続・最後の男

深冬 芽以

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12 家族とは

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 玄関の騒がしさが移動してきて、リビングに到着した。

「智くん」

 母さんの第一声に、苛立ちが倍増した。

 母さんが俺を『智くん』と呼ぶようになったのは、姉さんの影響だ。正確には、真似。

 小学生になった頃、俺は滅多に会わない両親との距離感が掴めず、懐かなかった。で、母さんが俺の機嫌を取るために、姉さんの真似をして呼ぶようになった。それも、両親の友人たちとの食事の席で、初めて呼ばれた。離れていても仲の良い『家族』をアピールしたかったのだろう。

 大人になって、あの時の母さんの計算高さを理解して、さらに嫌悪した。

「智也」

 母さんの後に続いて顔を見せた父さんは、俺が知っている父さんとは別人のようだった。

 恰幅の良さはなくなり、顔色も悪く、表情も弱々しい。まだ、六十代半ばなのに、十歳は老けて見える。

「元気そうだな」

「……入院してたって?」

「ああ。不摂生がたたってな」

 姉さんから、父さんが糖尿病だとは聞いていた。食事の管理と薬で日常生活には支障がない、とも。ただ、父さんは長年、旅行の企画の為に海外を渡り歩いては現地の食事のリサーチなんかもしていた。決められた時間内にレストランを何か所も訪れ、食事をすることもあったらしい。そんな父さんが、決められた時間に、決められた食事を、決められた量しか食べられなくなった。病気そのものよりも、食事制限が相当堪えたらしく、精神的に参っていると聞いた。

 仕事の引退も仕方ないだろう。

「お前は? 仕事は順調か? 去年だったか? 部長に昇進したって聞いたぞ」

「……ああ」

 俺は、妙に落ち着かなくなった。父さんと最後にまともな会話をしたのがいつだったか、思い出せない。

「けど、本社からは異動になったんでしょう?」

 母さんはそう言うと、持っている紙袋を姉さんに手渡した。

「果物とお菓子が入っているから、真心と勇気に食べさせて」

「ありがとう」

「子供たちは?」

「あ、子供部屋に――」

「呼んでくるよ」と言って、義兄さんがリビングを出て行った。

 見計らったように、母さんが口を開く。

「智くんが来てくれて良かったわ」

「姉さんたちに迷惑をかけるな」

「智也、そんな――」

「勝手だな。親らしいことなんて何もしてこなかったくせに、仕事を辞めて暇になった途端に連絡してきて」

「……」

 部屋が静まり返る。階段の上の方で真心の声がしたが、すぐにドアの締まる音がした。義兄さんが察してくれたのだろう。

 目の前の、血の繋がりだけの両親なんかより、義兄さんの方がよっぽど俺を理解し、尊重してくれている。

 その義兄さんの家で、子供に聞かせられないような話の為に、姉さんをダシにして俺を呼び寄せた母さんに、心底うんざりする。

「で? 見合い? 会社を継げ? ふざけるな」

「智くん!」

 彩が聞いたら、『親に向かってなんてことを――』とか叱られそうだ。だが、今、彩はこの場にはいなくて、俺はやめる気はない。

「話なんか聞くまでもない。お断りだ!」

「智也の言うことは尤もだ。俺も母さんも悪いと思ってる。罪滅ぼしじゃないが――」

「そんなもの、いらない。今の仕事はやりがいもあるし、満足してる。付き合ってる女もいるし、ゆくゆくは――」

「認めませんよ!」と、母さんが家中に響きそうな甲高い声で言った。

「離婚歴のある子持ちの女なんて」
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