92 / 231
11 彼女の本音
4
しおりを挟む
「一緒にいても仕事の話ばっかで、お互いのことで知っているのは食事の好みとその月の営業成績くらい。仕事の話をするのは有意義だったし、お互いの仕事の邪魔をすることはなかったから楽だった。女といて煩わしいと感じないなんて俺には奇跡的だったし、不満はなかった」
「だから……結婚しようと思ったの?」
彩の言葉に、驚くほど違和感、というか、不快感を持った。
当時の自分をぶん殴りたい。
「互いに執着して束縛するような関係より、『同志』の方が長く一緒にいられると思った」
言い訳のように言った。
「益井課長も言ってた。『智也とは恋人である前に同志だった』って」
「そう、言葉にしていたからな。『恋人である前に、同志でライバルだ』って」
「でも、好きだったんでしょう?」
また、だ。
心臓が鈍く軋む。
彩に、俺が益井をとても好きで、だから裏切られて酷く傷ついた、と思われるのが嫌だ。
「そう……だな?」
彩がクスッと笑い、軽い息が顎をくすぐった。
「どうして、疑問形?」
「いや、『好きだ』なんて言ったことあったかな、と思って」
「え?」
「なんつーか……」
流石に、口ごもった。
いくら十年前のこととはいえ、恋人と上司のセックス事情まで知りたがる女はいない。と、思う。
いや、彩ならわかんねーな。
いらないところで物分かりが良かったりする。
けど、コレを軽く流されたら、流石に凹むな……。
「なに? ここまで話したんだから、やめないでよ」
顔を上げた彩は、俺の期待を裏切らず、平気な顔。
過去に嫉妬されても困るけれど、ここまでなんとも思われないのも寂しいもんだ。
「お互いに負けず嫌いだったからな。甘い言葉なんて、言った方が負け、みたいに思ってたな」
「なに、それ」と、彩がフフッと笑った。
「あいつの、そんな笑顔も見たことあったかどうか……」
「え?」
思ったことが音になっていた。
「いや、なんでも――」
そう言いかけて、俺はずりずりと布団の中に潜った。最近では、それが合図のようになっていて、彩は下ろしていた腕を真横に伸ばした。俺は彼女の腕に、正確には肩に頭を載せる。
彩が俺の髪を指ですき、額にチュッと音を立てて口づける。
幸せだと感じる瞬間。
彩にしてみれば、子供たちにするのと同じ感覚なんだろうが、俺には至福の瞬間。
もちろん、益井にこんな風に抱き締められたことも、そうされたいと思ったこともなかった。
最近の俺、彩に手懐けられ過ぎじゃね?
「彩」
「ん?」
「益井に何かされたら、言えよ」
「……」
想像していた通り、彩は黙った。
昨夜のスマホの件は偶然、彩の口から洩れたに過ぎない。俺が札幌に来なければ、彩はきっと何も言わなかった。
と言うか、まだ、俺に言っていないこともあるだろう。
「彩」
「関係ないんでしょ?」
「は?」
「言ったじゃない。『俺と彩のことは、お前と彩の仕事には関係ないことだ』って」
「それは――」
「大丈夫」
「だから……結婚しようと思ったの?」
彩の言葉に、驚くほど違和感、というか、不快感を持った。
当時の自分をぶん殴りたい。
「互いに執着して束縛するような関係より、『同志』の方が長く一緒にいられると思った」
言い訳のように言った。
「益井課長も言ってた。『智也とは恋人である前に同志だった』って」
「そう、言葉にしていたからな。『恋人である前に、同志でライバルだ』って」
「でも、好きだったんでしょう?」
また、だ。
心臓が鈍く軋む。
彩に、俺が益井をとても好きで、だから裏切られて酷く傷ついた、と思われるのが嫌だ。
「そう……だな?」
彩がクスッと笑い、軽い息が顎をくすぐった。
「どうして、疑問形?」
「いや、『好きだ』なんて言ったことあったかな、と思って」
「え?」
「なんつーか……」
流石に、口ごもった。
いくら十年前のこととはいえ、恋人と上司のセックス事情まで知りたがる女はいない。と、思う。
いや、彩ならわかんねーな。
いらないところで物分かりが良かったりする。
けど、コレを軽く流されたら、流石に凹むな……。
「なに? ここまで話したんだから、やめないでよ」
顔を上げた彩は、俺の期待を裏切らず、平気な顔。
過去に嫉妬されても困るけれど、ここまでなんとも思われないのも寂しいもんだ。
「お互いに負けず嫌いだったからな。甘い言葉なんて、言った方が負け、みたいに思ってたな」
「なに、それ」と、彩がフフッと笑った。
「あいつの、そんな笑顔も見たことあったかどうか……」
「え?」
思ったことが音になっていた。
「いや、なんでも――」
そう言いかけて、俺はずりずりと布団の中に潜った。最近では、それが合図のようになっていて、彩は下ろしていた腕を真横に伸ばした。俺は彼女の腕に、正確には肩に頭を載せる。
彩が俺の髪を指ですき、額にチュッと音を立てて口づける。
幸せだと感じる瞬間。
彩にしてみれば、子供たちにするのと同じ感覚なんだろうが、俺には至福の瞬間。
もちろん、益井にこんな風に抱き締められたことも、そうされたいと思ったこともなかった。
最近の俺、彩に手懐けられ過ぎじゃね?
