続・最後の男

深冬 芽以

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11 彼女の本音

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「一緒にいても仕事の話ばっかで、お互いのことで知っているのは食事の好みとその月の営業成績くらい。仕事の話をするのは有意義だったし、お互いの仕事の邪魔をすることはなかったから楽だった。女といて煩わしいと感じないなんて俺には奇跡的だったし、不満はなかった」

「だから……結婚しようと思ったの?」

 彩の言葉に、驚くほど違和感、というか、不快感を持った。

 当時の自分をぶん殴りたい。

「互いに執着して束縛するような関係より、『同志』の方が長く一緒にいられると思った」

 言い訳のように言った。

「益井課長も言ってた。『智也とは恋人である前に同志だった』って」

「そう、言葉にしていたからな。『恋人である前に、同志でライバルだ』って」

「でも、好きだったんでしょう?」

 また、だ。

 心臓が鈍く軋む。

 彩に、俺が益井をとても好きで、だから裏切られて酷く傷ついた、と思われるのが嫌だ。

「そう……だな?」

 彩がクスッと笑い、軽い息が顎をくすぐった。

「どうして、疑問形?」

「いや、『好きだ』なんて言ったことあったかな、と思って」

「え?」

「なんつーか……」

 流石に、口ごもった。

 いくら十年前のこととはいえ、恋人と上司のセックス事情まで知りたがる女はいない。と、思う。



 いや、彩ならわかんねーな。



 いらないところで物分かりが良かったりする。

 

 けど、コレを軽く流されたら、流石に凹むな……。



「なに? ここまで話したんだから、やめないでよ」

 顔を上げた彩は、俺の期待を裏切らず、平気な顔。

 過去に嫉妬されても困るけれど、ここまでなんとも思われないのも寂しいもんだ。

「お互いに負けず嫌いだったからな。甘い言葉なんて、言った方が負け、みたいに思ってたな」

「なに、それ」と、彩がフフッと笑った。

「あいつの、そんな笑顔も見たことあったかどうか……」

「え?」

 思ったことが音になっていた。

「いや、なんでも――」

 そう言いかけて、俺はずりずりと布団の中に潜った。最近では、それが合図のようになっていて、彩は下ろしていた腕を真横に伸ばした。俺は彼女の腕に、正確には肩に頭を載せる。

 彩が俺の髪を指ですき、額にチュッと音を立てて口づける。

 幸せだと感じる瞬間とき

 彩にしてみれば、子供たちにするのと同じ感覚なんだろうが、俺には至福の瞬間とき

 もちろん、益井にこんな風に抱き締められたことも、そうされたいと思ったこともなかった。



 最近の俺、彩に手懐けられ過ぎじゃね?




「彩」

「ん?」

「益井に何かされたら、言えよ」

「……」

 想像していた通り、彩は黙った。

 昨夜のスマホの件は偶然、彩の口から洩れたに過ぎない。俺が札幌ここに来なければ、彩はきっと何も言わなかった。

 と言うか、まだ、俺に言っていないこともあるだろう。

「彩」

「関係ないんでしょ?」

「は?」

「言ったじゃない。『俺と彩のことは、お前と彩の仕事には関係ないことだ』って」

「それは――」

「大丈夫」
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