続・最後の男

深冬 芽以

文字の大きさ
110 / 231
13 軋む心

しおりを挟む
 私は小さく頷いた。

 今日は、ゴールデンウィーク最終日で、最高の行楽日和。三日前の大雨とは打って変わって、窓から差し込む日差しは夏の熱を匂わせる。

 私は立ち上がり、バルコニーの窓を少し開けた。フワッとレースのカーテンが舞う。

「真心ちゃんが生まれた時に、旦那さんが言ったそうよ。『夏子の両親だけが、真心のおじいちゃんとおばあちゃんだから、可愛がってもらいたい』って。自分と夏子に何かあった時、真心ちゃんを守ってくれるのは誰かって考えたりしたみたい。それで、夏子からご両親に連絡を取るようになったって」

「そんな、予測できない将来のことを――」

「両親を亡くして独りになる寂しさを知っているから、心配になったんでしょう? 夏子の旦那さん」

 智也は納得がいかないようで、口をへの字にして顎に皺を寄せている。

「けど、一昨日のことで、自分たちの都合に智也を巻き込むことはしないって決めたんだって」

「は?」

「真心ちゃんと勇気くんの存在が、智也とご両親の関係を修復するきっかけになればって思って、智也とご両親を会わせたみたい。旦那さんは、智也を騙すようなことは反対したみたいなんだけど、夏子はどうしても直接話をしてほしかったみたいで。けど、ご両親の――というか、お母さんの智也への言動や、智也の反応を見て、関係の修復は無理だって踏ん切りがついたって。もう、こんなことはしない、って言ってたよ」

「……」

 私は自分と智也のカップを持ってカウンターの向こうに回った。バリスタのスイッチを入れる。

「――何があったか、聞いたのか?」

「仕事のこととか、まだ結婚しないのか……みたいなことを言われたって?」

 実際、夏子からはそうとしか聞いていない。きっと、お見合いを進められたのだろう。智也がどんな反応をしたのかは、容易に想像できる。私のことがなくても、智也は取り合わなかったろう。

 私は智也のカップを置いて、スイッチを押した。ガリガリガリッと音を立てて、動き出す。抽出の準備が出来たバリスタが一瞬、呼吸を整えるために静かになった。

「見合いして、会社を継げって言われた」

 黒い液体がカップに注がれる。

 私は智也に背を向かったまま、黒い液体を見つめていた。

 どこからともなく、水分が眼球を潤し、瞼から溢れ出そうになった。

 智也に気づかれぬように呼吸を整え、カップを取る仕草に紛れて、目を拭った。

 自分のカップを置いて、スイッチを押す。

「それで、怒って帰って来ちゃったの?」

「……」

 私のことを、何か言われたのかもしれない。

 たとえそうだとしても、智也は言わないだろう。

 智也の様子からすると、智也のお母さんは私と会ったことを話していない。ならば、私も言うわけにはいかない。

 会ったのは三か月も前だし、私が言われたことを知れば、それこそ夏子が恐れていたように、智也が両親と縁を切ると言い出しかねない。私も、そんなことは望んでいない。

 ただ、私が何も言わなくても、智也の中にわずかに残っていた『家族』の絆のようなものは、失われつつあるとは思う。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

【ルーズに愛して】指輪を外したら、さようなら

深冬 芽以
恋愛
 インテリアデザイナーの相川千尋《あいかわちひろ》は、よく似た名前の同僚で妻と別居中の有川比呂《ありかわひろ》と不倫関係にある。  ルールは一つ。  二人の関係は、比呂の離婚が成立するまで。  その意味を深く考えずに関係を始めた比呂だったが、今となっては本気で千尋を愛し始めていた。  だが、比呂の気持ちを知っても、頑なにルールを曲げようとしない千尋。  千尋と別れたくない比呂は、もう一つのルールを提案する。  比呂が離婚しない限り、絶対に別れない__。 【ルーズに愛して】シリーズ ~登場人物~  相川千尋《あいかわちひろ》……O大学ルーズサークルOG                 トラスト不動産ホームデザイン部インテリアデザイン課主任                   有川比呂《ありかわひろ》……トラスト不動産ホームデザイン部設計課主任                千尋の同僚                結婚四年、別居一年半の妻がいる  谷龍也《たにたつや》……O大学ルーズサークルOB              |Free Style Production《フリー スタイル プロダクション》営業二課主任  桑畠《くわはた》あきら……O大学ルーズサークルOG               市役所勤務、児童カウンセラー  小笠原陸《おがさわらりく》……O大学ルーズサークルOB                 |Empire HOTEL《エンパイアホテル》支配人    小笠原春奈《おがさわらはるな》……陸の妻                   |Empire HOTEL《エンパイアホテル》のパティシエ  新田大和《にったやまと》……O大学ルーズサークルOB                新田設計事務所副社長                五年前にさなえと結婚  新田《にった》さなえ……O大学ルーズサークルOG  新田大斗《にっただいと》……大和とさなえの息子  亀谷麻衣《かめやまい》……O大学ルーズサークルOG               楠行政書士事務所勤務               婚活中  鶴本駿介《つるもとしゅんすけ》……楠行政書士事務所勤務

なし崩しの夜

春密まつり
恋愛
朝起きると栞は見知らぬベッドの上にいた。 さらに、隣には嫌いな男、悠介が眠っていた。 彼は昨晩、栞と抱き合ったと告げる。 信じられない、嘘だと責める栞に彼は不敵に微笑み、オフィスにも関わらず身体を求めてくる。 つい流されそうになるが、栞は覚悟を決めて彼を試すことにした。

Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~

汐埼ゆたか
恋愛
絶え間なく溢れ出る涙は彼の唇に吸い取られ 慟哭だけが薄暗い部屋に沈んでいく。    その夜、彼女の絶望と悲しみをすくい取ったのは 仕事上でしか接点のない上司だった。 思っていることを口にするのが苦手 地味で大人しい司書 木ノ下 千紗子 (きのした ちさこ) (24)      × 真面目で優しい千紗子の上司 知的で容姿端麗な課長 雨宮 一彰 (あまみや かずあき) (29) 胸を締め付ける切ない想いを 抱えているのはいったいどちらなのか——— 「叫んでも暴れてもいい、全部受け止めるから」 「君が笑っていられるなら、自分の気持ちなんてどうでもいい」 「その可愛い笑顔が戻るなら、俺は何でも出来そうだよ」 真摯でひたむきな愛が、傷付いた心を癒していく。 ********** ►Attention ※他サイトからの転載(2018/11に書き上げたものです) ※表紙は「かんたん表紙メーカー2」様で作りました。 ※※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

年下研修医の極甘蜜愛

虹色すかい
恋愛
医局秘書として市内の病院に勤務する廣崎彩27歳。普段はスマートに仕事をこなすクールな彼女だが、定期的にやって来る「眠れない夜」に苦しんでいる。 そんな彩に、5年越しの思いを寄せる3歳年下の藤崎仁寿。人当たりがよくて優しくて。仔犬のように人懐っこい笑顔がかわいい彼は、柔和な見た目とは裏腹に超ポジティブで鋼のような心を持つ臨床研修医だ。 病気や過去の経験から恋愛に積極的になれないワケありOLとユーモラスで心優しい研修医の、あたたかくてちょっと笑えるラブストーリー。 仁寿の包み込むような優しさが、傷ついた彩の心を癒していく――。 シリアスがシリアスにならないのは、多分、朗らかで元気な藤崎先生のおかげ♡ ***************************** ※他サイトでも同タイトルで公開しています。

やさしいキスの見つけ方

神室さち
恋愛
 諸々の事情から、天涯孤独の高校一年生、完璧な優等生である渡辺夏清(わたなべかすみ)は日々の糧を得るために年齢を偽って某所風俗店でバイトをしながら暮らしていた。  そこへ、現れたのは、天敵に近い存在の数学教師にしてクラス担任、井名里礼良(いなりあきら)。  辞めろ辞めないの押し問答の末に、井名里が持ち出した賭けとは?果たして夏清は平穏な日常を取り戻すことができるのか!?  何て言ってても、どこかにある幸せの結末を求めて突っ走ります。  こちらは2001年初出の自サイトに掲載していた小説です。完結済み。サイト閉鎖に伴い移行。若干の加筆修正は入りますがほぼそのままにしようと思っています。20年近く前に書いた作品なのでいろいろ文明の利器が古かったり常識が若干、今と異なったりしています。 20年くらい前の女子高生はこんな感じだったのかー くらいの視点で見ていただければ幸いです。今はこんなの通用しない! と思われる点も多々あるとは思いますが、大筋の変更はしない予定です。 フィクションなので。 多少不愉快な表現等ありますが、ネタバレになる事前の注意は行いません。この表現ついていけない…と思ったらそっとタグを閉じていただけると幸いです。 当時、だいぶ未来の話として書いていた部分がすでに現代なんで…そのあたりはもしかしたら現代に即した感じになるかもしれない。

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

思いがけず聖女になってしまったので、吸血鬼の義兄には黙っていようと思います

薄影メガネ
恋愛
幼い頃、両親を事故で亡くし、孤児院で暮らしていたエリカはある日、 唯一の肉親である兄、リアードをセオドア・フォンベッシュバルト公に奪われた。 子供がなく、後継ぎを探していたシンフォルースの五大公爵家当主、セオドア・フォンベッシュバルト公。 彼の理想とする基準を満たしていたエリカの兄で神童のリアードを、彼は養子ではなく、養弟として迎え入れることにした。なぜなら彼は人外の吸血鬼だったからだ。 五百歳を越えると言われているフォンベッシュバルト公の見た目は、シンフォルースでの成人を迎えた十八歳の青年のよう。そのため、六歳のリアードを子供とするには不自然だからと、養弟として迎え入れられることになったのだ。 目の前で連れていかれようとしている兄を追って、当時、四歳の子供だったエリカが追いすがった先に待っていたのは──この上なく残酷な、拒絶の言葉だけだった。 「必要なのは彼だけです。貴女ではない。貴女は当家の基準を満たしてはいないのですよ」 神童の兄、リアードと違い、エリカはただの子供だった。 ──私にはリアードの家族でいる資格はない。   そうして涙の中で、孤児院に一人とり残されてから十四年…… 正式に引き取られはしなかったものの。フォンベッシュバルト公の義弟となった兄、リアードの実妹であるエリカは、形式上、フォンベッシュバルト公のある種、義妹という扱いになるのだが── けして認められることも、迎え入れられることもない。エリカが選んだ道は、吸血鬼とは元来敵対関係にあるはずの聖職者だった。 しかし、聖職者の道を歩むため、孤児院を卒業するその日に、エリカは孤児院の門前で傷付き倒れているフォンベッシュバルト公と再開してしまい…… *ちょいちょいシリアス入りますが、緩めのギャグコメ風? ラブコメです。相棒でペットのアヒルちゃん愛にあふれた内容となります。

処理中です...