54 / 231
7 彼女の不安、俺の過去
2
しおりを挟む彩が何でも話せるような頼りがいのある男であればいいこと。なのに、頼ってくれないといじけるなんて、情けない。
けれど、冨田の事といい、彩も言わなすぎると思う。
彩が俺の首にしがみつき、見えないように涙を拭ったのがわかった。
「あの子のチョコ……食べたの?」
「え?」
あの子……?
「バレンタインに告白してきたのって、あの子でしょう?」
本気で忘れていた。
そうだ。彩は一昨日、宇喜原優に会っている。
「――ああ」
「私が来なかったら、あの子に看病してもらえたのにね」
ん……?
彩の言葉が嫉妬にしか聞こえず、自分に都合のいいように解釈しているだけなのかと考えた。けれど、やっぱり、嫉妬にしか聞こえない。
「そんなこと気にしてたのか」
彩に顔を見られていなくて助かった。
俺は、顔がニヤけてしまうのを堪えきれなかった。
彩に嫉妬してもらえるのは、嬉しい。
「あの子、いくつ?」
「さあ? 三十手前ってとこか?」
「……」
「彩」
この言い方だと、彩は年齢を気にしているようだ。
さっきも自分のことを『こんなおばさん』と言っていた。
「邪魔……だった?」
「……」
ふと、思った。
彩は宇喜原商店本社に来た。
仕事中だとわかっていて、話している相手が取引先の社員であることもわかっていたはずだ。それなのに、彩は声をかけて、俺を連れ帰った。
らしくない、気がした。
ちゃんと顔が見たくて、彼女の身体を引き離そうとしたけれど、強い力で首から離れなかった。
仕方なく、俺は彩の肩を抱いた。
「そう思うんなら、どうして声をかけた?」
「……?」
「邪魔だと思うなら、どうして声をかけた?」
「……智也、辛そうだったじゃない。熱があるのに外で立ち話なんて――」
笑いそうに、なった。声を出して、笑ってしまいそうになった。それを誤魔化すために、 勢いよく腰を突き上げた。すると、彩の腕が緩み、俺は彼女の肩をグイッと押し退け、正面から見つめた。
「お前のそういうとこ、好きだよ」
無意識に、とても自然に言葉が出た。
とても素直な気持ち。
「なに、それ」
「大事なこと、ちゃんとわかってる」
「どういう――」
もう、言葉は必要なかった。
感情のままに腰を振った。
宇喜原優に呼び止められた時、本当に具合が悪くて、正直何を言われたかはうろ覚え。
『やっぱり好きなので――』みたいなことを言われたような気がする。俺がなんて言ったかは覚えていない。
ただ、宇喜原優が泣きそうな表情をしていたような気がするから、きっぱりと断ったのだと思う。
立っているのも限界に思えた時、彩が現れて、幻覚じゃないかと思った。
急に膣内が狭くなり、我慢が出来なくなった。
「あっ――! ば――」
そのまま激しく腰を二、三かい上下させ、果てた。
静かな部屋に、互いの荒い息遣いだけが聞こえる。
「彩……」
宇喜原優に嫉妬しながらも、俺の体調を気遣って助けに来てくれた。
彩の、そういう、大事なことを間違えない冷静さが、好きだ。
この先、何があっても、最後はちゃんと俺を選んでくれると、思える。
それから、セックスの後にキスをくれるのも、好きだ。
性欲だけじゃない、愛情のある行為だと思えるから。
1
あなたにおすすめの小説
【ルーズに愛して】指輪を外したら、さようなら
深冬 芽以
恋愛
インテリアデザイナーの相川千尋《あいかわちひろ》は、よく似た名前の同僚で妻と別居中の有川比呂《ありかわひろ》と不倫関係にある。
ルールは一つ。
二人の関係は、比呂の離婚が成立するまで。
その意味を深く考えずに関係を始めた比呂だったが、今となっては本気で千尋を愛し始めていた。
だが、比呂の気持ちを知っても、頑なにルールを曲げようとしない千尋。
千尋と別れたくない比呂は、もう一つのルールを提案する。
比呂が離婚しない限り、絶対に別れない__。
【ルーズに愛して】シリーズ
~登場人物~
相川千尋《あいかわちひろ》……O大学ルーズサークルOG
トラスト不動産ホームデザイン部インテリアデザイン課主任
有川比呂《ありかわひろ》……トラスト不動産ホームデザイン部設計課主任
千尋の同僚
結婚四年、別居一年半の妻がいる
谷龍也《たにたつや》……O大学ルーズサークルOB
|Free Style Production《フリー スタイル プロダクション》営業二課主任
桑畠《くわはた》あきら……O大学ルーズサークルOG
市役所勤務、児童カウンセラー
小笠原陸《おがさわらりく》……O大学ルーズサークルOB
|Empire HOTEL《エンパイアホテル》支配人
小笠原春奈《おがさわらはるな》……陸の妻
|Empire HOTEL《エンパイアホテル》のパティシエ
新田大和《にったやまと》……O大学ルーズサークルOB
新田設計事務所副社長
五年前にさなえと結婚
新田《にった》さなえ……O大学ルーズサークルOG
新田大斗《にっただいと》……大和とさなえの息子
亀谷麻衣《かめやまい》……O大学ルーズサークルOG
楠行政書士事務所勤務
