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13 軋む心
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「若くて、すっごい綺麗な女性だったら、どうする?」
「は?」
「お見合いの相手。若くて、綺麗で、仕事のデキる女性だったら、勿体ないなぁと思わない?」
私は、茶化すように言った。
「どんな女性が、両親の眼鏡に適ったのか、興味ない?」
「ない! そもそも、親の基準は会社を継ぐに相応しいかであって、俺の嫁としてどうかじゃない」
「そう? いくら賢くて仕事がデキても、それだけで息子の嫁にとは思わな――」
「彩!!」
バンッと智也がテーブルを叩く音が、私の心臓を飛び上がらせた。
「お前は俺に見合いさせたいのかよ!」
智也の怒りの声を背中に感じて、振り向けない。
「違う……よ」
声の震えを悟られないように、ゆっくりと静かに、深呼吸をした。
「親なら、子供の相手には出来るだけ条件のいい人をって思うんだよ。若い方がいい、可愛い方がいい、賢い方がいい、器量良しがいいって。だから、例えば、智也のご両親が、バツイチで子持ちの年上女より、若くて可愛くて賢い女性を息子の嫁にって思うのは、当たり前だって……こと。だから、ご両親を恨むようなことは――」
「そもそも! 仕事の為に子供を蔑ろにしてきた奴らが、今更俺の人生に関わろうってのが調子良過ぎだろっ!」
時間は戻せない。
だから、悔しい。
智也が親の愛情を求めていた時、抱き締めてあげたかった。
寝込んで寂しい時、テストで百点を取った時、運動会で一等賞を取った時、嵐の寒い夜、誰もいない家に一人で帰る夜、何でもなくてもふと寂しくなる時。
小さな、生意気な男の子を、抱き締めてあげたかった。
「もう、うんざりだ。あんな親なんて……いらない。俺には、必要ない」
見なくても、わかる。
智也が肩を落とし、俯いて、涙を堪えている。
怒って憎んでいるうちは、まだいい。
感情をぶつけてくれているうちは、それに応えることが出来る。けれど、どうでもいいと、感情をぶつけても無駄だと諦めてしまったら、気持ちは伝わらないし、応える術もない。
そして、喪失感と孤独感だけが残る。
私はカップをバリスタの中に残して、俯く智也の横に立つと、彼の肩を抱いた。
本当は、子供の頃の彼を、こうして抱き締めてあげたい。
「彩はあったかいな」
そう呟くと、智也は子供のように私の胸に頭を預けて、目を閉じた。
「は?」
「お見合いの相手。若くて、綺麗で、仕事のデキる女性だったら、勿体ないなぁと思わない?」
私は、茶化すように言った。
「どんな女性が、両親の眼鏡に適ったのか、興味ない?」
「ない! そもそも、親の基準は会社を継ぐに相応しいかであって、俺の嫁としてどうかじゃない」
「そう? いくら賢くて仕事がデキても、それだけで息子の嫁にとは思わな――」
「彩!!」
バンッと智也がテーブルを叩く音が、私の心臓を飛び上がらせた。
「お前は俺に見合いさせたいのかよ!」
智也の怒りの声を背中に感じて、振り向けない。
「違う……よ」
声の震えを悟られないように、ゆっくりと静かに、深呼吸をした。
「親なら、子供の相手には出来るだけ条件のいい人をって思うんだよ。若い方がいい、可愛い方がいい、賢い方がいい、器量良しがいいって。だから、例えば、智也のご両親が、バツイチで子持ちの年上女より、若くて可愛くて賢い女性を息子の嫁にって思うのは、当たり前だって……こと。だから、ご両親を恨むようなことは――」
「そもそも! 仕事の為に子供を蔑ろにしてきた奴らが、今更俺の人生に関わろうってのが調子良過ぎだろっ!」
時間は戻せない。
だから、悔しい。
智也が親の愛情を求めていた時、抱き締めてあげたかった。
寝込んで寂しい時、テストで百点を取った時、運動会で一等賞を取った時、嵐の寒い夜、誰もいない家に一人で帰る夜、何でもなくてもふと寂しくなる時。
小さな、生意気な男の子を、抱き締めてあげたかった。
「もう、うんざりだ。あんな親なんて……いらない。俺には、必要ない」
見なくても、わかる。
智也が肩を落とし、俯いて、涙を堪えている。
怒って憎んでいるうちは、まだいい。
感情をぶつけてくれているうちは、それに応えることが出来る。けれど、どうでもいいと、感情をぶつけても無駄だと諦めてしまったら、気持ちは伝わらないし、応える術もない。
そして、喪失感と孤独感だけが残る。
私はカップをバリスタの中に残して、俯く智也の横に立つと、彼の肩を抱いた。
本当は、子供の頃の彼を、こうして抱き締めてあげたい。
「彩はあったかいな」
そう呟くと、智也は子供のように私の胸に頭を預けて、目を閉じた。
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