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6 ダブルパンチ
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しおりを挟む「あの、失礼ですが、どちら様でしょう?」
女性に黙られてしまって、対応に困った。
智也を起こすにしても、相手が誰かくらいは聞いておいた方がいいだろう。急用じゃないのなら、起こしたくない。
そう思って、聞いた。
そうしたら、すごい怖い目で睨まれてしまった。
「あなたは?」
「溝口の友人です」
「友人……ねぇ」
とても、気分の悪い視線。観察するような、粗探しをするような。
どうやら、女性は私に名乗るつもりがないらしい。そうなると、私が出来ることは、智也を起こすことだけ。
本当は起こしたくないけれど。
「溝口を呼びますので、少し待っていてもらえますか?」と言って、私はポケットに入れた鍵を取り出した。
「出かけているのかしら」
「え? いえ。体調を崩して休んでいるんです」
「そう。なら、いいわ」
ムッとしたように言うと、女性はくるりと後ろを向いた。
「あの! いらっしゃったことは伝えますので、お名前を――」
「――です」
「は――?」
背を向けられていたせいで、声が聞き取れなかった。そのまま行ってしまうのではとちょっと急いて、思わず間抜けな声が出てしまった。
振り向いた女性は、再び私を睨みつけて言った。
「智也の母です!」
は……は――?
まさかの、恋人の母親との対面に、慌てた。
とならないのは、これまでの人生経験の賜物だろう。
いきなり恋人の母親と鉢合わせるなんて経験はないけれど、不測の事態に冷静に対処する術は身に着けていて。私は、割と冷静だった。
「失礼いたしました。私、智也さんの友人の堀藤と申します」
私は足の前で両手を重ね、直角にお辞儀をした。三秒。頭を上げる。
「あなた、智也の恋人?」
さて、どう答えたものか。
そう考えたのは二秒ほどだった。
「はい」
「一緒に住んでるの?」
「いえ。札幌に住んでいます」
「そう……」
さっき出掛けた時は晴れていた。
それが、ちらちらと雪が降ってきた。
私と、智也のお母さんの心境が反映されていたら、今頃猛吹雪だ。
「お出かけ?」
「え? はい。買い物に――」
「飛行機の時間まで、付き合ってもらえるかしら」
私に拒否権などない。
私はゆっくりと、大きく息を吸った。
「はい」
智也のお母さんが、バスで空港まで行くと言うので、バス停近くのカフェに入ることにした。
この辺にめんつゆ買えるところ、あったかな。
そんなことを考えられる余裕があったのは、智也が両親と疎遠だと聞いていたからだと思う。
カフェに、客はいなかった。
私たちは店の奥の窓側に座り、智也のお母さんは紅茶、私はコーヒーを注文した。
こうして落ち着いて見ると、智也のお母さんは夏子に似ていた。ただ、夏子の年齢を考えるとお母さんは六十歳は過ぎているはず。顔を見てすぐにそうとは気づかなかったのは、とても六十歳を過ぎているようには見えなかったから。
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