続・最後の男

深冬 芽以

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11 彼女の本音

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「明日帰るんでしょ? 何時の便?」

 不意に話題が変わった。

「丘珠を五時」

「出張費でおとせるの?」

「無理だな」

「お土産代、高くついたね」

「お陰で勉強させてもらいました」

「勉強?」

「彩を怒らせると、どんだけ怖いか」

 彩がクスクス笑う。

 俺にしたら、笑い事じゃない。

 だが、彩の嫉妬が嬉しかったのも事実だ。

 他人と深く関わってこなかった俺は、嫉妬したりされたり、仕事以外で怒ったり怒られたりすることがなかった。

 まぁ、彩に関しては割と最初から千堂に嫉妬していたが。

「仕事は? 函館の工場とは契約できたの?」

「ああ」

 昼からLサイズのピザ二枚なんて食いきれるかと思ったが、昨夜からの緊張で思っていたよりも消耗していたらしく、ペロッと食べ終えた。

「電話で話した感じでは、長期の仕事を渋っているようだったけど、直接説明したら割とあっさり受け入れてくれたな。札幌の工場に振っても良かったんだけどさ、請負額が断然安いからな。上手くいって良かったよ」

「お疲れさま。函館へはちょくちょく行くことになるの?」

「いや。製作開始したら、定期的な挨拶程度だな。ただ、益井の話だと安価で請け負ってくれる工場が他にもあるらしいから、札幌工場から移行シフトさせてもいいかなと思ってる。その為の出張は入るかな」

「短い時間とはいえ、飛行機の移動は大変だね」

「飛行機より、空港へのアクセスがな」

 たんちょう釧路空港へは、連絡バスか車で一時間弱。札幌や東京ではバスというものに乗る機会があまりなく、最初は新鮮だったが、慣れてくると不便に感じる。揺られて一眠りでもするにはちょうどいいのだが、ノートパソコンを開けないから。

「智也、札幌こっちにいた時より楽しそうだよね」

「え?」

札幌こっちにいた時は、大きい仕事バンバンこなして充実してる感じだったけど、釧路では自由に動けて楽しそう」

「……」

 就職して十七年。

 仕事を『楽しい』と感じたことはなかった。

 やりがい、はあった。

 大きな契約が取れた時や、成績トップになれた時は嬉しかった。そして、もっと大きな契約を、来月もトップになれるように、と励んだ。それを、『楽しい』と表現したことはない。

「智也?」

 自分の言葉に、俺がマジマジと考え込んでしまって、彩は不思議そう。

「楽しい……か?」

「え?」

「いや。仕事を『楽しい』って思ったこと、なかったな」

「そう? 感じ方の違いかな? 『達成感』とか『満足感』も、『楽しい』と同じ分類じゃない?」

「分類?」

「そ。喜怒哀楽に分けたら――、あ! 違うか。達成感と満足感は『喜び』?」

 それも、ピンとこなかった。

 そもそも、仕事は生きていくために必要不可欠なことで、強いて言えば『義務』とか『責任』。だから、感情に置き換えたことはない。

 たまに『仕事が楽しくない』とか言って辞める奴がいるが、俺にはその感情が理解できない。もちろん、例外はあるだろうが、基本的に自分の働きに見合った報酬を得る以上、報酬に見合った働きをするのは『義務』であり、『責任』。

 楽しめて報酬を得られればそれに越したことはないけれど、それができる人間が、果たして世の中に何人いるだろう。
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