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9 女の闘い
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しおりを挟むフンッと鼻息を荒くして、益井課長は私に背を向けた。
はぁぁぁ……。
ため息が口に出ていなくて良かった。
私が気を抜く前に、課長がくるりと振り返った。
「あなたと智也の関係は知っているわ」
「――!」
いきなりかいっ! と心の中で叫んだ。
「私と智也の関係は十年も前に終わっていることだし、今更、今カノに対して思うことは何もないわ。だから、私とあなたの気が合わないのは、智也とは関係ないわ」
わざわざ釘をさしてくるあたりが、色々と思ってる証拠だと思うんですけど……。
「智也の趣味が随分と変わったことには驚いたけど? 女に癒しを求めるようになるなんて、智也も年を取ったってことよね」
益井課長が智也のことを呼び捨てにするたびに、喉の奥がチクチクする。
「あなたもいい大人なんだし、割り切って頂戴」
『も』って……。
益井課長自信が一番割り切れてないと思うけど……。
それは、私もか。
「わかりました」
「それから、これは業務連絡だけど、明後日は出張で出社しません」
「はい」
益井課長が右の口角を上げ、ニヤリと笑った。漫画なんかでよく、主人公のライバルが浮かべる意地悪な笑みを、実写で見た。
「函館に出張なの。智也も一緒に」
え――――?
「函館で取引のあった工場に釧路の仕事を依頼するのよ。で、工場と繋がりのある私と、釧路の担当の智也が一緒に出向くの。聞いてなかった?」
益井課長が、今も智也に気があるとは思えない。
仕事の為に捨てた男、しかも、十年も会っていないのなら、未練なんてあるはずがない。
ならば、こうして私の前で『智也』と呼ぶのも、出張のことを得意気に話すのも、私が気に入らないから。
『私が捨てた男を拾ったくらいで、いい気になるなよ』
『再会した私と智也がどうなっても、恨まないでね?』
そう聞こえるのは、私の性格が歪んでいるからだろうか。
とにかく、私の性格がどうかは別としても、益井課長《この女》のこの言葉、態度は、挑発的で。私がこの挑発に乗るのは、間違いではないはず。
つーか!
ここまで言われて黙って引き下がるほど、私はデキた女じゃないから!!
「益井課長がどういう立場で今のお話をされたのかは分かりませんが、部下の立場として言うなら、出張については承知しました」
『部下の立場』と言っておきながら、私の課長を見る目はそんなものじゃないのは、自覚していた。無表情で、じっと見据える。正確には、睨みつけていた。
課長の口元から笑みが消え、私と同じく無表情でじっと視線を交わした。
「部下の立場以外、何があるの?」
『さあ、言ってみろ』と言わんばかり。
今後の仕事を考えれば、挑発に乗らない方が賢明だ。
わかっている。
「智也の恋人の立場で言うなら――」
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「私の男を呼び捨てにしないでください」
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