続・最後の男

深冬 芽以

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9 女の闘い

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「小会議室、お借りします」

 凪子さんは千堂課長と共に、心配そうな表情で私を送り出した。

 出だしでこれだけ躓いたのだから、和解して、協力して仕事が出来るなんて思っていない。

 それはきっと、益井課長も同じはず。

 それでも、一緒に仕事をしていく以上は、どうにか折り合いをつけなければならない。

 そう思ったからこそ、私はみんなの前で頭を下げた。

 少なくとも、益井課長の面子は立つ。けれど、益井課長の怒りはそんなことで収まりはせず。

「堀藤さん」

 会議室に入るなり、益井課長は低い声で話し始めた。座るようにとも言われていないし、彼女も立ったままだから、私も立っている。

 私と彼女の距離はおよそ二メートル。それ以上近づくと、火傷しそうなほどの怒りを感じた。

 益井課長の年齢や立場を考えると、私のような部下は初めてではないだろう。年下の部下、使えない部下、生意気な部下。彼女はそういう部下に対し、いつもこんな風に感情的に怒鳴り散らしていたのだろうか。

 普通に考えれば、有り得ない。

 智也も以前はよく、部下に怒鳴っていたけれど、ここまで感情的ではなかったし、そもそも怒鳴って怒るのは何度も同じミスをしている人にだけ。部下の意見には耳を貸していたし、アドバイスもしていた。

 まぁ、多少、普段から近寄りがたい雰囲気ではあったけれど。

 二課の人たちが話していたのを聞いたことがある。

『ミスを繰り返す俺が悪いんだけどさ、もうちょっと言い方ってもんが……』

『お前、溝口課長が本気で怒ったところ、見たことないだろ』

『は? 割といつも本気で怒られてる気がするけど』

『ばぁか。あんなん、本気じゃねーよ。あの人が本気になったら、無表情で一言言うだけなんだよ。『もういい』って。怒鳴る価値もないってことだな』

 あの時から、智也を見る目が少し変わった。

 そんな智也が、益井課長と気が合って、結婚まで考えていたとは思えない。

 となると、益井課長が感情的になるのは、私にだけということではないだろうか。



 それはつまり、私と智也の関係を知っているから……。



「とにかく、仕事に対する考え方も姿勢スタンスも違うのは確かだから、議論するだけ時間の無駄でしょう。なら、きっちり役割を決めた方が効率がいいわ」

「役割……ですか」

「ええ。あなたは奥山の部長に気に入られているようだから、奥山あちらとの調整役はあなたがして頂戴。今回の第一弾については仕方がないとしても、今後の価格交渉は私に任せてもらうわ」

 何が何でも、利益を上げて自分の手柄にしたいらしい。

 FSP我が社では、営業部員同士を競わせて順位をつけて表彰するような制度はない。課を跨いで企画を共有することもあるし、長期契約の担当になると、新規契約にまで手が回らないから。既存の顧客との契約更新も立派な功績だし、契約を終了した顧客から再び依頼があった時に指名を受けたりするのも、営業冥利に尽きるというものだ。

 とはいえ、データ管理上、誰が幾らの契約を取ったとか、誰が何件担当しているとかは、グラフ化されていて一目瞭然。担当課も人も変わることがあるから、グラフそれが全てではないけれど、意識している人はいる。



 益井課長のデスクトップには、『業績一覧』のショートカットが真ん中に配置されているんだろうなぁ。



「わかった!?」

 返事を躊躇う私に苛立ち、強い口調で言った。



 とりあえず、この場は仕方がないか……。



「わかりました」
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