続・最後の男

深冬 芽以

文字の大きさ
102 / 231
12 家族とは

しおりを挟む
 彩の言った通りだった。

 最初はイヤイヤと首を振っていた勇気は、亮が美味そうに食べるのを見て興味が湧いたらしく、自ら手を伸ばした。それは納豆巻きだけでなく、寿司やステーキも。

「ああっ! ダメダメ! 勇気、それは――」

 姉さんは勇気から目が離せず、ほとんど食べれていない。

「夏子。勇気くんは私が見るから、食べて?」

 見かねた彩が、勇気の隣に、いや、背後に座った。

「気になるよねぇ、色んな色で、みんな美味しそうに食べてるから」

 そう言うと、彩はマグロを手に取った。

「食べてみようか」

「え? 彩、生ものは――」

 姉さんの言葉は無視して、彩はマグロを勇気の口に運ぶ。勇気は何の警戒もなく大きく口を開きマグロを銜えた。が、すぐにまた口を開き、舌を出して眉間に皺を寄せた。

「勇気くん、美味しい?」

 勇気はブンブンと首を振る。彩がお茶のコップを口に運ぶと、両手で持って飲んだ。

 余程、口に合わなかったらしい。

「じゃあ、これは美味しいかな?」

 今度は玉子。鮮やかな色に興味を持ったのか、警戒しながらも勇気は口を開いた。パクッと口に入れ、そのまま噛んだ。

「美味しいねぇ?」

 頷く代わりに、勇気は彩の手ごと残りの玉子を口に入れた。

「はぁぁぁ……。同じ二児の母なのに、どうしてこうも違うんだろ」と、肩を落としながらも、姉さんは次々に寿司を頬張る。

他人ひとの子だと余裕が持てたりするんだよ。私だって真と亮が小さい時は、必死だったもん」

 彩が言った通り、散々泣いて、遊んで、腹いっぱいになった勇気は、あっさりと寝た。姉さんも。

 真心は真と亮に学校の話を聞かせていた。入学式から始まって、ようやく一週間前の一年生歓迎会という行事にたどり着いた。

 小学生になった真心は、正月に会った時よりも口調が大人びていて、驚いた。

「女の子は母親の真似をするから、口達者になるって言うよね」と、彩が微笑む。

「あと二、三年もしたら、智也も口で敵わなくなるんじゃない? 真心ちゃん、しっかりしそう」

「姉さんが抜けてるとこ、あるからな。真心がしっかりして、ちょうどいいだろうな」

 そんな風に他愛のない会話をして過ごし、ゆうに三時間は昼寝してスッキリした姉さんと勇気が起きてくると、俺は真に声をかけて台所に立った。

 まず、人参を切るように言う。

 彩はダイニングから真の手つきを心配そうに見ていた。

父子おやこみたいね」と、姉さんが呟いたが、俺は反応しなかった。

 俺は父親と台所に立ったことなどない。母親とも。ばあちゃんの手伝いで食器を拭いたりしたくらい。料理をするようになったのは、ばあちゃんが死んで、姉さんが大学に入学した頃から。それまでも掃除や洗濯は分担していたけれど、食事の支度だけは姉さんがしてくれていた。

