続・最後の男

深冬 芽以

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12 家族とは

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 彩の言った通りだった。

 最初はイヤイヤと首を振っていた勇気は、亮が美味そうに食べるのを見て興味が湧いたらしく、自ら手を伸ばした。それは納豆巻きだけでなく、寿司やステーキも。

「ああっ! ダメダメ! 勇気、それは――」

 姉さんは勇気から目が離せず、ほとんど食べれていない。

「夏子。勇気くんは私が見るから、食べて?」

 見かねた彩が、勇気の隣に、いや、背後に座った。

「気になるよねぇ、色んな色で、みんな美味しそうに食べてるから」

 そう言うと、彩はマグロを手に取った。

「食べてみようか」

「え? 彩、生ものは――」

 姉さんの言葉は無視して、彩はマグロを勇気の口に運ぶ。勇気は何の警戒もなく大きく口を開きマグロを銜えた。が、すぐにまた口を開き、舌を出して眉間に皺を寄せた。

「勇気くん、美味しい?」

 勇気はブンブンと首を振る。彩がお茶のコップを口に運ぶと、両手で持って飲んだ。

 余程、口に合わなかったらしい。

「じゃあ、これは美味しいかな?」

 今度は玉子。鮮やかな色に興味を持ったのか、警戒しながらも勇気は口を開いた。パクッと口に入れ、そのまま噛んだ。

「美味しいねぇ?」

 頷く代わりに、勇気は彩の手ごと残りの玉子を口に入れた。

「はぁぁぁ……。同じ二児の母なのに、どうしてこうも違うんだろ」と、肩を落としながらも、姉さんは次々に寿司を頬張る。

他人ひとの子だと余裕が持てたりするんだよ。私だって真と亮が小さい時は、必死だったもん」

 彩が言った通り、散々泣いて、遊んで、腹いっぱいになった勇気は、あっさりと寝た。姉さんも。

 真心は真と亮に学校の話を聞かせていた。入学式から始まって、ようやく一週間前の一年生歓迎会という行事にたどり着いた。

 小学生になった真心は、正月に会った時よりも口調が大人びていて、驚いた。

「女の子は母親の真似をするから、口達者になるって言うよね」と、彩が微笑む。

「あと二、三年もしたら、智也も口で敵わなくなるんじゃない? 真心ちゃん、しっかりしそう」

「姉さんが抜けてるとこ、あるからな。真心がしっかりして、ちょうどいいだろうな」

 そんな風に他愛のない会話をして過ごし、ゆうに三時間は昼寝してスッキリした姉さんと勇気が起きてくると、俺は真に声をかけて台所に立った。

 まず、人参を切るように言う。

 彩はダイニングから真の手つきを心配そうに見ていた。

父子おやこみたいね」と、姉さんが呟いたが、俺は反応しなかった。

 俺は父親と台所に立ったことなどない。母親とも。ばあちゃんの手伝いで食器を拭いたりしたくらい。料理をするようになったのは、ばあちゃんが死んで、姉さんが大学に入学した頃から。それまでも掃除や洗濯は分担していたけれど、食事の支度だけは姉さんがしてくれていた。

 定番だが、一人で最初に作ったのがカレー。学校の授業でやったことがあったし、カレー粉を使えば失敗しないから。

「これ、勇気くん食べれるの?」

 真がカレー粉の箱を見て、言った。

「あ、勇気には辛いか?」

「生クリームを足せば大丈夫でしょ」と、彩。

「生クリーム!?」と、俺と真がハモる。

 真がちょっと嫌そうな顔をした。

「隠し味に牛乳を入れるのと一緒」

「なるほど」と、またハモる。

 ジロリと真に睨まれ、俺は肘で突いた。

「そんな嫌そうな顔すんな」

「別に」

 思春期男子は手ごわい。

 そんなこんなでカレーが出来上がり、真も亮もお代わりしてくれた。真心も喜んでくれた。彩が少し複雑そうな表情をしていたが、それはきっと味とは関係なさそうだ。

 真の、俺の株が少しは上がったろうか。

 食後、先に姉さんたちを送った。

 真心は帰りたがらなかったが、真に「また遊ぼうね」と言われると、大きく頷いて笑った。真心の恋心は枯れていないらしい。

「真くんと亮くんとうまくやれてるようで、安心した」

 帰りの車で、姉さんが言った。

 行きはチャイルドシートに泣き喚いた勇気は、彩に抱かれて乗せてもらって、ご機嫌だ。

「そう見えたなら、良かったよ」

「まだ、札幌こっちに戻れないの?」

「……ああ」

 姉さんの言いたいことはわかっている。

「彩とのこと――」

「わかってる」



 わかっている――。



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