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13 軋む心
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しおりを挟む「なんてことをしてくれたのよ!!」
今度ばかりは、私も言葉を失った。
益井課長が赴任して二か月半。
彼女の金切り声にも慣れた。恐らく、営業部全体が。
だが、彼女が怒り狂っている理由が理由だけに、誰もが口を閉ざし、私たちを注視していた。
「指導しているあなたの責任よ!」
「申し訳ありません!」
私は、三度、頭を下げた。
隣で泣いている荻野さんの口から漏れるのは嗚咽ばかりで、謝罪の言葉など発する余裕はない。
「あなたが、始末をつけなさい! 堀藤さん」
こんな時に限って、凪子さんは東京支社に出張、千堂課長は外勤に出ていた。
「聞いているの!?」
「はい」
「偉そうに私に意見ばかりしているくせに、上司だからと面倒を私に押し付けたりはしないわよね!」
「……はい」
ここぞとばかりに、日頃のうっ憤をぶちまける益井課長を止められる人間はいなかった。
私を目の敵にすればするほど、益井課長は当てつけのように荻野さんを可愛がった。
よく一緒にランチに出ていたし、手間のかかる雑用は私に押し付けて、荻野さんには資料作成なんかをさせていた。
課が違うからと、千堂課長が何度か注意をしたけれど、年下の言うことを素直に聞き入れるような彼女ではない。部長である凪子さんにも注意をされたが、私が言いつけたんだろと睨まれただけで、あまり変わらなかった。
そのくせ、荻野さんが失敗すると、私を責めた。
「謝罪に上の人間が必要なら、直属の上司である千堂課長に頼むのね」
そう吐き捨てて、益井課長はいつもより足早に、床にヒールを叩きつけるような頭に響く靴音を鳴らして、出て行った。
荻野さんは終始泣くばかり。
泣きたいのはこっちよ……。
私はほんの少し肩の力を抜いて、荻野さんにトイレで気持ちを落ち着けて、ついでにメイクも直してくるように言った。
「大丈夫ですか? 堀藤さん」
二課の谷主任に聞かれ、私は無理矢理に笑顔を作った。きっと、ぎこちない。
営業部全体が、心配そうに私を見ていた。
「先方に、謝罪に伺います」
「千堂課長の指示を仰いだ方がいいですよ?」
私は腕時計を見た。ちょうど、千堂課長の約束の時間。
「対応が遅くなると、先方に失礼に当たるので、とにかく謝罪に行ってきます」
「けど、荻野さんの様子じゃ、謝罪もろくに出来ずに泣き出すんじゃないですか?」
「それは――」
その通りだ。
益井課長の前で、ヒックヒックと肩を震わせて泣いていた荻野さんが、泣かずに謝罪できるとは思えない。
「いくら先方の信頼が厚い堀藤さんでも、当事者である荻野さんなしで謝罪に行って、受け入れてもらえるとは思いません。それに、事情が事情なので、上の指示は必要だと思います」
「そう……ですね」
「千堂課長と連絡が取れるのを待ちましょう」
「はい……」
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