 定番だが、一人で最初に作ったのがカレー。学校の授業でやったことがあったし、カレー粉を使えば失敗しないから。

「これ、勇気くん食べれるの?」

 真がカレー粉の箱を見て、言った。

「あ、勇気には辛いか?」

「生クリームを足せば大丈夫でしょ」と、彩。

「生クリーム!?」と、俺と真がハモる。

 真がちょっと嫌そうな顔をした。

「隠し味に牛乳を入れるのと一緒」

「なるほど」と、またハモる。

 ジロリと真に睨まれ、俺は肘で突いた。

「そんな嫌そうな顔すんな」

「別に」

 思春期男子は手ごわい。

 そんなこんなでカレーが出来上がり、真も亮もお代わりしてくれた。真心も喜んでくれた。彩が少し複雑そうな表情をしていたが、それはきっと味とは関係なさそうだ。

 真の、俺の株が少しは上がったろうか。

 食後、先に姉さんたちを送った。

 真心は帰りたがらなかったが、真に「また遊ぼうね」と言われると、大きく頷いて笑った。真心の恋心は枯れていないらしい。

「真くんと亮くんとうまくやれてるようで、安心した」

 帰りの車で、姉さんが言った。

 行きはチャイルドシートに泣き喚いた勇気は、彩に抱かれて乗せてもらって、ご機嫌だ。

「そう見えたなら、良かったよ」

「まだ、札幌こっちに戻れないの?」

「……ああ」

 姉さんの言いたいことはわかっている。

「彩とのこと――」

「わかってる」



 わかっている――。



しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

【ルーズに愛して】指輪を外したら、さようなら

深冬 芽以
恋愛
 インテリアデザイナーの相川千尋《あいかわちひろ》は、よく似た名前の同僚で妻と別居中の有川比呂《ありかわひろ》と不倫関係にある。  ルールは一つ。  二人の関係は、比呂の離婚が成立するまで。  その意味を深く考えずに関係を始めた比呂だったが、今となっては本気で千尋を愛し始めていた。  だが、比呂の気持ちを知っても、頑なにルールを曲げようとしない千尋。  千尋と別れたくない比呂は、もう一つのルールを提案する。  比呂が離婚しない限り、絶対に別れない__。 【ルーズに愛して】シリーズ ~登場人物~  相川千尋《あいかわちひろ》……O大学ルーズサークルOG                 トラスト不動産ホームデザイン部インテリアデザイン課主任                   有川比呂《ありかわひろ》……トラスト不動産ホームデザイン部設計課主任                千尋の同僚                結婚四年、別居一年半の妻がいる  谷龍也《たにたつや》……O大学ルーズサークルOB              |Free Style Production《フリー スタイル プロダクション》営業二課主任  桑畠《くわはた》あきら……O大学ルーズサークルOG               市役所勤務、児童カウンセラー  小笠原陸《おがさわらりく》……O大学ルーズサークルOB                 |Empire HOTEL《エンパイアホテル》支配人    小笠原春奈《おがさわらはるな》……陸の妻                   |Empire HOTEL《エンパイアホテル》のパティシエ  新田大和《にったやまと》……O大学ルーズサークルOB                新田設計事務所副社長                五年前にさなえと結婚  新田《にった》さなえ……O大学ルーズサークルOG  新田大斗《にっただいと》……大和とさなえの息子  亀谷麻衣《かめやまい》……O大学ルーズサークルOG               楠行政書士事務所勤務               婚活中  鶴本駿介《つるもとしゅんすけ》……楠行政書士事務所勤務

年下研修医の極甘蜜愛

虹色すかい
恋愛
医局秘書として市内の病院に勤務する廣崎彩27歳。普段はスマートに仕事をこなすクールな彼女だが、定期的にやって来る「眠れない夜」に苦しんでいる。 そんな彩に、5年越しの思いを寄せる3歳年下の藤崎仁寿。人当たりがよくて優しくて。仔犬のように人懐っこい笑顔がかわいい彼は、柔和な見た目とは裏腹に超ポジティブで鋼のような心を持つ臨床研修医だ。 病気や過去の経験から恋愛に積極的になれないワケありOLとユーモラスで心優しい研修医の、あたたかくてちょっと笑えるラブストーリー。 仁寿の包み込むような優しさが、傷ついた彩の心を癒していく――。 シリアスがシリアスにならないのは、多分、朗らかで元気な藤崎先生のおかげ♡ ***************************** ※他サイトでも同タイトルで公開しています。

Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~

汐埼ゆたか
恋愛
絶え間なく溢れ出る涙は彼の唇に吸い取られ 慟哭だけが薄暗い部屋に沈んでいく。    その夜、彼女の絶望と悲しみをすくい取ったのは 仕事上でしか接点のない上司だった。 思っていることを口にするのが苦手 地味で大人しい司書 木ノ下 千紗子 (きのした ちさこ) (24)      × 真面目で優しい千紗子の上司 知的で容姿端麗な課長 雨宮 一彰 (あまみや かずあき) (29) 胸を締め付ける切ない想いを 抱えているのはいったいどちらなのか——— 「叫んでも暴れてもいい、全部受け止めるから」 「君が笑っていられるなら、自分の気持ちなんてどうでもいい」 「その可愛い笑顔が戻るなら、俺は何でも出来そうだよ」 真摯でひたむきな愛が、傷付いた心を癒していく。 ********** ►Attention ※他サイトからの転載(2018/11に書き上げたものです) ※表紙は「かんたん表紙メーカー2」様で作りました。 ※※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

