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12 家族とは
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しおりを挟む翌日はマンションの掃除なんかをして、一人で過ごした。彩は妹家族が帰省してくると言っていた。
さらに翌日は、姉さんの家に呼ばれていた。義兄さんも休みだから、一緒に飯を食うことになっていた。
俺はケーキを七つ、買って行った。そのうち四つは子供の日限定の、鯉のぼりを思わせるロールケーキ。これなら勇気も食べられるだろう。
「随分、多くね?」
リビングのテーブルにもう一つテーブルを並べ、その上には唐揚げやポテト、刺身、豚の角煮、エビチリ、サラダ、納豆巻きにサンドイッチが載っている。更に、姉さんはまだ何か作っているよう。
「余ったら持って帰りなさい」
「いや。俺、明日は予定あるし、明後日には帰るぞ?」
「そう……なんだ」
姉さんが、少し気まずそうに笑った。
「夏子。やっぱり、ちゃんと話した方がいいと思うぞ」と、義兄の淮一さんが言った。
「淮一!」
「騙すようなことをして、これ以上関係が悪化したら元も子もないだろ」
騙す……?
ハッとした。
テーブルに並べられた箸と皿は五組。真心と勇気のは、別だ。残りの二組が誰のものか、すぐに察しはついた。
「父さんと母さんか」
「ごめん! どうしても智くんに会いたいって言われて――」
「今更、なに言ってんだよ! 姉さんたちがインフルエンザって知っていて俺のところに来るような人間だぞ? なんで、許せるんだよ!」
俺は思わず声を荒げた。
真心と勇気が子供部屋にいてくれて、良かった。
「けど、わざわざ行ったのに追い返されたって――」
「姉さん!」
「智也、少し冷静になった方がいいぞ。このまま避け続けても、きっとお義母さんは諦めないと思う。仕事を引退するつもりらしいから」
義兄さんは姉さんより三歳年上で、いつも冷静で穏やかな人。課長に昇進するまでは、よく仕事の相談にも乗ってもらった。
「引退?」
「そう言っていた。共同経営者に任せるつもりだと」
「姉さん。前に、母さんが俺に見合いさせて、会社を継がせたがっているって言ったよな?」
「見合い相手は共同経営者の娘だ。会社を手伝っていて、智也と結婚して会社を継ぐことに前向きだそうだ」
姉さんの代わりに、義兄さんが答えた。
「いつの時代だよ」
「それは、俺も同感だよ。だが、共同経営者の娘ってのが結婚願望があるがワーカーホリックで男っ気がなく、親も心配しているから、見合いはちょうどいいと考えたらしい」
「ふざけんなよ。その話に、俺の意思は微塵も入ってないだろ。それに、姉さんは俺と彩が――」
「もちろん! 私は智也と彩を応援してる! だからこそ、ちゃんとお母さんと話すべきだと思ったの」
ピーンポーン
インターホンが鳴り、姉さんがモニタを見た。それから、縋るような目で俺を見る。
「智也。直接話を聞いて、直接断った方がいい」と言うと、義兄さんが玄関に向かった。
くそっ――――!!
姉さんと義兄さんを責めるのは筋違いだ。二人も母さんの頼みを二つ返事で引き受けたわけじゃないだろう。
それにしたって……。
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