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12 家族とは
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しおりを挟む「智くん! 甘いコーヒー淹れて」
「あ、私が――」
「いいから、姉さんの相手してやって」
俺は彩を制止して、バリスタの電源を入れた。カップを三つ、出す。それから、冷蔵庫から生クリームを出した。泡立てる前の、パックに入ったもの。
姉さんが来るとわかって、彩がカゴに入れたものだ。俺は姉さんが濃いコーヒーに生クリームを入れるのが好きだなんて知らなかった。
「勇気の夜泣きが続いてて、全然眠れなくてー」
「夜泣きって、二歳でもするのか?」
彩と初めて食事に行った日に生まれた勇気は、早くも二歳半。
「するの! 最初は夢でも見たのかと思ってあやしてたんだけど、全然泣き止まなくて! 夜中の一時から四時くらいまで! 泣き疲れて寝てくれた頃には明るくなってて! 遊び足りないから目が覚めるのかと思って、昼間めっちゃ遊んであげてもダメで! 無理やり昼寝させずにいてもダメで!!」
相当ツラいらしい。
姉さんはダイニングテーブルに突っ伏して喚いた。
「しかも! 食べ物の好き嫌いも出て来ちゃって! 全然食べてくれないし!」
俺は余計なことは言うまいと、黙ってバリスタのスイッチを入れた。
彩は、うんうん、と頷きながら聞いていた。
「ベビーカーもチャイルドシートも嫌がって大泣きだから、買い物の時も歩かせるけど、すぐにどっかに行っちゃうし! 真心の時はこんなことなかったのにぃ!!」
確かに、真心が小さい時は、こんな話は聞かなかった。
「あるよね、そういう時期」と、彩が相槌を打つ。
「いっぺんにきちゃって、ツラいよね」
「うーーー……」
「夜泣きした時、どうしてる?」
「抱っこして歌を歌ったり……」
「テレビ見せたこと、ある?」
「え?」と、姉さんが顔を上げた。
確かに、疲れて顔色も悪い。
「好きな番組を見せるとか」
「夜中にテレビなんて見せたら、眠れなくなるんじゃない?」
「そうでもないよ? テレビに気を取られて泣き止んだら、こてっと寝ちゃったりするかも」
「そうなの?」
「真はそうだった。亮は、食パン食べさせた」
「パン?」
「そ。亮は食べるの大好きだから、泣いてる口に食パン突っ込んだら、泣き止んだ」
突っ込んだら、って……。
彩は時々、過激な発言をする。
「食パン半分くらい食べたら、満足して寝たなぁ。虫歯が心配だったけど、一時のことだったし」
生クリーム入りのコーヒーを渡すと、姉さんは一口飲んで、ホッと肩の力を抜いた。
「勇気くんが真や亮と同じかはわからないけど、試してみて?」
「うん」
さっき、彩が勇気を抱いた姿を想像した。何年か前、彩はああして真や亮を抱いてあやしていたのだろう。ふっと、その彩の隣にいる自分を想像した。
絵に描いたような、幸福な『家族』の姿。
「はぁ……、美味しい」
姉さんが呟く。
俺は彩にもコーヒーを渡した。自分のコーヒーも注ぐ。
「昼飯食ったら、少し寝ろよ」
「そうだよ。勇気くんも昼寝するだろうし、一緒に寝たらいいよ」
「あ! 勇気のご飯!」
姉さんがハッとして、言った。
「一応、ご飯は炊いてるけど、納豆巻きなら食べられるんじゃない?」
亮が好きだからと、納豆巻きは二パック買った。
「最近、食べてくれないんだよね、納豆」
「みんなと一緒なら、食べるかもよ?」
「――だといいけど」
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