Home, Sweet Home

茜色
恋愛
OL生活7年目の庄野鞠子(しょうのまりこ)は、5つ年上の上司、藤堂達矢(とうどうたつや)に密かにあこがれている。あるアクシデントのせいで自宅マンションに戻れなくなった藤堂のために、鞠子は自分が暮らす一軒家に藤堂を泊まらせ、そのまま期間限定で同居することを提案する。 亡き祖母から受け継いだ古い家での共同生活は、かつて封印したはずの恋心を密かに蘇らせることになり・・・。 ☆ 全19話です。オフィスラブと謳っていますが、オフィスのシーンは少なめです 。「ムーンライトノベルズ」様に投稿済のものを一部改稿しております。

やさしいキスの見つけ方

神室さち
恋愛
 諸々の事情から、天涯孤独の高校一年生、完璧な優等生である渡辺夏清(わたなべかすみ)は日々の糧を得るために年齢を偽って某所風俗店でバイトをしながら暮らしていた。  そこへ、現れたのは、天敵に近い存在の数学教師にしてクラス担任、井名里礼良(いなりあきら)。  辞めろ辞めないの押し問答の末に、井名里が持ち出した賭けとは?果たして夏清は平穏な日常を取り戻すことができるのか!?  何て言ってても、どこかにある幸せの結末を求めて突っ走ります。  こちらは2001年初出の自サイトに掲載していた小説です。完結済み。サイト閉鎖に伴い移行。若干の加筆修正は入りますがほぼそのままにしようと思っています。20年近く前に書いた作品なのでいろいろ文明の利器が古かったり常識が若干、今と異なったりしています。 20年くらい前の女子高生はこんな感じだったのかー くらいの視点で見ていただければ幸いです。今はこんなの通用しない! と思われる点も多々あるとは思いますが、大筋の変更はしない予定です。 フィクションなので。 多少不愉快な表現等ありますが、ネタバレになる事前の注意は行いません。この表現ついていけない…と思ったらそっとタグを閉じていただけると幸いです。 当時、だいぶ未来の話として書いていた部分がすでに現代なんで…そのあたりはもしかしたら現代に即した感じになるかもしれない。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

ヘンタイ好きシリーズ・女子高校生ミコ

hosimure
恋愛
わたしには友達にも親にも言えない秘密があります…。 それは彼氏のこと。 3年前から付き合っている彼氏は実は、ヘンタイなんです!

思いがけず聖女になってしまったので、吸血鬼の義兄には黙っていようと思います

薄影メガネ
恋愛
幼い頃、両親を事故で亡くし、孤児院で暮らしていたエリカはある日、 唯一の肉親である兄、リアードをセオドア・フォンベッシュバルト公に奪われた。 子供がなく、後継ぎを探していたシンフォルースの五大公爵家当主、セオドア・フォンベッシュバルト公。 彼の理想とする基準を満たしていたエリカの兄で神童のリアードを、彼は養子ではなく、養弟として迎え入れることにした。なぜなら彼は人外の吸血鬼だったからだ。 五百歳を越えると言われているフォンベッシュバルト公の見た目は、シンフォルースでの成人を迎えた十八歳の青年のよう。そのため、六歳のリアードを子供とするには不自然だからと、養弟として迎え入れられることになったのだ。 目の前で連れていかれようとしている兄を追って、当時、四歳の子供だったエリカが追いすがった先に待っていたのは──この上なく残酷な、拒絶の言葉だけだった。 「必要なのは彼だけです。貴女ではない。貴女は当家の基準を満たしてはいないのですよ」 神童の兄、リアードと違い、エリカはただの子供だった。 ──私にはリアードの家族でいる資格はない。   そうして涙の中で、孤児院に一人とり残されてから十四年…… 正式に引き取られはしなかったものの。フォンベッシュバルト公の義弟となった兄、リアードの実妹であるエリカは、形式上、フォンベッシュバルト公のある種、義妹という扱いになるのだが── けして認められることも、迎え入れられることもない。エリカが選んだ道は、吸血鬼とは元来敵対関係にあるはずの聖職者だった。 しかし、聖職者の道を歩むため、孤児院を卒業するその日に、エリカは孤児院の門前で傷付き倒れているフォンベッシュバルト公と再開してしまい…… *ちょいちょいシリアス入りますが、緩めのギャグコメ風? ラブコメです。相棒でペットのアヒルちゃん愛にあふれた内容となります。

処理中です...