続・最後の男

深冬 芽以

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11 彼女の本音

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 また、だ。

 益井が赴任してきてから、彩は何度『大丈夫』と言ったろう。

 電話では何も言えなかったが、今は違う。

「確かに、仕事には関係ない。けど――」

「益井課長が『課長』の立場でいる限り、私は部下として仕事をするだけよ」

「じゃあ、あいつが『課長』から立場を変えたら――?」

「……昼寝の時間、終わっちゃうよ?」

 彩の腕の中が心地良すぎて瞼が重くなる。



 こんな姿、誰にも見せらんねーな。

 彩以外の、誰にも……。



 彩の鼓動に耳を澄まし、呼吸の度に膨らむ胸に顔を押し当てていると、自然と俺の呼吸が重なった。

『一心同体』という言葉があるが、きっとこういうことなんだと思う。

 同じリズムで呼吸をして、同じリズムで命を刻む。

 それはセックスにもよく似ていて。

 リズムが合わないと快感は得られないし、それで達したとしても物足りなさが残る。どちらかだけが自分勝手に快感を得ても、相手もそうでなければ、そうである時ほどの快感ではない。

 互いに溶け合うような一体感。

 心地良すぎて、寝過ごした。

 どっぷりと日が暮れてからスッキリ目覚めた俺たちは、目覚めの腹の音に大笑いした。

 昼にがっつりピザを食べたから、夜は軽めにと近所のうどん屋に行った。

 彩はコンビニのうどんがいいと言い張った。その理由が、化粧して食事に出るのが面倒だから、だと聞いて、俺はスッピンの彩をうどん屋に連れ出した。

「な? 誰もお前がスッピンなの、気づいてないだろ?」

 日本語は難しい。

「どーせ、化粧してもしなくても大差ないですよ!」

 昨夜以上に彩を怒らせてしまった。

「――じゃなくて!」

 彩は山菜うどんに大海老天二本を追加でトッピングした。

 仕返しのつもりなんだろうが、ささやかすぎて笑ってしまいそうになった。

 大海老天二本で機嫌が直るなら、安いものだ。しかも、届けられたうどんの、麺よりもつゆよりも、まず大海老天にかぶりつく様を見て、これだけでこんなに幸せそうな表情かおを見れるなら、毎回でもトッピングさせてやろうと思った。

「安い、と思ってるんでしょ」

「は?」

「部長様には安いかもしれないけどね! 平社員の私には贅沢なんだから」と言いながら、幸せそうな顔でサクサクと衣を噛む。

 口調と表情が合っていない。

「天ぷら、好きか?」

「ん。自分じゃ上手く揚げられないからねー。野菜なら作るけど、魚介の天ぷらは難しいから」

「ふーん」

 彩は二本の大海老を平らげてから、ようやく麺をすくった。

「その食べ方、どうなんだよ」

「いーの! 天ぷらはサクサクしてるのが美味しいんだから。つゆにひたひたになる前に食べたいの」

「あ、そ」

 この一年半で、彩と子供たちと何度か食事に行った。俺が払うとわかっているのに、わかっているからか、子供たちには好きなものを食べさせるが、自分は安めのものばかり注文する。

 ハンバーグを食べに行けば、真はカリーバーグとコーラ、亮はノーマルのとフライドポテトとオレンジジュース、彩はノーマルなハンバーグのみ。

 寿司と焼肉に至っては、子供たちの食べっぷりにハラハラする始末。

 きっと、家族で食事する時もそうなんだろう。

 彩だってそれなりの給料をもらっている。元夫からの養育費もあるし、実家暮らしだから、生活に困ってはいないはずだ。それでも、彩は決して贅沢はしない。

 だから、理由はどうあれ、彩が遠慮なしに昼のピザや、一本百八十円の大海老天を二本もトッピングするのを見ると、甘えられてる気がして嬉しい。



 俺も、大概安いな……。



 そして、単純だ。
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