「彩」
「ん?」
「益井に何かされたら、言えよ」
「……」
想像していた通り、彩は黙った。
昨夜のスマホの件は偶然、彩の口から洩れたに過ぎない。俺が札幌に来なければ、彩はきっと何も言わなかった。
と言うか、まだ、俺に言っていないこともあるだろう。
「彩」
「関係ないんでしょ?」
「は?」
「言ったじゃない。『俺と彩のことは、お前と彩の仕事には関係ないことだ』って」
「それは――」
「大丈夫」
1
あなたにおすすめの小説
【ルーズに愛して】指輪を外したら、さようなら
深冬 芽以
恋愛
インテリアデザイナーの相川千尋《あいかわちひろ》は、よく似た名前の同僚で妻と別居中の有川比呂《ありかわひろ》と不倫関係にある。
ルールは一つ。
二人の関係は、比呂の離婚が成立するまで。
その意味を深く考えずに関係を始めた比呂だったが、今となっては本気で千尋を愛し始めていた。
だが、比呂の気持ちを知っても、頑なにルールを曲げようとしない千尋。
千尋と別れたくない比呂は、もう一つのルールを提案する。
比呂が離婚しない限り、絶対に別れない__。
【ルーズに愛して】シリーズ
~登場人物~
相川千尋《あいかわちひろ》……O大学ルーズサークルOG
トラスト不動産ホームデザイン部インテリアデザイン課主任
有川比呂《ありかわひろ》……トラスト不動産ホームデザイン部設計課主任
千尋の同僚
結婚四年、別居一年半の妻がいる
谷龍也《たにたつや》……O大学ルーズサークルOB
|Free Style Production《フリー スタイル プロダクション》営業二課主任
桑畠《くわはた》あきら……O大学ルーズサークルOG
市役所勤務、児童カウンセラー
小笠原陸《おがさわらりく》……O大学ルーズサークルOB
|Empire HOTEL《エンパイアホテル》支配人
小笠原春奈《おがさわらはるな》……陸の妻
|Empire HOTEL《エンパイアホテル》のパティシエ
新田大和《にったやまと》……O大学ルーズサークルOB
新田設計事務所副社長
五年前にさなえと結婚
新田《にった》さなえ……O大学ルーズサークルOG
新田大斗《にっただいと》……大和とさなえの息子
亀谷麻衣《かめやまい》……O大学ルーズサークルOG
楠行政書士事務所勤務
婚活中
鶴本駿介《つるもとしゅんすけ》……楠行政書士事務所勤務
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
やさしいキスの見つけ方
神室さち
恋愛
諸々の事情から、天涯孤独の高校一年生、完璧な優等生である渡辺夏清(わたなべかすみ)は日々の糧を得るために年齢を偽って某所風俗店でバイトをしながら暮らしていた。
そこへ、現れたのは、天敵に近い存在の数学教師にしてクラス担任、井名里礼良(いなりあきら)。
辞めろ辞めないの押し問答の末に、井名里が持ち出した賭けとは?果たして夏清は平穏な日常を取り戻すことができるのか!?