婚活中
鶴本駿介《つるもとしゅんすけ》……楠行政書士事務所勤務
年下研修医の極甘蜜愛
虹色すかい
恋愛
医局秘書として市内の病院に勤務する廣崎彩27歳。普段はスマートに仕事をこなすクールな彼女だが、定期的にやって来る「眠れない夜」に苦しんでいる。
そんな彩に、5年越しの思いを寄せる3歳年下の藤崎仁寿。人当たりがよくて優しくて。仔犬のように人懐っこい笑顔がかわいい彼は、柔和な見た目とは裏腹に超ポジティブで鋼のような心を持つ臨床研修医だ。
病気や過去の経験から恋愛に積極的になれないワケありOLとユーモラスで心優しい研修医の、あたたかくてちょっと笑えるラブストーリー。
仁寿の包み込むような優しさが、傷ついた彩の心を癒していく――。
シリアスがシリアスにならないのは、多分、朗らかで元気な藤崎先生のおかげ♡
*****************************
※他サイトでも同タイトルで公開しています。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
やさしいキスの見つけ方
神室さち
恋愛
諸々の事情から、天涯孤独の高校一年生、完璧な優等生である渡辺夏清(わたなべかすみ)は日々の糧を得るために年齢を偽って某所風俗店でバイトをしながら暮らしていた。
そこへ、現れたのは、天敵に近い存在の数学教師にしてクラス担任、井名里礼良(いなりあきら)。
辞めろ辞めないの押し問答の末に、井名里が持ち出した賭けとは?果たして夏清は平穏な日常を取り戻すことができるのか!?
何て言ってても、どこかにある幸せの結末を求めて突っ走ります。
こちらは2001年初出の自サイトに掲載していた小説です。完結済み。サイト閉鎖に伴い移行。若干の加筆修正は入りますがほぼそのままにしようと思っています。20年近く前に書いた作品なのでいろいろ文明の利器が古かったり常識が若干、今と異なったりしています。
20年くらい前の女子高生はこんな感じだったのかー くらいの視点で見ていただければ幸いです。今はこんなの通用しない! と思われる点も多々あるとは思いますが、大筋の変更はしない予定です。
フィクションなので。
多少不愉快な表現等ありますが、ネタバレになる事前の注意は行いません。この表現ついていけない…と思ったらそっとタグを閉じていただけると幸いです。
当時、だいぶ未来の話として書いていた部分がすでに現代なんで…そのあたりはもしかしたら現代に即した感じになるかもしれない。
ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?
春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。
しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。
美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……?
2021.08.13
楽園 ~きみのいる場所~
深冬 芽以
恋愛
事故で手足が不自由になった悠久《はるか》は、離婚して行き場を失くしていた義姉の楽《らく》を世話係として雇う。
派手で我儘な女王様タイプの妻・萌花《もか》とは正反対の地味で真面目で家庭的な楽は、悠久に高校時代の淡い恋を思い出させた。
「あなたの指、綺麗……」
忘れられずにいた昔の恋人と同じ言葉に、悠久は諦めていたリハビリに挑戦する。
一つ屋根の下で暮らすうちに惹かれ合う悠久と楽。
けれど、悠久には妻がいて、楽は義姉。
「二人で、遠くに行こうか……。きみが一緒なら、地獄でさえも楽園だから――」
二人の行く先に待っているのは、地獄か楽園か……。
Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~
汐埼ゆたか
恋愛
絶え間なく溢れ出る涙は彼の唇に吸い取られ
慟哭だけが薄暗い部屋に沈んでいく。
その夜、彼女の絶望と悲しみをすくい取ったのは
仕事上でしか接点のない上司だった。
思っていることを口にするのが苦手
地味で大人しい司書
木ノ下 千紗子 (きのした ちさこ) (24)
×
真面目で優しい千紗子の上司
知的で容姿端麗な課長
雨宮 一彰 (あまみや かずあき) (29)
胸を締め付ける切ない想いを
抱えているのはいったいどちらなのか———
「叫んでも暴れてもいい、全部受け止めるから」
「君が笑っていられるなら、自分の気持ちなんてどうでもいい」
「その可愛い笑顔が戻るなら、俺は何でも出来そうだよ」
真摯でひたむきな愛が、傷付いた心を癒していく。
**********
►Attention
※他サイトからの転載(2018/11に書き上げたものです)
※表紙は「かんたん表紙メーカー2」様で作りました。
※※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる