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11 彼女の本音
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「彩はああいうの、興味ないのか?」
うどん屋から帰って、テレビを見ている時に聞いた。クイズ番組の合間のコマーシャルを指さす。
『特別な女性への、特別な一品を』と低く柔らかい男の声に合わせて、文字が浮かぶ。同じシリーズの指輪とネックレス、ブレスレット、イヤリングとピアスが紹介される。
「ないね」
スパッと即答。
「けど、女って好きじゃないのか? アクセサリー。恋人に買ってもらいたいもんじゃないのか?」
「……」
「……?」
彩がじっと俺を見つめ、俺もじっと彩を見つめた。が、彩の視線は色っぽいものではなくて、むしろちょっと不機嫌そう。
「欲しい、って言われてプレゼントしたの?」
「え?」
「……」
「……? ――っ!」
彩の言葉の意味がわかり、思わず目を逸らしてしまった。
冨田が話したのか。
コマーシャルが終わり、司会のお笑い芸人がクイズの答えを発表する。彩がテレビに視線を動かす。
確かに、冨田から聞いてくれと言った。が、そこまで話しているとは思わなかった。と言うか、益井にアクセサリーを贈ったことがあると、冨田に話した記憶がない。
横目で見ると、彩は真っ直ぐテレビを見ているが、少しも楽しそうではない。
俺が気安くアクセサリーをプレゼントする男だと思われてる……?
「誕生日にこれが欲しいってネットで見せられて、言われた通りにネットで注文した」
「え?」
彩の視線がテレビから俺へとスライドする。
「消費税と送料込みで十万ちょっとだったかな。ボーナス一回払い。ボーナスの前に振られたけどな」
「……」
ワッとテレビで歓声が上がったが、彩は俺を見たまま。
あの頃の話をすると、どうしても自虐的でぶっきら棒な口調になってしまう。
益井への怒りや恨みより、浮気を見抜けなかった自分の不甲斐なさが先に立つから。
今も、そうだ。
彩に哀れまれるのは、情けない。
「つーか、ネックレスをリクエストされた時には、別れたことになってたんだよな」
俺はソファの背もたれに身体を預けた。両足をテーブルの下に投げ出して、天井のダウンライトを見つめる。
「それなのに、ずっと着けてたんだぜ?」
「え?」
「ネックレス。プレゼントした日から毎日着けてて、俺とはとっくに別れてたってみんなの前で言った時も、その後もずっと着けてた。今思うと、相当図太い神経してるよな」
情けなさが募ると、本当に笑ってしまうものだった。俺はククッと笑い、天井を見つめたまま、続けた。
「最後に二人で会った時も、着けてたな」
「え?」
「お互いの私物を返すために会った時」
この話は、冨田も知らない。冨田と飲んだ翌日の話だ。
冨田が不倫相手と電話で話しているのを聞いて、俺は後をつけた。姑息だとはわかっていたけれど、冨田が不倫なんかするとは思えなかったし、自分の境遇と重ねたからかもしれない。
冨田が不倫相手とホテルにでも入ろうものなら、証拠写真を撮って会社にばら撒いてやろうかと思っていた。
ところが、冨田はプレゼントらしいアクセサリーの数々を至近距離で相手の顔面に叩きつけ、大声で言った。
『あんたみたいな男に騙されたこと、一生の恥だわ!!』
うどん屋から帰って、テレビを見ている時に聞いた。クイズ番組の合間のコマーシャルを指さす。
『特別な女性への、特別な一品を』と低く柔らかい男の声に合わせて、文字が浮かぶ。同じシリーズの指輪とネックレス、ブレスレット、イヤリングとピアスが紹介される。
「ないね」
スパッと即答。
「けど、女って好きじゃないのか? アクセサリー。恋人に買ってもらいたいもんじゃないのか?」
「……」
「……?」
彩がじっと俺を見つめ、俺もじっと彩を見つめた。が、彩の視線は色っぽいものではなくて、むしろちょっと不機嫌そう。
「欲しい、って言われてプレゼントしたの?」
「え?」
「……」
「……? ――っ!」
彩の言葉の意味がわかり、思わず目を逸らしてしまった。
冨田が話したのか。
コマーシャルが終わり、司会のお笑い芸人がクイズの答えを発表する。彩がテレビに視線を動かす。
確かに、冨田から聞いてくれと言った。が、そこまで話しているとは思わなかった。と言うか、益井にアクセサリーを贈ったことがあると、冨田に話した記憶がない。
横目で見ると、彩は真っ直ぐテレビを見ているが、少しも楽しそうではない。
俺が気安くアクセサリーをプレゼントする男だと思われてる……?
「誕生日にこれが欲しいってネットで見せられて、言われた通りにネットで注文した」
「え?」
彩の視線がテレビから俺へとスライドする。
「消費税と送料込みで十万ちょっとだったかな。ボーナス一回払い。ボーナスの前に振られたけどな」
「……」
ワッとテレビで歓声が上がったが、彩は俺を見たまま。
あの頃の話をすると、どうしても自虐的でぶっきら棒な口調になってしまう。
益井への怒りや恨みより、浮気を見抜けなかった自分の不甲斐なさが先に立つから。
今も、そうだ。
彩に哀れまれるのは、情けない。
「つーか、ネックレスをリクエストされた時には、別れたことになってたんだよな」
俺はソファの背もたれに身体を預けた。両足をテーブルの下に投げ出して、天井のダウンライトを見つめる。
「それなのに、ずっと着けてたんだぜ?」
「え?」
「ネックレス。プレゼントした日から毎日着けてて、俺とはとっくに別れてたってみんなの前で言った時も、その後もずっと着けてた。今思うと、相当図太い神経してるよな」
情けなさが募ると、本当に笑ってしまうものだった。俺はククッと笑い、天井を見つめたまま、続けた。
「最後に二人で会った時も、着けてたな」
「え?」
「お互いの私物を返すために会った時」
この話は、冨田も知らない。冨田と飲んだ翌日の話だ。
冨田が不倫相手と電話で話しているのを聞いて、俺は後をつけた。姑息だとはわかっていたけれど、冨田が不倫なんかするとは思えなかったし、自分の境遇と重ねたからかもしれない。
冨田が不倫相手とホテルにでも入ろうものなら、証拠写真を撮って会社にばら撒いてやろうかと思っていた。
ところが、冨田はプレゼントらしいアクセサリーの数々を至近距離で相手の顔面に叩きつけ、大声で言った。
『あんたみたいな男に騙されたこと、一生の恥だわ!!』
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