何て言ってても、どこかにある幸せの結末を求めて突っ走ります。
こちらは2001年初出の自サイトに掲載していた小説です。完結済み。サイト閉鎖に伴い移行。若干の加筆修正は入りますがほぼそのままにしようと思っています。20年近く前に書いた作品なのでいろいろ文明の利器が古かったり常識が若干、今と異なったりしています。
20年くらい前の女子高生はこんな感じだったのかー くらいの視点で見ていただければ幸いです。今はこんなの通用しない! と思われる点も多々あるとは思いますが、大筋の変更はしない予定です。
フィクションなので。
多少不愉快な表現等ありますが、ネタバレになる事前の注意は行いません。この表現ついていけない…と思ったらそっとタグを閉じていただけると幸いです。
当時、だいぶ未来の話として書いていた部分がすでに現代なんで…そのあたりはもしかしたら現代に即した感じになるかもしれない。
ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?
春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。
しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。
美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……?
2021.08.13
楽園 ~きみのいる場所~
深冬 芽以
恋愛
事故で手足が不自由になった悠久《はるか》は、離婚して行き場を失くしていた義姉の楽《らく》を世話係として雇う。
派手で我儘な女王様タイプの妻・萌花《もか》とは正反対の地味で真面目で家庭的な楽は、悠久に高校時代の淡い恋を思い出させた。
「あなたの指、綺麗……」
忘れられずにいた昔の恋人と同じ言葉に、悠久は諦めていたリハビリに挑戦する。
一つ屋根の下で暮らすうちに惹かれ合う悠久と楽。
けれど、悠久には妻がいて、楽は義姉。
「二人で、遠くに行こうか……。きみが一緒なら、地獄でさえも楽園だから――」
二人の行く先に待っているのは、地獄か楽園か……。
年下研修医の極甘蜜愛
虹色すかい
恋愛
医局秘書として市内の病院に勤務する廣崎彩27歳。普段はスマートに仕事をこなすクールな彼女だが、定期的にやって来る「眠れない夜」に苦しんでいる。
そんな彩に、5年越しの思いを寄せる3歳年下の藤崎仁寿。人当たりがよくて優しくて。仔犬のように人懐っこい笑顔がかわいい彼は、柔和な見た目とは裏腹に超ポジティブで鋼のような心を持つ臨床研修医だ。
病気や過去の経験から恋愛に積極的になれないワケありOLとユーモラスで心優しい研修医の、あたたかくてちょっと笑えるラブストーリー。
仁寿の包み込むような優しさが、傷ついた彩の心を癒していく――。
シリアスがシリアスにならないのは、多分、朗らかで元気な藤崎先生のおかげ♡
*****************************
※他サイトでも同タイトルで公開しています。
Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~
汐埼ゆたか
恋愛
絶え間なく溢れ出る涙は彼の唇に吸い取られ
慟哭だけが薄暗い部屋に沈んでいく。
その夜、彼女の絶望と悲しみをすくい取ったのは
仕事上でしか接点のない上司だった。
思っていることを口にするのが苦手
地味で大人しい司書
木ノ下 千紗子 (きのした ちさこ) (24)
×
真面目で優しい千紗子の上司
知的で容姿端麗な課長
雨宮 一彰 (あまみや かずあき) (29)
胸を締め付ける切ない想いを
抱えているのはいったいどちらなのか———
「叫んでも暴れてもいい、全部受け止めるから」
「君が笑っていられるなら、自分の気持ちなんてどうでもいい」
「その可愛い笑顔が戻るなら、俺は何でも出来そうだよ」
真摯でひたむきな愛が、傷付いた心を癒していく。
**********
►Attention
※他サイトからの転載(2018/11に書き上げたものです)
※表紙は「かんたん表紙メーカー2」様で作りました。
※※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
Home, Sweet Home
茜色
恋愛
OL生活7年目の庄野鞠子(しょうのまりこ)は、5つ年上の上司、藤堂達矢(とうどうたつや)に密かにあこがれている。あるアクシデントのせいで自宅マンションに戻れなくなった藤堂のために、鞠子は自分が暮らす一軒家に藤堂を泊まらせ、そのまま期間限定で同居することを提案する。
亡き祖母から受け継いだ古い家での共同生活は、かつて封印したはずの恋心を密かに蘇らせることになり・・・。
☆ 全19話です。オフィスラブと謳っていますが、オフィスのシーンは少なめです 。「ムーンライトノベルズ」様に投稿済のものを一部改稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる