えた。

「彩、どうして――」

「車の鍵、貸して!」

 私は智也のコートのポケットに手を突っ込んで、鍵を抜いた。踵を返して車に向かう。

「帰るよ!」

「おい? あ――……ゴホッ――、ゴホッ!」

 咳き込む智也を置き去りにして、私はエンジンをかけ、ヒーターのレベルをマックスにした。ブオーッと冷たい風が送風口から吹き出す。

 ドアを閉め、トボトボと歩く智也から鞄を奪い取り、後部座席に置いた。

 抵抗する気力も手足の自由もないよう。

 私は自分のマフラーを外して、湿っていない内側で智也の頭の上の雪を軽く払った。触れた頬が、熱い。

 助手席のドアを開けて、智也に早く乗るように促した。

「な……んで……」

「看病しに来てあげたんだけど、あの子の方が良かった?」

「そん――……、ゴホッ――」

 私は蹲る智也に覆い被さるようにして、彼のシートベルトを引っ張った。それから、自分のシートベルトをして、コートの襟を少し開けた。ハンドバッグの中のジップロックから使い捨てのマスクを二枚、取り出す。一枚は私がつけ、一枚を智也に渡した。

「智也。私の事、好き?」

 智也は小さく頷いた。

「じゃあ、私の為ならどんなに苦い薬でも飲めるわよね」

 帰り道、智也が眠っている間にドラッグストアに寄り、自分の為には絶対に買わない高い風邪薬と滋養強壮ドリンクを買った。



 これをバレンタインのチョコ代わりにしてやる!



 我ながら、心が狭い。

 いい年をして、嫉妬なんてみっともない。

 わかっているのに、この間からそんなみっともないことばかり。



 恋愛って、怖いな……。



 ドラッグストアの隣のスーパーで食料と飲み物を大量に買い込み、車に戻った。

 智也は苦しそうに浅い呼吸を繰り返していたが、私が戻ったことも気づかないほど寝入っていた。
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